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「直樹がいうには…… 先生がまだ売れない作家のたまごのときに
ある女性に恋をした。 その女性は我らと少し住む世界が違っていた。
今でいうとアイドル歌手といったところでしょうか……」
書かれている内容に辰夫は心当たりがある。
数年前。 まだ売れない作家のたまごだった辰夫は
あるアイドル歌手に夢中だった。
はじめは一フアンに過ぎなかった辰夫だったが……
あまりの可愛さのアイドル歌手に勝手に恋心を
抱くようになっていた。
「はじめは手紙などを送るだけだった先生だったが……
そのアイドル歌手の可愛さに先生は心を奪われ、
彼女に付きまとうようになったそうです」
確かに辰夫には身に覚えがあった。
彼女と一緒にいたい一身だったのだが彼女は
そう取ってはくれなかった。
辰夫のことを変人扱いした。
だが、辰夫はかまわなかった。
「アイドル歌手に足蹴にされた先生は越えてはいけない
一線を越えてしまったのです。
あろうことに先生はそのアイドル歌手に
家に侵入したのでした」
その文面を見た瞬間、辰夫は眉間にしわをよせた。
辰夫にはそんな覚えがない。
確かに当時、アイドル歌手には夢中だった辰夫だったが
それくらいの分別はついた。
それに今から作家を目指している辰夫が棒を振るような
犯罪を犯すはずがない。
「なんだ! これは?……」
辰夫は憤慨し、読みかけの原稿を机に叩き付けた。
だが、しばらくして、少し冷静を取り戻した辰夫は
『なぜ、この者はわたしの秘密を知っているのだ?……
誰にも言った覚えがないのだが……』
目の前の原稿を見詰めながら、自分の昔のことが
書かれている原稿が気になっていた。
『ヒントはこの原稿の内容の中にあるはずだ!』
辰夫はこの原稿の者が何者かを突き止めようと
再び、机の原稿を手に取り、詠み始めた。
「彼女の部屋はイメージ通りのピンクを基調とした
若い女の子の部屋だった。
彼女の部屋に侵入したは良いものの、どこに潜もうか
彼女の部屋を見廻し、考えた。
クローゼット? 色々なモノはあるモノの
大の大人が隠れそうなモノは見当たらなかった。
しかたがなく、ベットの下に隠れることにした」
妄想としては良く書かれていて、辰夫は
原稿に書かれている内容に引き込まれていった。
「息を凝らし、ベットの下でアイドル歌手の
滝川茉里【たきがわまり】が帰ってくるのを待った。
彼女は先生とは違い、売れっ子で中々、自分の部屋に
戻ってこなかった。 夜中の12時を回ったころだろうか?
彼女はやっと、自分の部屋に戻ってきた。
胸の高鳴りを必死で抑え、ベットの下で息を凝らしていたが
すぐに茉里に幻滅した……」




