記憶の中の父親
ミルクに何も言わず投稿。
別にいいよね?そういうのも承知しているはずです。
――――どうして親父が出てくるんだ!
ガナッシュは廊下を駆け足で進みながら胸の中で呟いた。そしてそのまま、物置にしている小さな部屋へ駆け込む。
薄暗い部屋で膝を抱えて、その間に顔をうずめて、すべてを遮断した。もう父親のことを考えなくてもいいように。
しかし心を闇に追いやり、空っぽにすればするほど父親のことが頭に浮かぶ。ふわふわと漂う記憶の中から、ひとつの情景が浮かび上がってきた――――。
ガナッシュとミルフィーユがまだ幼かった頃。まだ二人が『ガナッシュとミルフィーユ』ではなく、『彰と耀』だった頃のこと。
「おとしゃん。どこ行くの?」
おぼつかない足取りで父の足にしがみついたミルフィーユは、上目づかいで彼を見つめた。その後ろから、同じくよちよちとガナッシュがついてくる。
『お父さんは仕事にいくんだよ』
そういう父は、いつも家を出ていく黒いんだけど派手な服(今考えれば自分たちの着てる店の制服)ではなくて、シンプルな白いセーターを着ていた。
『あきら。ひかる』
父は小さな二人をそっと抱き上げると、目を合わせた。
『お前たちに名前をあげよう』
意味が分からずにきょとんとしている二人に笑いかけて、父は口を開いた。
『あきらはガナッシュ』『ひかるはミルフィーユ』
彼は少し嬉しそうに言いながら二人を下に降ろす。意味も分からずニコニコしているミルフィーユと、首を傾げて不思議そうな顔をしているガナッシュの二人の頭を交互に撫でて、優しく言った。
『お前たちは双子なんだから、お互いに助け合って立派にお父さんの跡を継いでくれよ』
「「うんっ!」」
元気よく答えた二人の息子を見て、彼は満足そうに微笑むとポケットから何かを出した。それは綺麗に包装された二つのパウンドケーキだった。
ほのかに焼き色のついたそれは、幼い二人のハートをがっちりつかんだ。
「うわあ!」「美味しそう!」
包みを夢中で開けている二人を横目に、父は奥から出てきた母と少し話をしていた。そして、二人がパウンドケーキを食べ終わるころには父はそこにはおらず、一度も戻ってはこなかった――――。
ガナッシュもミルフィーユも最初の頃はよく意味が分からなかった。ただ戻ってこなくて少しさみしい、というくらいで。
しかし大きくなるにつれ、二人は父親の存在の大きさを思い知った。周りはみんな父親がいて、ケンカしたり、物をねだったりしている。だが二人にはそれはできない。
ガナッシュにはそれが重くのしかかり、父親への感情は、次第に憎しみへと変わっていったのだった。
東海の方で地震がありましたね……。
あんまり揺れませんでしたが。怖いよー