施設見学実習って?
「おい、そこのチビッ子」
そんなハナキュンの声が、ファンタジーに浸っていた私を現実に引き戻しました。
たまちゃんが私のわき腹を小突いています。
え? ええ? 私の事ですか?
「お前の事だ、高城」
ハナキュンは、意地悪そうに胸の前で腕を組んで言いました。
そんなことをすると、先生の胸のバインバインがズギュンズギュンになって、もっとエロエロになっちゃうのに……
「は、はい」
私はおどおどと返事をします。
「これから、発射施設『パウダー・チェンバー』に降りてゆくが、トラブルを起こすんじゃないぞ? たとえば、迷子になったりとか、マイゴになったりとか、マイゴニナッタリとかだ!」
ウキャー、ハナキュンは私の普段からの習性を熟知しておられますぅ。
「そこでだ、一ツ橋。これを使え」
ハナキュンはにやりと笑って、犬の首輪を取り出しました。
「せ、先生……そ、それはいくらなんでも?」
たまちゃんの言葉に先生は、頭をポリポリとかきながら「チッ」と舌打ちしました。
「わたくし、一橋珠樹が責任を持って引率しますから、そこらへんの野良犬みたいにあきちゃんを扱わないでください!」
うんうん、そうだよそうだよ、たまちゃん。
「ちゃんと、あきちゃん専用の『手錠』を用意してあります。」
たまちゃんは、得意そうにシャキーンと手錠を取り出して先生にアピールしました。
クラス全員が、「オオォー」と賛嘆の声を上げます。
たまちゃ~~ん(涙)。
「よし、これで問題は解決したな? さあ、着いたぞ、みんな降りるんだ」
ゴンドラは、みんなを乗せてターミナル部の半ばを横断しJR巨砲駅の搬入ゲートの近くまで来て停車しました。
私はたまちゃんにガチャンと手錠で繋がれてキリキリと引き立てられます。たまちゃんの裏切り者~。
「あきちゃん、ちょっとの辛抱よ。こうしてれば織田先生も安心して油断するわ」
たまちゃんは、こっそりと優しく私に微笑みかけながら言いました。
「そ、そうだよね~。」
私は寒いスマイルで応答します。だ・か・ら・何の油断ですか?
「ここは、巨砲駅の貨物搬入ゲートだ。ここから、B2のバレット組み立て区画とB3の『パウダー・チェンバー』に降りるGエスに乗る」
ハナキュンは、搬入ゲートとは反対側の一見なにもない道路の向こうを指差して言いました。
「えー? 何も見えないよ」
「先生、Gエスってなんですか?」
私達は一生懸命目を凝らしてみますが、それらしい物は見当たりません。全員がキョロキョロとGエス探していた時、百メーターほど先の道路にガシャン! と大きな音を立てて二メーターほどの金属製のフェンスが立ち上がりました。
「な、なんだありゃ?」
倉山君が驚きの声を上げます。
私達が今立っている搬入道路は幅が四十メーター程ありますが、ほぼその幅いっぱいのフェンスです。そしてそのフェンスは人が歩くくらいの速さでどんどん奥に遠ざかっていきます。
「あれが『ギガント・エスカレーター』略してGエスだ」
ハナキュンが自慢げに説明します。
ま、まさか、この道路の先全部がエスカレーターですと?一昔前の有名なアニメなんかには傾斜型エレベーター床みたいな設定がありましたが、どこのおバカさんがこんな巨大なエスカレーターを考えついたのでしょうか?
その時私達の後ろから「キュラ、キュラ、キュラ………」というキャタピラー音に酷似した音が聞こえてきました。
私達が後ろを振り向くと、JRリニアの列車が、床下から生えたキャタピラーで列を成してこっちに進んでくるではありませんか。
「おお、来た来た。JRリニアの自走型コンテナ車両だ。お前ら運がいいぞ、あいつがB2に直接向かうことは案外少ないからな」
何てことでしょう? 私には列車がそのまま歩いているとしか思えません。
「なあ、お前ら。私は思うんだが、いくらその物について本で勉強したとしても、実際に見て触って体験した知識には敵わないとは思わないか?」
ハナキュンは、唖然としている私達に教師っぽくご高説を垂れています。
私は技術がすごいとかそういうことに唖然としていた訳ではなく、ただどんなおバカさんがこのシステムを考えたのかということに呆れていただけなのに。
「よし、それじゃあ全員、このコンテナ車と一緒に下に降りるか」
ハナキュンと私達は、ゾロゾロとコンテナ車に乗ってB2へと降りるGエスに乗り込みました。
そして、その後私はたまちゃんにキリキリと引き立てられ(たまちゃんが手錠の鍵を忘れてきたため、おしっこをするのがすごく恥ずかしかったですが)キャノンの全施設を見学し、夕食をターミナル部のファミレスで食べてからくたくたになって学校の寮に戻った訳です。
私が、この施設見学実習を通じて感じた事は、莫大な予算をかけて膨大な施設が作られているという事実です。つまり、遊びじゃないっていうか、僅か二ヶ月前まで唯のバカな女子高生だった私が国の重要なプロジェクトに関わっているんだなぁという感じ?
漠然と公務員に成れたらいいなあと思っていた私も、多分地元の同年代の友達と会って話をしたら、この学園生活をどうやって相手に説明して上げればいいのかまったく解りません@@
ああ、環境ってこういう物なのか?と実感せざる負えない私がいます。私これでも女子高生なのかなぁ?
「おい、あき。どうしたんだ?」
私はパジャマに着替えて寮の自分のベットの上で何だか悲しくなってボロボロ泣いてしまいました。浴衣のたまちゃんが心配して隣に座って抱きしめてくれます。
私は「役得、役得」と心の中で呟く事も忘れてたまちゃんの柔らかい胸にそっと顔を埋めて泣きました。
たまちゃんはよしよしと頭を撫でてくれます。
こんな気持ちは、男の子には絶対わからないでしょう。今日は悪夢を見そうな気がします。
こうして施設見学実習は終わったのでした。
ちょっぴり短めですがUPです。
細かい部分を修正しました。