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【武島教師の心意気】

 【武島教師の心意気】

 「む、そこまでいくと嫌われそうじゃな」

 「そーでもないんだな。これが」

 ちちちちと人差し指を横に振り、ミツルはそれを否定した。

 「確かに評点は厳しいけどね。でも、この学校の授業のなかじゃ一番わかりやすいよ。一度やったところでも何でも、聞けばわかるまで丁寧に教えてくれる。直接聞きづらかったら、携帯電話・メール・ファックスなんかでもオッケーだし」

 ミツルの、特に最後の話には魔王も流石に目をむいた。ミツルやタカシ達が1年生の時、その1学期の始めにイズシ教師からそれらの番号やアドレスを渡された時も同様に、学年中で驚いたものだった。

 「―――わからなければいつでも聞きに来い。その代わり、授業やテストで出来なければ必ず減点する。……って言った時には驚いたね。ほんとに」

 「すごい先生が来たもんだって驚いたぞぉおっ! ミツルほどじゃないけどなぁああぁぁああぁああっ!」

 ふぅっと息をつきながら、ミツルはアンナの頭を撫でた。ここで引き合いに出される意味はわからなかったが、とりあえず静かにしてもらうには撫でておくのが一番だった。

 「大体わかった。ワシの直感通り、愉快な教師じゃのぅ」

 「ちっとも愉快じゃねーよ。融通利かねーから」

 ぼそりとタカシがそう口に出すが、ミツルは余裕の表情で笑っている。

 「そぉ? 真面目に勉強してれば、きちんと評価してくれるじゃん。タカシの場合は自分に問題があるんじゃない?」

 面と向かって「質問いいですか?」と言えるようなものなら、そういう苦労はしない。電話などの方法でも、パソコンを持っていない人や不得手な人にはやはり敷居が高い。タカシはその両方だった。

 「そもそも勉強しねーやつがどんな方法でも教師に質問なんかすっかよ」

 「かといって、わかんないままだと減点され放題。武島先生も言ってたろ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って」

 実際そういうものだが、タカシは聞く耳を持たない。いや、質問する口を持たなかった。

 「あとは……まぁ、時間の終わりに必ず出す課題も嫌がらせじゃない、とか。次の時間でそれがどれだけ出来てるかで授業進度を変えてるみたいだから」

 「勿論、課題がわからなければ、次の時間までに武島先生に聞けばやり方だけ教えてくれるし」とミツルが付け加えた。イズシ教師が教えるのは解き方と勉強の要領だけで、あくまで答えを出すのは生徒達だ。

 「教育熱心なのは認めるが、学生としては好みがわかれる教師じゃのぅ」

 魔王がどこにでもいる学生らしくつぶやくが、それはどこかおかしかった。

 「でも、武島先生が好きな人は多いよ。俺も教師のなかじゃダントツかもしんない」

 ミツルがそう言うと、撫でられているアンナが突然「ミツルゥゥウゥウゥゥ、浮気はしないでくれぇえぇぇぇええぇぇっ!」と叫んだ。

 「お前が言うと誤解招くからやめとけ」

 アンナが叫べばそれだけ必死にも見て取れるからだ。それにしてもこの大声はイズシ教師減点対象に入っていないのだろうか。

 「授業中は静かにしてるぞぉおっ!」

 「嘘つけ」

 「まぁ、俺が絡んでなければ少し騒がしい程度じゃない?」

 確かにそれは言えている。アンナはミツルが絡むとヒートアップするだけで、普段は少し熱い女子生徒だ。

 「やかましいんじゃぁ……」

 魔王がそろそろ勇者のなかの戦士の叫び声にぐったりしてきた頃、タイミングよく中休み終了のチャイムが鳴った。ミツルは物凄く寂しそうな顔をするアンナの背を押して、手を振って送り出した。

 「ああいう表情されると弱いよなぁ。なんていうか雨のなか助けを求める犬みたいな感じ」

 「あぁ、いるな。ばかでかくて人懐っこくていつまでも離れようとしないやつ」

 想像してみるとぴたりだった。そして、つくづく別のクラスで良かったと改めて安堵(あんど)する。

 「うぅ、あの大声をどうにかしてくれ……かなわんわっ」

 ミツルが席に戻ると、急に弱々しくなった魔王が前に座るタカシの背中にべしべしと八つ当たりした。

 「ってーな。諦めろ。おれみたいに耐性でもつけるんだな」

 「うぬぅ……耐性がつかぬから天敵というのじゃ。愚民め」

 「そうかい。そいつぁいいこと聞いたな」

 魔王がまた何か言ってきたが、タカシは無視を決め込んだ。2時間目の担当教師が出席を取り始めこともあり、背中への攻撃も無くなった。

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