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地底温泉・みすず屋

 みすず屋に到着したのは午後の一時頃でした。正式には地底温泉旅館・みすず屋です。


 みすず屋は、キャノン・シティのほぼ中央、『ドマンナカ・パーク』に隣接した結構広い施設です。イメージ的にはディズニーランドの駐車場のスペースが、公園と温泉旅館にななったと考えれば想像しやすいでしょう。

 基本的にはキャノン所属の宇宙飛行士が専用に使用する施設で、一般の職員は宿泊することは出来ません。ですが、温泉だけは誰でも無料で利用する事ができます。


 私達は入り口正面の路上でゴンドラから下ろされて、ぞろぞろとメインエントランスに向かって歩いていました。入り口からメインエントランスまでは五十メーターぐらいありますが、そこには派手な格好をした先輩達が私達を待ち構えていました。


「新入生の皆さん。本日は生徒会主導のクラブ勧誘イベントを開催しています。旅館に入る前に是非、各クラブのブースを見学していってください」


 メガネをかけたちょっと理知的な男子の先輩がメガホンで叫んでいます。道の両脇にはスチール製の勉強机が十数台並べられており、その後ろにそれぞれ2~3人の先輩方がいて呼び込みを行っていました。


「温泉卓球同好会に入りませんか?」


「宇宙園芸部は部員を募集していまーっす」


「みすず限定、ビーチバレー同好会はいかがですか?」


「シンクロナイズド宇宙遊泳部は若い力を必要としています」


「世界で唯一、本物の宇宙で天体観測しましょう、天文部です」


「来たれナイロンソックススケート同好会」


「十年後のオリンピック競技、宇宙ヨット部で金メダルを掴もう」


 先輩達は必死に呼び込みを行っていました。聞いた限りでは、此処と宇宙両方で活動できるクラブは無いみたいです。


「なぁ、何か面白そうじゃん」


 かなちゃんが目をキラキラさせて言いました。


「で? かなちゃんはどのクラブに興味があるのかな?」


 たまちゃんが胡散臭そうに先輩達を観察しながら言いました。声を張り上げて勧誘していないクラブにも訳のわからないものが沢山あるみたいです。


「あたしはやっぱビーチバレーかな?リゾートぽくていいじゃん。蒼い空、白い砂浜、トロピカル・カクテル、憧れるなぁ」


「そうですねぇ」


 京子ちゃんも同意してるみたいです。


「たまちゃんは、どうなの?」


 私はたまちゃんに聞いてみました。

 すると、一瞬でたまちゃんの目が鋭くなり背景に鬼火が燃えるようなオタクオーラが現れます。


「私はあれだ!」


 たまちゃんが指差した先には「宇宙探検同好会」というプラカードがありました。

 皆がその怪しさに「オオォ」と唸ります。


「その隣の『ハリケーン・クラブ』というのにも興味はあるが、やはり宇宙飛行士になったからには宇宙探検だろう」


 私が出会った頃のたまちゃんは何処にいったのでしょうか? 最近メッキがはがれて地が出てきてるような気がします。


「それじゃこうしましょう。みすず屋ではビーチバレー部、軌道上では宇宙探検同好会で」


 京子ちゃんがおっしゃったことに全員同意です。

 私達はそれぞれのクラブに仮入部の手続きをしてゴロゴロと旅館に入っていきました。


 何の違和感も無く私達はクラブ活動の手続きをしましたが、一年生の殆んどが本当は気付いているのです。この巨砲学園ではクラブにでもはいっていなければみんなそれぞれバラバラになってしまうと。


 地球と宇宙を行き来する予定の私達がずーっとお友達でいる為には、地上と宇宙で同じクラブに入っていなければ友達関係を維持するのは難しそうです。だから皆躊躇無くクラブに入ることを受け入れます。それは私達だけではなく、一年生全員がそう感じているはずです。


 もし、私達が普通の女子高生だったら、話はもうちょっと違ってたかな?と私は頭の隅で考えましたが、この学校に入って身についた環境適応力のおかげで深くは悩みません。


「たまちゃーん、お腹減ったよぅ」


「あたしもペコペコだぁ~」


 私とかなちゃんは、旅館に入った途端たまちゃんに自然の欲求をぶつけました。

 たまちゃんはその予習能力の高さと面倒見のよさから私達のグループのリーダー(マネージャー?)的存在になっています。きっとたまちゃんの脳みその中には、この旅館の見取り図がインプットされているはずです。


「あなたたち、我慢という言葉を知ってるかい?」


 たまちゃんは呆れ顔で私とかなちゃんを見ますが、フッと深いため息をつくと諦め顔で続けました。


「取りあえず、この荷物を私達の部屋に置いてから、案内してやる。奥に軽食コーナーがあったはずだから」


 そういってさっさと旅館の廊下をパタパタと先に立って歩いていきました。

 私達もそんなたまちゃんを追いかけます。


 みすず屋は、純和風の温泉旅館です。平屋建てなのでピカピカに磨き上げられた木張りの廊下が果てしなく続きます。

 平均十畳の畳敷きの部屋は、障子と襖で区切られていて江戸時代にタイムスリップしたみたいです。いたるところに中庭があって、各部屋からそこに出れるように縁側がついています。

 私達は四人でその部屋に泊まるんです。

 私はお布団を敷いて寝るのは初めてなので、楽しみだなぁ~。


 私達は荷物を部屋に置くと、軽食コーナーで堀テーブルに腰掛けて遅いお昼ご飯を食べ始めました。


「なあ、気が付いたか?」


 かなちゃんが大盛り焼きそばをかきこむ箸を止めていいました。


「ふぁふぃヴぁ(なにが)?」


 私はアメリカンドックを口に突っ込んだまま聞きました。


「男子の姿がすごく多いんだよ」


 言われてみればその通りです。この軽食コーナーで食事をしている人たちも私の知らない男子生徒がかなりいます。


「先輩達だよ」


 たまちゃんは当然のようにいいました。

 たまちゃんが食べてるのは、納豆・冷奴定食です。


「一期生と二期生のの先輩方は、殆んどが男子だ」


「へーそうなんだ」


 かなちゃんがそう言って辺りを見回すと、明らかにその視線を逸らそうと顔を別方向に振り向ける男子が十人以上もいます。

 かなちゃんはびっくりして下を向いて赤くなっちゃいました。


「私からの忠告だ、いいか? 先輩方は多くて二年間、少なくとも一年間の間ほぼ禁欲生活を続けてきている。

 ごく一部の幸運な男子生徒を除いてな」


 たまちゃんは一旦箸を置いて、結構真剣な目でいいました。

 皆はゴキュッと喉を鳴らします。


「これから暫くは、上級生による新入生狩りが始まるだろう」


「新入生狩り?」


 私は訳がわからないのでたまちゃんに聞き返します。


「ばか、新入生の女の子の品定めだよ」


「あらまあ」


 プリンアラモード・クレープをかじっていた京子ちゃんがびっくりします。


「私はともかく、高校生活で『素敵なラブ』をゲットしようとしてるならば、女子として最高度の警戒態勢で『ねこかぶり』をするべきじゃないのか? 君達」


「んんん、それはそうだが、あたしはそんな高度なスキルは持ってないぞ、ましてやあきなんか全然ないし」


 かなちゃんが声を潜めていいました。なんかちょっとむかつく~。


「まあ、我々四人の中では、京子が最強だな。メガネっ子で天然だし」


 メガネっ子ってもてるんですかぁ~@@


「そんなの、偏見ですよ、かなさん」


 京子ちゃんがもじもじしていいました。

 あ、こりゃ天然だわ。とさすがの私も納得します。


「だから、人生最大のチャンスを生かすんだったら、この一週間もてたい奴はブリッコで押し通すんだ」


 たまちゃんはそういうと、再び行儀よく食事を始めました。

 かなちゃんは半分ほど残った大盛り焼きそばを恨めしそうに眺めると箸を完全に置いてしまいました。


 すげ~、やっぱもてたいのかよ?

 たまちゃんは論外です。私の所有物だし~そもそも赤面症で男の子と話せないし。(…でも、注目される事には興味があるのかな?)


 ん~、私は、どうなんだろう?今のところ男の子とそういう関係になるなんて想像できないな~。興味があるのはバインバインだけだし?

 まあそのうちなんとかなるでしょ?


 みすず屋の合宿生活は始まったばかりなのだから。


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