第二十九話「浄化の刻」
お読みいただきありがとうございます。
リーリアの浄化が始まりました。
そして、「マルタは元気だ」の真実が、ついに明かされます。
四十年前、父は何を願い、何を託したのか。
全ての謎が、解き明かされます。
リーリアの手が、黒い球体に触れた。
瞬間、凄まじい光が放たれた。
「あああああっ……!」
リーリアの悲鳴が響いた。
闇が、彼女の中に流れ込んでくる。
それを浄化するために、彼女は自分の全てを燃やしていた。
「リーリア!」
カインが駆け寄った。
彼女の体は、光と闇が混ざり合い、今にも崩壊しそうだった。
【激痛】
「カイン……痛い……」
リーリアが涙を流した。
「体が、バラバラになりそう……」
「俺がいる。離さない」
カインはリーリアを抱きしめた。
そして、針を取り出した。
【逆縫】。
体ではなく、心を縫う技。
「俺の意識を、お前に繋げる」
カインは自分の腕に針を刺した。
同時に、リーリアの手を握る。
二人の意識が、混ざり合った。
【深層】
気がつくと、カインは見知らぬ場所にいた。
光と闇が渦巻く空間。
リーリアの精神世界だ。
「ここは……」
目の前に、誰かが立っていた。
若い女性。銀色の髪。優しい目。
……リーリアに、よく似ている。
「あなたは……」
「私は、マルタ」
女性が微笑んだ。
「四十年前の、私の記憶よ」
【四十年前】
マルタの姿が、若い男の姿と重なった。
ギルバート。
四十年前の、若き処刑人。
「俺は、このシステムを壊せない」
ギルバートが言った。
「でも、希望を繋ぐことはできる」
「ギルバートさん……」
「マルタ。お前を逃がす。……そして、お前に託したいものがある」
ギルバートが、小さな袋をマルタに渡した。
「これは……」
「『始祖聖女の血脈』を絶やさないための、種だ」
ギルバートが続けた。
「いつか、本物の聖女が現れる。……その時、お前がその子を守ってくれ」
「私が……?」
「ああ。お前なら、できる」
マルタは涙を流しながら頷いた。
「分かりました。……私が、希望を守ります」
ギルバートは、マルタの手を握った。
「……すまない。俺は、ここから逃げられない」
「ギルバートさん……」
「いつか、俺を否定してくれる子が生まれることを願うよ」
ギルバートが自嘲気味に笑った。
しかし、その目には切実な祈りが宿っていた。
「俺のようにはならない。俺を超えていく。……そんな子が」
【合言葉】
「いつか、俺の子が現れるかもしれない」
ギルバートが言った。
「『殺せない処刑人』。……俺と同じ、欠陥を持った子が」
「欠陥……?」
「いや、欠陥じゃない。……俺が持てなかった、強さだ」
ギルバートが微笑んだ。
「その子が、全てを変えてくれるかもしれない。……俺が変えられなかった、この世界を」
「……」
「その時が来たら、合言葉を送ってくれ」
「合言葉?」
「『マルタは元気だ』」
ギルバートが言った。
「それが俺に届いた時、俺は……息子を信じて、全てを託す」
【真実】
カインは、その光景を見ていた。
涙が、止まらなかった。
親父は、最初から俺を信じていた。
「出来損ない」と呼んだのは、俺を処刑人にしたくなかったから。
「カイン」という名前を付けたのは、俺に希望を託していたから。
マルタ婆が「マルタは元気だ」と言った時、
それは「希望はまだ生きている」という暗号だった。
俺は、四十年前から待たれていた。
父に。マルタ婆に。……そして、リーリアに。
「カイン」
マルタの声が聞こえた。
「あなたが来てくれて、よかった」
「マルタ婆……」
「私は、四十年間待っていました。……あなたのような人を」
マルタが微笑んだ。
「リーリアを、お願いします。……彼女を、救ってあげて」
【目覚め】
カインの意識が、現実に戻った。
リーリアを抱きしめたまま、黒い球体の前にいた。
リーリアの体は、まだ光と闇の間で揺れている。
浄化は、まだ終わっていない。
「リーリア……聞こえるか」
「カイン……苦しい……もう、限界……」
「諦めるな」
カインはリーリアを強く抱きしめた。
「俺は、四十年前から待たれていた。……お前を救うために」
「……」
「親父も、マルタ婆も、みんな信じてくれていた。……俺なら、お前を救えるって」
カインの声が、リーリアの心に響いた。
「だから、俺も信じる。……お前なら、この闇を消せる」
「カイン……」
「約束しただろ。全部終わったら、俺の名前を呼んでくれって」
カインが微笑んだ。
「俺は、その約束を果たしたい。……だから、諦めるな」
リーリアの目から、涙が溢れた。
「……うん」
彼女は、最後の力を振り絞った。
「私、やる。……絶対に、終わらせる」
リーリアの体から、眩い光が放たれた。
最初は白い光だった。
しかし、カインの腕の中で、その光は徐々に変化していった。
白から、温かな黄金色へ。
まるで鍛冶の炎のような、力強くも優しい輝き。
カインの名が持つ「鍛造」の意味を宿したかのように。
二人の光が、一つになっていた。
浄化が、完成に向かっていた。
第29話、「浄化の刻」でした。
「マルタは元気だ」の真実が明かされました。
四十年前、ギルバートはマルタに希望を託していた。
「いつか、殺せない処刑人が現れる。その子が、全てを変える」と。
カインは、生まれた時から待たれていた存在でした。
父の愛は、「出来損ない」という言葉の裏に、ずっと隠されていたのです。
次回、浄化の完成。
そして、新しい世界の始まり。
「マルタの真実がヤバい!」「父の愛に泣いた!」と思っていただけたら、
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