story of 18
目の前には肌色の肉のかたまり…。正直、今この状況になっても信じられない。ついさっきまで野球部の連中とランニングをしていた途中だったのに。
息を切らした伶と、ぐったりとしてしまったマッチョ。この二人のせいで俺はわざわざ全速力なんかで走らされるのだ。
伶はともかく、おっさんはもういい年した大人なんだからしっかりしてほしいものだ。
「 坊主!!上!上!」
リーダー格の好青年が、なにか必死に伝えようとしている。
「 上?うえ…!!」
赤ん坊の平手…!
まさか!そんな早くに次の攻撃を放てるのか?!
まずい…!もう避けきれない!
「 もうだめだ…!」
ああ…人生ってこんなかんじに終わってしまうのか…。例えば俺がうまれた確率を二分の一としよう。そして、神奈川に生まれた確率で、四十七×二、つまりき九十四分の一。そのなかでも、東京にいたか、神奈川にいたかで百八十八分の一…。どんどん今死ぬ確率へともっていくととんでもない数になるなぁ。
あーあ。おれなんか、よりどころのない人生だった。たとい、運動神経がよくなっても、勉強が出来ようとも、誰も俺に近づこうとはせずに、自分のために俺を利用していただけだったんだ。全く…今まで俺は何を見ていたのかな。名誉?地位?死ぬ直前になってもよくわからないままだ。
あ、もう柔らかそうで誰かの血の赤がにじんでる赤ん坊の手が、真上にある。これで…おわり…か
「 やめてええええ!!!!!」
幸野さんの悲鳴がぼんやりと頭に響く。ああ、なんとなく頭がもやもやと痛い。なんだろうこの痛みは。考えるという行為をやめさせられるような…。焦らされてるときのあのような痛みにも感じる。
ああ…。そろそろかなぁ…こうやって、すくっと立って、赤ん坊の手が来るのを待つ。
「早く逃げて!」
幸野さんが小さいからだを懸命に強ばらせてこちらに叫ぶ。いい加減、もう諦めたらいいのに。
とは言え、赤ん坊の手ってのはこんなに遅いのか?それとも、死を前にすると何もかもが遅く見えるっていうあれか?
「早く逃げてって言ってるでしょう」
いやちょっと待て。なにか様子がおかしい。宙を舞っている砂ぼこりがかたまっている。
マッチョからしたたる汗も中に浮いたままだ。つまてことは…?