番外編 ―― とある日のカインとリーリア
【とある春の朝】
旅を始めて、三ヶ月が経った。
カインとリーリアは、小さな村の宿屋で朝を迎えていた。
「カイン、起きて」
リーリアの声で、カインは目を覚ました。
「……ん、もう朝か」
「朝よ。ほら、いい天気」
窓から差し込む光が、リーリアの銀髪を輝かせていた。
カインは思わず見惚れた。
「……何?」
「いや、綺麗だなと思って」
「もう、朝から何言ってるの」
リーリアが照れたように顔を背けた。
でも、その耳が赤くなっているのを、カインは見逃さなかった。
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【朝食】
宿屋の食堂で、二人は朝食を取っていた。
パンとスープ、それに卵料理。
質素だが、温かい食事だ。
「このスープ、美味しいね」
「ああ。……ヘレナのスープには敵わないけどな」
「ふふ、そうね」
リーリアが笑った。
「ヘレナさん、元気かな」
「クロウがいるから、大丈夫だろ。……あいつ、酒場の手伝いしてるらしいし」
「クロウさん、似合わないわね」
「だな」
二人は笑い合った。
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【依頼】
朝食の後、村長が二人のところに来た。
「旅の方、少しお願いがあるのですが……」
「何かあったんですか?」
リーリアが訊いた。
「実は、村の子供が熱を出して……医者もいないし、薬も効かなくて……」
カインとリーリアは顔を見合わせた。
「診せてください」
カインが言った。
「俺たちで、力になれるかもしれない」
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【治療】
村長の家で、カインは子供を診ていた。
「……傷からの感染だな。放っておくと危ない」
「治せる?」
「ああ。道具があれば」
カインは道具箱を開けた。
処刑人の道具。
でも今は、「救うための道具」だ。
「リーリア、手を貸してくれ」
「うん」
リーリアが子供の傍に座り、淡い光を放った。
痛みを和らげる、癒しの光。
カインはその間に、傷口を消毒し、縫合した。
【逆縫】の技術は、こういう時にも役に立つ。
「体を縫う」技術は、傷を塞ぐ技術でもあるのだ。
「……終わった」
「熱、下がってきたわ」
子供の顔色が、徐々に良くなっていく。
村長が涙を流した。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」
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【報酬】
村を出る時、村長がパンと干し肉を持ってきた。
「これしかありませんが……どうか、受け取ってください」
「いいのに……」
「いいえ、お願いします。……命を救ってもらったんですから」
カインは、その言葉に少し照れた。
「……ありがとうございます」
リーリアがパンを受け取った。
「大切にいただきます」
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【道中】
村を離れ、二人は街道を歩いていた。
「ねえ、カイン」
「何だ」
「私たち、いい仕事してるよね」
「……そうだな」
カインは空を見上げた。
青い空。白い雲。穏やかな風。
「昔は、こんな日が来るなんて思わなかった」
「私も」
リーリアがカインの手を握った。
「でも、今は毎日が楽しい」
「……ああ」
カインは、その手を握り返した。
「俺も、楽しい」
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【夕暮れ】
日が傾いてきた。
二人は、丘の上で休憩していた。
眼下には、小さな町が見える。
今夜は、あそこで泊まることになるだろう。
「カイン」
「何だ」
「私、あなたと旅ができて、幸せ」
カインは、リーリアを見た。
夕日に照らされた彼女の顔が、輝いていた。
「……俺もだ」
「本当?」
「ああ。本当だ」
カインは、リーリアの肩を抱いた。
「お前と出会えて、俺は変われた。……お前がいなかったら、俺は今でも『出来損ない』のままだった」
「そんなことない。あなたは最初から、素敵な人だったわ」
「……ありがとう」
二人は、夕日を見つめた。
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【名前】
「ねえ、カイン」
「何だ」
「名前、呼んでいい?」
「いつも呼んでるだろ」
「もう一回、呼びたいの」
カインは苦笑した。
「好きなだけ呼べよ」
リーリアが、カインの顔を覗き込んだ。
「カイン」
「……何だ」
「大好き」
カインの顔が、赤くなった。
「……急に何だよ」
「言いたかったの」
リーリアが笑った。
「だって、私たち、名前を呼び合える関係になったんだもの。……何度でも言いたいわ」
カインは、リーリアの頭を撫でた。
「……俺もだ」
「え?」
「俺も、好きだ。……リーリア」
リーリアの目に、涙が浮かんだ。
「……うん」
二人は、夕日の中で抱き合った。
処刑人の息子と、聖女。
でも今は、ただのカインとリーリア。
名前のある日々は、これからもずっと続いていく。
本編完結後の、とある日のカインとリーリアでした。
二人は各地を旅しながら、人々を救っています。
処刑人の技術と、聖女の力。
かつては「死」と「生贄」のためのものだった力が、
今は「救い」のために使われています。
彼らの旅は、まだまだ続きます。
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『処刑人の息子は聖女を救えない』番外編
完




