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【8月31日】

  【8月31日】

 日は高く、日差しは暑く、セミの声がうるさく、夏らしい夏の日。立っているだけで汗ばむというのに、肉体労働なんてしていたら滝のように流れ出てくる。

 「ったく、あっちぃな」

 ぎっちりと野菜の詰まった段ボール箱を置いて、一呼吸。首に巻いた手ぬぐいで額の汗をぬぐいながら、タカシはそう呟いた。いくらそう呟いても、気温は下がってくれない。

 「ミカコさん、今日も暑いわねー。トマトちょうだい」

 日傘を差したおばさんがふぅっと息をついて、店先の横に置いてある長イスに腰かけた。開店当初から置かれているこの古臭い長イスだが、意外と買い物客には好評だ。

 「毎度どうも。タカシ、ちょっとそっちお願い」

 「あいよ」

 タカシがトマトののったかごを取り、ざっとビニル袋にあけて移し変える。ついでに隣のキュウリを1本手に取り、それも入れる。

 「300円です。キュウリはおまけっす」

 「ありがと」

 タカシはおばさんから500円玉を受け取り、エプロンのポケットから出したおつりと一緒にビニル袋を渡す。

 「毎日おウチのお手伝いなんかして、えらいわねー。ウチの子に見習わせたいくらい」

 「いや、ま、そうっすかね」

 タカシは無愛想ながら照れてみせ、おばさんのビニル袋に更にキュウリを一本詰め込んだ。

 「あら、どーも。もうね、ウチの子ったら今日の今日まで宿題ため込んじゃって……それでも遊びに行っちゃうんだから」

 「ははーは」

 おばさんが笑いながら店先から離れていくのを、タカシは乾いた笑みで見送った。その背後にはタカシの母、ミカコが立っている。

 「そういやタカシ、あんたは宿題終わったんだろね?」

 「いやー、もうちっと……だな」

 「店、もーいーから、さっさと終わらせてきな」

 ミカコは笑顔で言うが、声は笑っていない。タカシは反論した。

 「もーいーわけねーだろ。まだ開けたばっかだし、忙しくなるのはこれからだろ」

 「だからって、店の手伝いを宿題の言い訳にしてほしくないんだわ」

 「んなまねしねーよ。単におれがバカなだけだ」

 タカシのバカ正直な答えに、ミカコはふぅっとため息を吐いた。

 「それでも、高校行かせてやってんだから。勉強は学生の本分だよ」

 「おれは学生と同時にこの麻島青果の跡取りだ。宿題の残りは店が終わったらやる」

 ミカコに引く気はないが、タカシも頑として聞かずにダンボール箱の野菜をかごに乗せる作業を始める。その背中は誰に似たのか、頑なオーラをまとっている。

 「仕方ないね」とミカコが折れた。

 「あんた、配達行ってきな」

 「配達?」

 タカシはトウモロコシを手に、その動きをぴたりと止めた。ミカコは「そ」と続けた。

 「配達先はトライアングル。あんたの同級生の家だから、ついでに宿題見せてもらってきな」

 「おい、親がそんなこと提案すんのかよ」

 「乗るの乗らないの?」

 ミカコがにんまりと笑うと、タカシは既に汗だくで使い物にならない手ぬぐいを首からはずした。

 「行く」

1話1話の構成はなるべく短く区切ってあります。気楽に読んでくださると嬉しいです。

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