【乗り越えた先に】
【乗り越えた先に】
何があるかもわからない未知の試み。魔王の次元脱出などァルデピマジュムィダ史にも前例がないことだ。それでも、魔王は一歩踏み出すことを決めた。
……ただ、ここ以上に何もないことはない―――そう信じて。
「そうして、ワシはここに来た。ァルデピマジュムィダと隣り合った次元に」
魔王はすぅと一息吸い込み、胸の内でそれをとどめる。
「思った以上じゃった。何より嬉しかったのは、支配するべき平民がいたこと」
いけしゃあしゃあと言ってのける魔王の表情はアイスを食べている時と同じぐらいきらきらと輝いていた。
「ちょっと待った。お前の言う平民とおれ達は違うだろ」
「否。ほぼ同じじゃ。タカシで試してみて、感覚的なものから確信に変わったぞ」
「おい」
そんなことで平民と断定されても困る。魔王は「隣り合った次元は何かしら似てくるものじゃ」とわけのわからない理屈を述べた。
「まだ平民の生活文化には慣れておらんが、この国の言語はほぼ体得した」
いや、タカシはまだ魔王を異次元人と完全に認めたわけではない。その魔王の容姿だけなら、少し風変わりな帰国子女といったところだ。
「失敬な。この威厳と気品に満ち溢れたオーラを感じぬのか。タカシは不感症か」
「……わかって言ってないだろ、お前」
タカシは眉をひそめ、何か違う魔王の日本語を指摘する。
「というわけで、タカシ、お前をワシの付き人にする。この家に住まわせろ」
「断る」
魔王は本気でショックを受けたようだ。タカシは憤然として言った。
「話は聞いていたが、にわかに信じられん」
「なっ、それでは何も話を聞いていなかったのと変わらんではないか!」
まさにその通りだ。タカシは肯定するようにうなずいた。
「……っ」
魔王の表情が哀しみ、怒り、そして諦めのものと次々に変化していく。
「もうよいっ。平民をアテにしたワシが愚かじゃった!」
くるりときびすを返し、魔王がタカシに背を向けた。




