【フラッシュバック】
【フラッシュバック】
屍の山、膿の川、血反吐の海、救いを求めるうめき声は決まってひとつだった。
『―――助けてください。賢魔王サマ』
本当に何も聞こえなくなるまで、ずっと魔王に囁きかけた。すべての命が死に絶えるまで、ずっと着任したばかりのァルデピマジュムィダの支配者に囁きかけた。
「どうしようもならんのじゃっ! もう、もう何も言わんでくれぇ……っ」
平民の救いを求める声は、常に魔王の力でその耳へと届く。それでも魔王は何もしてやれず、ましてや救うことなど出来やしなかった。
【タカシは再び魔王の腕をつかみにかかる】
「ワシには出来ぬ。出来ぬのじゃっ!」
周りを無視して魔王は泣き叫びながら大きく首を横に振って、強く否定し続けた。
「おいっ!」
見境がつかなくなった魔王はタカシごと思い切り吹き飛ばし、ミツルにぶつけた。物凄い勢いのまま、支えきれずにミツルは派手な音を立てて机や椅子に叩きつけられる。それでも魔王は収まらず、わめき、当たり散らしてから教室を飛び出した。
「ま、魔王ぉおっ!」
アンナが叫び、呼び止めるが聞き入れなかった。続々と登校してきたクラスメイト達はその騒ぎに唖然としている。
「……ッつー!」
「ミツルゥウゥゥウゥウウウウッ! タカシィイッ!」
タカシはごろりと転がり、ミツルの上からどいてから上体だけ起こす。ミツルは駆け寄ったアンナの手を引いてもらい、何とか立ち上がった。しかし、すぐに膝をついてしまった。
「派手にやられたな」
「あぁ。どーも、触れちゃいけないことに触れちゃったみたいだ」
「2人とも大丈夫かぁああぁあっ!」
アンナが頭打ってないか、血は出てないかと尋ねてはおろおろしている。遠巻きのなかからカナが3人の傍に慌てて駆け寄って、何も無いところで派手にこけた。それでもめげずに、タカシとミツルに訊いてきた。
「な、何があったの? 大丈夫?」
「ていうか、そっちこそ大丈夫?」
「う、うん。慣れてるから」
それもどうかと、とミツルは苦笑する。カナがアンナと同様におろおろし、わけもわからず涙目になっている。その間によく気がつく男子生徒が水場まで走り、濡らしたハンカチをミツルに手渡した。
「ありがと。竹迫」
「や、気にしない気にしない」
竹迫は照れ臭そうに笑う。ミツルは濡れたハンカチをあざの出来ているタカシに渡して、自らは頭にこぶが出来ていないか確かめる。
「ん。んー……異常なし」
「バカ言ってんじゃねーよ。お前は保健室行っとけ」
タカシがアンナを促し、強がるミツルを強制連行させる。何しろ投げられたタカシと正面からぶつかり、後ろにあった机や椅子とまともに衝突したのだ。大事を取った方がいいに決まっている。
「おい、タカシ」
「うるせーよ」
「ミツルゥゥウウゥウッ! 動くなよぉおぉおぉおおっ!」
アンナが思うように動けないミツルを担ぎ、最高速度で保健室へ直行する。それを見送ったタカシは竹迫に小さく礼を言ってハンカチを返した。
「……さて、と、あのバカはどこ行ったんだか」
カナが不安げに見つめるなか、タカシは少しふらつきながらアンナとミツルのあとを追うように教室を出て行った。それとほぼ同時に、始業のチャイムが校内に鳴り響くのだった。




