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城水には連れ添って10年になる妻の里子と、今年、小学校へ入学した雄静がいた。本当は静雄と名付けたかった鳥雄だったが、今どきの名じゃないと里子に反対され、仕方なく雄静と名の前後の漢字をひっくり返した経緯があった。決して城水の体内で眠るUFOの潜在意識がその名にさせた訳ではない。
城水の家は山の手の高級住宅地にあった。場違いだったな…と、城水が気づいたときは家の契約が纏まったあとで、すでに遅かった。引っ越しで空いた一軒家で、物件としては申し分ない! と即決したのが運の尽きだった。周囲のすべての家が会社重役、大富豪、芸能人の類で、ブルジョア階級の真っただ中の家だったのである。大聖小学校の一教師とは、とても釣り合いがとれたものではない。それでも、引っ越した最初の頃は、まだよかった。お隣と朝の出勤どきに出食わしても、軽い挨拶程度で住んでいたからだ。それが、半年ばかりした頃、問題が起き始めた。
「あなた、大変! 」
出勤しようと靴を履き終え、城水がドアを開けようとした矢先だった。
「なんだ、出がけに…」
城水は動きを止め、出鼻を挫かれた機嫌悪そうな声で里子を見た。
「奥様会だって!」
「…奥様会? なんだ、それは?」
「この町内の決まりだって言ってらしたの」
「誰が?」
城水は、帰ってからでもいいだろうが…と煙たく思った。