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クリスマスパーティ

 クリスマスに合わせた投稿です。

――――――――

甘さ:★★★★★

苦さ:☆☆☆☆☆

長さ:★★☆☆☆

絡み:★☆☆☆☆

――――――――

 以上の評価です、どうぞ。

 冷え込んだ風が吹いて、思わず身震い。

「ううっ……寒いねー!! 早くいこっ!」

 随分と厚く着込んだ、私の可愛い可愛い先輩が手を差し伸べてきた。反対の手を守っている手袋はこちらの手にはついてなくて、どこに行ったのかというと、私の右手。冷たい左手を、先輩の同じく冷たい右手に触れ合わせると、同じ体温だったらしい、熱くも冷たくもなかった。

 ぎゅっと握って、笑顔の先輩と歩き出す。

 周り中恋人繋ぎをしたカップルが歩いている。勿論、全員が全員じゃないけれど、私達が目立たない程度にはってこと。堂々としていれば案外誰も気に留めない物で、精一杯おめかしした私がそれでも敵わない先輩と、二人幸せそうに歩く姿はクリスマスの街並みにぴったりはまっているみたいだった。

 少し窮屈な先輩の手袋。左手で握る先輩の手は可愛らしくて、羨ましい。小枝が生えたみたいな私の手。嫌いじゃないけど、小学校の頃音楽室のピアノの前に集まっておふざけて弾いた時に、『蜘蛛みたいだね』と言われたから好きにもなれない。

 ぎゅ、と手を握る力を強くしてみれば、先輩は「ん?」と少し赤い頬でこちらを向く。マフラーの中に埋もれた寒がりな先輩。

「先輩、やっぱりパーティ行くの止めませんか?」

「えぇっ!?」

 整った顔は、全校生徒の憧れの的。とまで言うと少し言い過ぎかも知れない。それでも部の男子達は、先輩に話し掛けられるとやたら取り繕った対応になる。女子達は陰口を言ったり、素直に嫉妬したり、憧れたり、私みたいに、恋を、したり。私達の関係は、勿論皆に内緒にしている。部活が嫌いな訳じゃない。けど、この大事な日を先輩と二人きりで恋人で居られないのが、凄く勿体無いことに思える。パーティに行ってしまえば、先輩を独り占め出来ないから。

 けれど先輩は、そんな私の想いを汲み取ってはくれない。

「ど、どしたの!? パーティだよ、ケーキも有るよ、ゲームもするよ、プレゼント交換も!! い、一緒にいこ、ね!!」

 私ブッシュドノエル食べたい! と必死に主張する先輩を見て思わず頬が緩む。だから、心の声をぽんと抑えて、先輩の手をまた優しく握り直した。

「……冗談です、慌てた先輩も可愛いですね」

「っえええぇえ!?!」

 真っ赤になる先輩を引っ張って歩きながら、聖夜は一緒にいられたから良いかな、と前向きに考えることにした。



「……もうやめちゃうの?」

 少し残念そうな先輩の声に思わず心が揺れるけど、ぐっと堪えて行く先の角を指差す。

「曲がったらもう学校ですよ。今日は特別にここまで一緒に来ましたけど、やっぱりこの辺で終わらないと、誰かに見られちゃいます」

 勿論、そんな正論を言っている私だって、先輩と恋人繋ぎのままでいたい。さっきは右手の方が温かかったけど、今は先輩の手で温められた左手がとてもぽかぽかしている。私も手袋は持ってきたけど、薄手だし、地味だし、先輩の手の方がずっと良い。でも、もしも先輩と私の間に噂が立ってしまったら、先輩に迷惑を掛けてしまうかも知れない……それだけじゃなくて、この関係が終わってしまうかも、知れないから。

 放れない先輩の手からゆっくりと右手を引き抜こうとすると。

「……大丈夫だよ、いこっ!!」

「えっ!?」

 ぎゅ、と強く掴まれ、そのまま引っ張られる。ずいずいと歩く先輩は小さな手で放さまいと私の手を握り込んでいて、慌てて早足でついて行く。

「ちょ、ちょっと待って下さい、だって、このままじゃ、」

「良いじゃん! 見られても良い!」

 小柄な先輩を力任せに止めることなんて出来ずに、引かれるままについて行く代わりに言葉で止めようとした。けど先輩は、怒ったようにそう言って、振り返らずに歩いていく。強引な先輩が珍しくてまたついて行くだけになってしまう。何度か口を開こうとしたけれど、止める言葉が出て来なくて、最後に溜め息が漏れた。

「……もう、どうなっても知りませんよ」

「、うんっ!」

 途端、歩みを遅めて私と並び出す先輩。ひょっとして、喜んでいるのだろうか。

 ……どうしよう、可愛い。可愛すぎる。

 先輩の可愛さに負けている間に、部室の前に辿りついてしまった。調理部の部室である家庭科室の扉には、『クリスマスパーティ♪ ※ただし部員だけです!』と部長が描いたどこか真面目な張り紙が有ってガラス向こうの部室は綺麗に飾り付けられていた。

 直ぐに扉の前の私達に気付いた部長が扉を開けて、ちら、と恋人繋ぎの手と、それから半分こされた手袋に視線を向けた。けれど何も言わずに微笑んで、「こんにちは」と挨拶。

「そろそろ始まるよ、ちゃんとケーキ美味しいの作ってきた?」

「私はショートケーキ焼いてきたよ! 準備お疲れさま!」

「ブッシュ・ド・ノエル、作ってきました……もう皆来てるんですか?」

 一般校の調理部にしては人数は多い方じゃないだろうか、部屋の中には十何人か集まっていて、私達を入れると部員15人が揃いそうだった。けど部長は「一人だけ来ないの。 三島、デートだって、ふふ」と悪戯っぽく笑い、それから意味有り気に私達の手を見る物だから、先輩と揃えて頬を赤くしてしまった。

 手の外しどころを見失ったまま、招く部長に部屋の中へ入れられてしまう。端っこに空いた二つの席に慌てて先輩と腰掛けると、そこでやっと手を放した。赤い顔を先輩と見合わせ、思わず笑みがこぼれてしまう。

「なーにー、そこの二人、ラブラブじゃん。クリスマスに当てられたかー?」

 そうからかった女の先輩に、先輩は「手袋忘れちゃったって言うから、こうしてたの」といなしてたけど、私は頬の赤みが増すのを自覚していた。

 やってしまった、間違いなく、噂になってしまう。

 けれど不思議と気恥ずかしさばかりが先立って、不安やあれこれはパーティの後でも良いかな、とそう思えた。



「このブッシュドノエル美味しい! やっぱりお菓子得意だね!」

「先輩の苺も美味しいです」

 ケーキ発表会と題したクリスマスパーティ。勿論カロリーが大変なことになるから、朝食は食べてこなかった。私のブッシュ・ド・ノエルは比較的良く出来ていた方だと思う。けど、けど……先輩のショートケーキは少し出来が悪かったので、取り合えず苺を褒めておいた。

 おいたら、拗ねられてしまった。

「失敗したの分かってるよ……私が得意なのは和菓子だから! あけおめパーティは見ててよね!」

 やっぱり可愛い。勿論先輩のケーキ、取り分完食させて頂きました。

 三年生の先輩は、私の隣で拗ねている誰かさんとは違い、皆レベルが高い物を、出来良く作ってきている。勿論美味しいし、その分食べてしまう。二年生は私の様に無難に置きにいっている者や、勝負して敗北している人が多かった。私もお菓子作りが嫌いな訳ではないけれど、お菓子を作ることよりも家庭料理が好きだから、今年はブッシュ・ド・ノエル。……来年は。

 来年は、どうしているんだろう。先輩と過ごせるクリスマスパーティは、今年で最後だ。先輩と過ごせるクリスマスがもう一度来るかは、分からない。

 そんな考えが浮かんでしまうから、一年生が焼いてきたクッキーなどにもあまり手が付かない。楽しそうにお喋りしながら食べている先輩の横顔をセンチメンタルに見つめながら、ぼうっと時間を過ごしている。



「楽しく無さそうだけど?」

 ジェンガやトランプなどではしゃいでいる先輩。その様子を見ながら壁に凭れていたら、部長が声を掛けてきた。そして視線の先を追われてしまい、慌てて「違いますっ!」と口にする。しまった。

「ふーん…………?」

 明らかに信じてなさそう。にやにやと笑う部長に、慌てて言葉を重ねる。

「ちょ、ちょっと疲れてて、それで、先輩綺麗だから、ぼーっと見てると癒されるっていうか……わ、私と先輩には何も有りませんよ?」

「ふふ、私、楽しく無さそうだけど? って聞いたんだよ?」

 それこそ楽しそうにそう言った部長に、思わず頭を抱えた。

「なーにー、やっぱり付き合ってんの?」

 隣で同じように壁に凭れていた女の先輩も笑いながらそう言ってきて、何も言えないまま黙り込んでしまう。このままじゃ駄目だ、否定しなくては……けれど信じて貰えないだろう、赤い頬は全然引いてくれそうにない。

 可愛らしい先輩の横顔。私なんかと噂が立ってしまっては、大変だ。それに……この関係が終わってしまうなんて、耐えられない。焦って顔が青ざめる私。

 けれど、部長もからかった先輩も、顔を見合わせると苦笑いで肩を竦めた。

「そんなに怯えられちゃうと……別にー、私達も付き合ってたし、ねー?」

「ちょ、それは言わなくても良いでしょ! ……まぁ、別に変なこととか無いから、もっと堂々としてなよ」

「そーそー、折角のクリスマスだし、私達に遠慮しないでいちゃいちゃしなって、ほらー」

「え、あ、えっ!?」

 壁際からテーブルへ、それも先輩のすぐ隣の席に座らされる。突然現れた私に皆びっくりしていて、私の後ろでにやにやしてるだろう二人を見て更に首を傾げているようだ。先輩が「どしたの?」と聞くと、慌てふためいている私の代わりに部長の声が答える。

「壁際で恋しそうな顔してるから……恋人のところに連れてきてあげたよ」

「うえっ!?」

「ひゃあ……」

 部長の言葉に上擦った声で驚く先輩と、この状況にもう頬を真っ赤にするしかない私。周りの皆は始めきょとんとしていて……やがてにやにや笑い出したり、私達に当てられたのか、頬を染める人もいる。テーブルの周りに皆が集まりだし、あれよあれよという間に私達は並んで立たされてしまった。

 囃し立てて、にやにやと笑っていたり、戸惑いながらも恥ずかしそうだったり、男子は嬉しそうに笑っている人もいたけれど……そこに、蔑む様な視線は無かった。勿論、今は表に出してないだけかもしれない。けれど、それがとても嬉しくて。

「えと……あ、えー…………うあ、どど、どーしよ」

 真っ赤なままどもって何も言えなくなっている先輩に、くすり、とどうしてか微笑みが漏れる。恥ずかしい筈だけど、それでも余裕がどこかに生まれて、私は部員皆を見た。

「私達付き合ってます! 皆さん、先輩取っちゃってごめんなさい! でもあげません、私の、私だけの先輩です!」

 少し欲張りに、そう言ってしまえば、すっと何かが軽くなった気がした。

 皆が拍手や口笛をする中、ちらと先輩の顔を見て。

「っ……!」

 慌てて顔を逸らす。今更真っ赤になるのを抑えられない。私を少し見上げている、先輩の顔。その顔が真っ直ぐに私を見ていて、その頬は赤く染まっていて、目が真ん丸で、どこか間が抜けているけれど、それが可愛くて、仕方なくて。真っ直ぐに見てられない。

 目を逸らしている私に、先輩の声が掛かる。

「こっち、見て……」

 甘い、甘い囁き。何が来るか、もう分かってしまった。フラットな付き合いをしていた私達だったから、付き合って三カ月経つけれど、数えるほどしかそれは無かった。だから、だからこそ分かる。皆の見てる前で、そんな、それは、あまりにも。

 けれど、先輩の声は甘くて、甘々で、ケーキなんか目じゃ無いくらいに。

「っ……」

 長くは無かった、けど、しっかりとした、確かなキス。

「ひゃあああああ!!!!」

「やったぁ、良いぞーッ! や、や、きゃあああああ!!」

「おおおぉおおお!?」

「……私が鼻血出そう」

 ……キスの瞬間まで息を潜めていた周りがきゃあきゃあ煩くて雰囲気もぶち壊し。思わず、真っ赤な顔の先輩と、真っ赤な顔のまま、笑う合う。先輩は私の両手をぐっと取ると、そのまま引き寄せて抱き着いてきた。

「……私だけの先輩って、言ってくれたの、す、ごい、嬉しかった…………!」

 声を潜めて、私の耳元でそう囁く先輩。声は震えていて、体も震えていて、泣いているのか、喜び過ぎているのか。分からない、分からないけれど、そんな先輩が愛しくて、私も先輩を包み込む。

 またも黄色い声が飛び、直ぐに苦笑と共に抱擁を終えたけど。

 クリスマスパーティ、参加できて本当に良かった。

 ソフトで甘々なお話。先輩と後輩物でした。

 皆さん百合っぷるが近くにいましたら、優しくしてあげてくださいね!

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