【跳べない魔王は存在しない】
【跳べない魔王は存在しない】
「え―――」
「おぉっ!」
ミツルとアンナの身体は硬直している。それもそのはず、2年の教室があるここは3階だ。3人まとめて落ちて無事ですむような高さじゃない。
「案ずるな。地面はすぐそこ。それより、あまり喋ると舌を噛むぞ」
フフフフと笑い声が漏れる魔王の方がよほど喋っている。そして必死に支えようとしてか、クッションになろうとしてか、アンナがミツルの身体をしっかりとつかんでくる。ミツルも負けじとその役は任せられないと、アンナをかばう体勢を取ろうと必死だ。
「熱いのぅ」
冷静な魔王が2人の様子や動きを感じ取り、そう言った。落ちたら無事ではすまないが、所詮は3階からの落下。走馬灯を見る暇すらなかった。
【見事着地】
その衝撃は驚くほど少なく、無いに等しかった。着地点には誰もいなかったのも幸いだった。
「うむ」
何のダメージも見られない魔王は肩に担いでいたミツルとアンナを放り捨てた。その2人は呆然と、なかなか立ち上がれないでいる。
「どうした? どこか痛めたか」
「はは、腰抜けた……」
「ま、魔王ぉおっ! ちょっとやりすぎだぞぉおっ!」
流石にミツルもアンナもショックが抜けきれないらしい。魔王がやれやれと息をつき、教室を見上げてみるとハヤミや敬い隊をはじめとする多くの生徒達がこちらをのぞきこんでいる。
「……手でも振ってやるべきかのぅ」
「や、そういう問題じゃないって」
ミツルが何とか立ち上がると、アンナの手を引いて立たせてやった。
「何じゃ。逃げることに賛同したのはミツルじゃぞ」
「でもね、普通窓から飛び降りようとは考えないから。いや、魔王さんならやりかねな……やっちゃったんだっけ」
誇らしげに胸を張る魔王にミツルは改めて畏怖を感じた。だが、そこに回復したアンナの手刀が魔王の額にヒットした。
「危ないことはしちゃ駄目なんだぞぉおっ!」
「うぅ、魔王には危ないことなんて無いんじゃ! 第一、おぬしらも無事だから良かったじゃろ」
「そういう問題じゃなぁあいっ!」
ずびしっとアンナがもう一撃食らわせると、流石の魔王もおとなしくなった。これが勇者の力、というやつだろうか。
「あぅ〜! もうわかったわいっ。行くぞ」
憤慨している魔王がすたすたと歩き始めると、ミツルとアンナもその後に続いた。未だに続くこの衰えない視線と注目は、まるで人気グループのコンサートステージのようだった。
「視線が痛いなぁ」
「注目されるのも悪くないじゃろ」
今までにない注目度に魔王は上機嫌だ。これをきっかけにこういった行為に味を占めなけばいいんだけれど、とミツルが案じる。敬い隊の結成許可といい、奇行に近い派手なパフォーマンスが目立ってきたのが気になるところだ。
「魔王様を敬い隊だっけ? あれはもう少し節度を持ってほしいね。授業ちゃんと受けてんのかな」
今日一日中、授業終了のチャイムからほぼ同時に魔王のいる教室へ滑り込んでくるのには閉口した。似たようなアンナは隣のクラスだから良いが、敬い隊のなかには校舎ごと離れた工業科の1年生もいたようだ。
「ぬ。確かに。そこのところはワシの恥にならぬよう、きっちりと躾ける必要があるか」
「そうしてくれる?」
「迷惑をかけさせちゃ駄目だぞぉおっ!」
まともに授業を受けていないだろうこの3人にその筋合いはあるのだろうか。甚だ疑問だった。




