【勇者】
【勇者】
「勇者って。いい加減、アニメか何かから離れてくれ……」
タカシは魔王の話を未だ信じることが出来ないでいる。震え、揺れる身体を抑えながらタカシはそう悲痛な声をあげた。しかし、魔王は聞いていない。
「ウム。勇者とは……もし魔王が平民をいきすぎた支配で苦しめた時、または年老いた魔王の世代交代が近づいた時に平民の中から種族の突然変異と呼べる勇者という存在が複数人現れる」
むぅと下唇を少しだけ尖らせ、やや不満ありげな魔王の表情をタカシは見た。
「そやつらは『魔王』という存在やその力に対して絶大的な抵抗力を持っており、現時の魔王はそやつらに始末される。……抗えども、次元のどこへ身を隠そうとも、必ず見つけ出され倒される。これまでのァルデピマジュムィダ史が物語り、例外はない」
「……勇者ってのがどんだけスゲーのかわからんが、なにも引退寸前の魔王を手にかけることもねぇだろ」
いつの間にか話に乗ってしまっているタカシだが、それは魔王の話をさっさと終わらせるにはと思ってのことかもしれない。
「魔王になった者は寿命で死ぬことは許されぬ。他の眷属とは違い、その身の内にある器に残存したエネルギーを肉体の死と共に暴発させてしまうからじゃ。じゃが勇者に倒された時のみ、エネルギーは現時なる魔王の魂と共に次なる魔王の器へと移行する。いわば魔王継承の儀式・儀礼みたいなもんじゃ……な」
そう言う魔王の顔はわずかに歪んでいた。ほんのわずかに湿り気を帯びた空気に、タカシは何も口には出せなかった。
「魔王を倒し、巨大なエネルギー移行の媒介となる勇者共は死ぬ。どれだけ若く力を持とうとも、元は平民。耐え切れるものではない」
「そうやって次世代の政が開けるのじゃ」と魔王は感慨深げにつぶやく。
何かバツの悪そうな表情を見せ、魔王はその顔をふいとそむけ、タカシから視線をそらした。
「……ちょっと待て、お前、魔王なんだろ」
「先程からそうじゃと、何度も言うておろうが。現にワシの力に屈服したではないか」
魔王の力か何かのせいで思うままに動けないタカシが、反論を試みた。
「まぁ仮にだな、お前が本当に魔王なんだとしたら……どうしてこっちにいるんだ? 何で来た」
タカシの言葉に、魔王の力がわずかに弱くなった気がした。




