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【タカシの父親】

 【タカシの父親】

 「麻島青果店を建てたのはタカシの父親か」

 「らしいね。でも、実質守ってきたのは母親のミカコさんさ」

 「あの人は同じ女性として憧れるぞぉおっ!」

 「うむ。ミカコはたいしたやつじゃ。料理もうまい」

 アンナが力説するのに魔王がうなずく。朝から晩まで殆ど女手ひとつで青果店で切り盛りし、タカシを養ってきた良妻賢母(りょうさいけんぼ)だ。

 「さて、そのツレが話の問題なのじゃが」

 「ああ、うん。ツレね。……魔王さんは変な言葉を使うよね」

 「そうか?」

 論点がずれて話が進まないので、ミツルは構わず続けることにした。

 「タカシの父親はもう7年も前に家を出たんだ」

 「離婚か」

 「いやいや、そうじゃなくて。本当に家を出て、それから7年も戻ってこないんだ」

 「行方不明か」

 「……うん、まぁ」

 どんなに言葉を選んでも、魔王は簡潔な答えを口にする。

 「もっとわかりやすく言わぬか。それとも、赤の他人をそう言うのは忍びないか? ん?」

 「いや……ん、んん」

 ミツルは口ごもり、なんともいえない表情を見せる。恐らく、魔王のほぼ言う通りなのだろう。

 「タカシの父親は家に書き置きひとつも残さないで姿を消したんだ。もう7年も前に」

 「ほぅ」

 「そうなのかぁあっ!」

 魔王は微塵も動揺を見せないが、アンナはそれを隠しきれていない。どうやら知らなかったようだ。

 「7年か。平民の寿命を考えるとそこそこ長いな」

 「長期出張とか、会社員ならありえなくもないかな……」

 個人商店の店長であり、一家の家主がほぼ無断でそれだけ長く家を空けるというのはそうそう無い話だろう。それに日本では7年も行方不明だと、死亡扱いされる。タカシの父親はリーチがかかっている状態だ。

 「それもタカシから聞いたのか」

 「ま、色々とね。あるの」

 しぃっと人差し指をミツルは自らの口元に当てる。学校に一人は必ずいる情報通。超・生徒会メンバーの時といい、ミツルには何かツテがあるようだった。

 「前々からそういう風に姿を見せなくなることがあったらしい。夢遊病とかの精神病の類かと近所の人は心配したみたいだけど、ミカコさんはいつも笑ってたって」

 聞けば「必ず帰ってくるからね」といつも返したそうだ。それが強がりで、自分自身に言い聞かせていたのかどうかはわからない。

 「で、消えてから何日かしたらまた帰ってきてるんだって。本人は散歩とか言ってたらしいけど、近所の人達は浮気だとか何とか騒いだらしいよ」

 TVの芸人より近くの他人の方がゴシップにしやすく、またその方が面白い。ありもしない噂が広まり、ミカコは肩身の狭い思いをしただろう。

 「でも、タカシの父親は普段は真面目に青果店で働いていたし、そういうことをするような人じゃなかった。むしろ、その人柄で最初は店を繁盛させたんだって」

 「ふむ。なのに、突然姿を消すのか」

 「そー。んで、タカシの父親がどこに行って、何をしているのか。ミカコさんも誰も知らなかった。もちろん、タカシも」

 父親の放浪癖はタカシが野菜の分別がつくようになった頃から始まったという。それが原因だったのか、それまで待っていたのかもわからない。とにかく、日中に姿を消して、真夜中に帰ってくることがたびたび起こるようになった。

 「いなくなる時間とかも長くなって、小さかったタカシもおかしいって感じ始めた。そして、とうとうタカシが小学5年生になった頃……それきりらしい」

 突然いるはずの父親が帰ってこなくなった。店先でいつまで待っても、ずっと帰って来なくなった。同級生に馬鹿にされいじめられても、タカシは信じて待ち続けた。

 「それで態度の悪い、らしからぬ(・・・・・)不良になったんじゃな」

 「や、それは早急過ぎっていうか短絡的かも」

 魔王の言葉にミツルが苦笑する。あながち間違ってはいないかもしれないが、決定打ではないらしいとだけミツルは付け加えた。

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