第八話
6月も終わりに近づいた30日。蝉が鳴くにはまだ早い7月手前の夜中。マンションの一室。
深夜ということもあり真昼の太陽は身を潜めていてまだ涼しい。
勇は勉強机にかじりつく様にシャーペン片手に苦悩している。
ノートに何かを書き込んでいた。ノートの上部には『高校生最後の夏休み青春を謳歌するには』と書いてある。
高校卒業を来年に控えていた勇は今年が最後の夏休み。まだ訪れてないというのに計画…というか遊びを書き込んでいた。
『海、プール、祭り』等王道なものがでかでかと粗雑に並んでいて、下部には小さく控え目に『女子とデート?』と書かれている。(他になんかあるか?)
シャーペンを鼻と上唇に挟み両腕を上げ、腰を反らす。後背部からベキっと音が鳴る。拳は何かを握るように虚空を掴む。窓とカーテンを全開にしている部屋は他マンションの間から星が覗いている。
煌めいている星を勇は一瞥してシャーペンを握るが、すぐ机に転がす。
(ラジオでも聞くべ)
ラジカセの電源を入れるとCheap Trickの『Dream Police』が流れていた。
(おぉテンション上がる)
勇は立ち上がるとエアギターを肩に掛ける。
ギターはバンドに憧れ手を出した事はある。だが簡単なコード覚えただけで、挫折してしまった。ギタリストが簡単そうにギターを華麗に操っているのを見ると自分でもと思ってしまったのだ。
だがそんなに甘いものじゃないと身を持って思い知った。
部屋の片隅にギターが鎮座しているが、長い期間手入れをしていないため埃がかぶり所々降雪した様に白く染まっている。弦に至っては焦げたみたいに茶黒く変色し錆ていた。世界には自分しかいないような錯覚を抱きながら流れる音楽に合わせエアギターを弾きながら口ずさむ。
「勇うるせえぞ!!」
隣室から優子の怒声が聞こえた勇は体を震わす。
「ヒッ!メンゴメンゴ」
何か既視感を覚えた勇は思い出す。
(そういえばラジオから声が聞こえたん今の時間ぐらいだったな)
枕元にある時計を見る。
時間は日にち変更間近の11時59分。(…聞いてみっかな)
丁度曲が終わる頃で、よしっと意気込むとボリューム部分をゼロに持っていく。時計に視線を送る。12時丁度を針が指す。
その時だ――
(ザーッザ『ななのつきにいきます』ザーーー)
「ギャーーーっ!!」
恐怖心が一気に押し寄せ声を聞いた瞬間勇は絶叫した。
今度こそ確実に聞こえたその声は女性のものだった。年齢は確できないが、どこか幼さを残す『それ』は少女のようだった。