story of 1
電車はあの薄緑で半透明な壁にまるで吸い寄せられる磁石かのように衝突し、粉々に砕け散ったのだが…
道行く爺婆にいくら問いても気違いを見下すかのような目線で見られ、いくら野球部に問いても疲れてるんすよと汗臭く言うのみであった。
そのせいで東京から都外に出る電車は全て運行止め。平凡な人生のプランを立てていた俺にはあまりにも刺激の強いものであった。
とは言ってもだなぁ…
人が多すぎな気がすんだよ。
いくら都外に行きたい人間でもよぉ…
まあ確かに仕方がない。
過去に比べて東京の地価が飛躍的に跳ね上がったもんだからドーナツ化現象がより強くなったんだよな。
今日公民の教科書に載ってたんだ。
「おぉ…母ちゃん?…うん。そうなんだよ。え?神奈川は大丈夫?ああそう。ならいいんだ。はーい」
親思いなサラリーマンは会社での態度を脱ぎ捨てて母親の安否を確認していた。
と…言うことは…我々東京に居る者のみが生き残り周りの県が陥没やら何やらしたのではなく
―――俺達が東京に閉じ込められた。
その解釈をするものは少なくとも俺を合わせて数える程しかない。
最早居ないと考えてもおかしくはないだろう。
何故かって?
あの電車の衝突を見たのは俺しか居ないからな。
電車が止まっているなら全ての交通機関も立ち往生状態だろう。
ただ電波はすり抜けられるはず。電話ができるんだ。でないと圏外になる………
「って!?おい!!!!」
不意に俺の前に立っていた女子高生が線路におりた!
「何ですか」
「何ですかじゃねえよ!!ひかれるってば!!」
「電車、今走ってないし良いでしよ?電車がだめなら私が歩いて行くの!」
少し長い髪の毛をはらっとしながら振り返ったその頭のおかしい女子高生は案外整った顔立ちで…って言うか可愛い。
可愛い可愛い!
「………可愛い」
「……は?とにかく放して。関係無いでしょあなたには」
妙にさばさばした可愛い女子高生は手首を掴んだ俺の手を振り払い、走って多摩川方面へ行ってしまった。
「待てって!」
ホームから飛び降り俺も追いかける。それでも走り続けて逃げてしまう彼女を駅の人間の冷たい目を脇目に俺はただひたすら鞄をもって追いかけるのみだった。
「ついてこないで!!どうせあなたも私をおかしいって言うんでしょ?」
ホームを抜けて女子高生が走りながらこちらを見て言った。
「何がだよ!」
大声をかけるが返事がない。
それにしてもあの女、妙に足早くないか?俺が結構本気で走っているのに追い付かねえとは…
なにもんだ?てか…何で俺はこんなことしてんだろ。