【今まで聞きそびれていたが】
【今まで聞きそびれていたが】
「タカシに父親はおるのか?」
3人並んで歩く通学路。魔王の何気ない一言が場の空気を凍らせ、そのままピシッビシッとひび割れた。
「……あぁ、そうだよなぁ」
「なんじゃ。その態度は」
ミツルの煮え切らない態度に魔王が鞄ではたき、喝を入れた。それをアンナに気づかれ、何か言われたが気にしなかった。
「いやいや。タカシとか話してない?」
「これでも居候の身じゃ。向こうから何も言わぬ時はこちらも立ち入らぬことにしている」
「それにしちゃ普段の態度はアレだなぁ……」
魔王が何か文句あるのか、と目で訴えかけてきた。ミツルは目で何でもありません、と語った。
「とりあえず、ワシが滞在してから一度も会うたことがない。家のなかにもそれらしい写真も飾られていなかった」
単刀直入に、結論だけ魔王は求めた。歩いていればいつかタカシの家に行き着く。少なくともそれまでに、その話を聞けるかどうかはっきりさせたかったのだ。
【あのタカシの父親は死んだのか?】
「いや、死んでない。―――と思うよ」
「なんじゃ。それは」
ミツルはなんて話したものかと、自らの首筋を軽くかいている。慎重に、言葉を選んでいるようだった。
「……タカシの父親は、放浪癖みたいなのがあるんだ」
「ほほぅ、それはそれは立派な父親じゃ」
魔王の返しに続く言葉が出てこない。当事者ではない赤の他人では何も否定出来ないのだ。ただ、知っていることを伝えるしかない。
「正直俺が話すことじゃないとは思うし、本当はタカシの口から聞いてほしい」
少し表情を曇らせたミツルが、魔王相手に言い訳し続けた。アンナはぎゅっとミツルの制服をつかんだ。
「でも、あえて俺の口で語っておきたい。これからあの家に居続けるなら、第三者でしかない俺の口から予備知識として知っておいてほしい」
「……御託は聞いてやった。さっさと話せ」
腕を組み、ミツルの前に魔王が立ちふさがった。アンナと共にその歩みを止め、ミツルが空を見上げて語りだした。
「カッコつけるでない。たかが平民の思い出話じゃろ」
「そうなんだけどね……」
ミツルは懐から『空気』と書いたメモを魔王に見せると、堂々と「読めぬのぅ」と返された。一瞬でその意図を把握するとは、やはりあなどれない。




