story of 2
―――六郷土手―――
多摩川が近いせいか頬を擦る風が突き刺さる。
しかし相変わらずのように走り続ける少女を止めようと俺も走り続けたせいか体の底から温かくなってきた。
着けていたマフラーは何処かへ飛んでいってしまった。
息切れは絶えず純白であるがものの雪は降る様子はない。
19時…何時もならこの時間には家に着いていてゆっくりとしていたはずだ…だのに…
「お前!!それ以上進むと…」
「うるさい!ついてこないでって言ったでしょ!?」
1度は見失ったものの少女は多摩川の1本橋に勢いよく走っていた。
行動からしてあの女の考える事はほぼ単調であると仮定付ける事が出来る。何故なら…態々見つかりたく無いのなら路線から外れると言うこと。
二つに、運動に突出した女性に思考深い人間は居ないと言うこと。
最後に…………
ずかぁっ!!!!
周りをよく見ないって事だ。
「だから言っただろ!それ以上思い切り走ると緑の半透明の壁にぶつかって頭にデカイたんこぶ作るって!その通りになってんじゃねえかよ!」
と言うわけで目を渦巻きにし、倒れる可愛い気違いを多摩川の上で看病する事にした。
勿論、フラグが立ったと言うことは口を開いてはいけない。
〇
俺は昔から「中途半端に万能な」男の子と言われてきた。まあ小学生の頃までだけだったのだが…
要するに、テストは俺の取った点数が平均点。ドッジボールも自ら進んで元外に行き、内野の仲間にボールを渡すだけの人間だった。
この例えすら中途半端なのである。絵画だってダヴィンチの技法に憧れを抱いておきながらデッサンまでしか行った事がない。
それが故に小学生の頃は虐められる対象となっていたのだ。「てめえドッジボールするとき元外行ってばっかじゃねえか」だの「おい日原テスト何点だ」と弄られる格好の相手だったのだ。口数の少ない割には何故か気の強かった俺はいつもこう流していた。
―――しょうがないだろ?
こうすれば…こう言えば何とかなっていたんだ。平凡な人間なんだから仕方がないんだよって自らにも言い聞かせていた。
するとどうだ。周りから友達はどんどん離れて行く…自然と苛めは虐めへと変化して行った。
机には俺を罵倒する言葉が刻まれ
下駄箱は泥団子置き場となっていた。
「ったく…しっかり石灰つけてるじゃねえか」
と何となく同情し、俺も日々固くなる泥団子を育てていた。
そんな俺が変わりだしたのは中学2年の頃だったか…妙な夢を見てからは、成績も跳ね上がり持久力もほぼ無限へと感じるようになり、男子からも女子からも愛されるようになったな。所謂、モテモテだ。
要するに俺はただ単に道具なんだ。
要らねえときは見放され、いざ万能になると人間寄ってたかってくる。
まさに原罪だ。人間は罪深きポリス的生き物なのだ。
そんなこんなで今…かわいい長髪を看病…ってか寝かしてるだけなんだが…しているわけだ。