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わたし・芥 辰夫【あくた たつお】は作家だ!
自分でいうのもなんだが…… 有名である。
だが、今は落ち目だ!
そんなわたしの苦しみとは裏腹に世間の者達は
わたしの新作を楽しみにしている。
それがかえって、わたしには重荷だ。
そんな苦しい毎日のある日。
辰夫のもとに不可思議な封書が届いた。
その封書には辰夫の住所と名前が書かれているだけで
差し出し主の名前がかかれていなかった。
『なんだ?……』
気持ちが悪いその封書に辰夫は一瞬、怯えたが
毎日、自分の書斎で書けない原稿に向かう退屈のような日々に
飽きていた辰夫はその封書の封を開けた。
その封書の中に入っていたのは100枚以上はある原稿用紙だった。
『またか……』
その原稿用紙を見た瞬間、辰夫はその原稿用紙を机に放り投げた。
辰夫のところには有名な作家である辰夫に意見や感想などを求め、
作家のたまごである者たちが自分の書いた小説を送ってくるのだった。
はじめのうちは辰夫も自分の小説の参考しようと思い、
送ってきた作家のたまご達の拙い小説を読んでいたが……
いまでは詠むのも飽き、原稿を見るのもイヤだった。
「気分転換だ! 気分転換だ!……」
いつものように珈琲を飲むために辰夫は書斎を離れた。
珈琲を持ち、書斎に戻った辰夫は珈琲を一口飲み、一休みすると
またそのまま、机の上に置いた原稿用紙に目が留まった。
いつもなら、そのままゴミ箱に放り込むのだが……
その日の辰夫は違っていた。
「ひさしぶりに詠んでみるか?……」
珈琲を一口飲んで、気分が変わった辰夫は机の上にそのままの
作家のたまごの原稿用紙を手に取り、詠み始めた。
「はじめまして!…… こんな不躾なモノを差し上げ、
申し訳ございません」
その原稿用紙はそんな書き出しから始まっていた。
あきらかにその原稿はいつも辰夫のもとに送られてくる
作家のたまごの小説は違っていた。
『なんだ? この原稿は?……』
奇妙な原稿に辰夫は少し不機嫌になりながらも
いつもとは違う書き出しに惹かれ、原稿の続きを読み進めた。
「どうしても芥先生に聞いてもらいことがありまして……
それは先生にも関わるとても重要なことで……」
『わたしに関わること?……』
辰夫にはまるで身に覚えがない。
「それは数日前のことです。 わたしは友人の赤根直哉から
先生の昔の悪行のことを聞いたのです」
『わたしの悪行?……』
辰夫はますます、意味がわからなかった。
さらに辰夫は原稿を読み進んだ。
「友人の直樹がいうには…… 先生が人には言えない罪を起こしたと言うのだ」
「すぐにはわたしも友人の直樹の話を信じることは出来なかったが……
友人の直樹の話を聞くうちに直樹がいっていることが真実であることを
確信した」