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今、辰夫に起こっていることが原稿中の辰夫にも
そのまま、起こっていた。
辰夫に近付いていた足音は辰夫の書斎の前で
ぴたりと止まった。
ドア一枚を挟んで、確実に誰かが辰夫の書斎の前にいる。
辰夫が息を呑んでいるとドアのノブを回す音がし、
そのあと、ゆっくりと辰夫の書斎のドアが開いた。
原稿の中の辰夫の前にも怪しい影が迫ろうとしている。
『お、お前は誰なんだ!……』
あまりの恐怖で辰夫は半狂乱になった。
だが、辰夫のそんな問いかけにその者は答えなかった。
そして、ゆっくりとその者は辰夫の書斎に
足を踏み入れ始めた。
恐怖が極限に達した辰夫の心臓はその鼓動を止めた。
最後まで原稿を読むことなく……
「先生! いますか?」
いつもの担当編集者の神前の声を聴く前に……
そして、辰夫が詠んでいた原稿は
「……という、わたしが考えた小説の内容はどうでしょうか?
宜しければ、芥先生の感想や意見などを聞かせてもらえると
光栄なのですが……」
と締めくくられていた。
終わり