第二十八話「封印の間」
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扉の向こうに広がるのは、全ての元凶。
「原初の闇」との対峙が、今始まります。
そして、バラバラだった家族が、初めて一つになる。
封印の扉が、開いた。
その向こうに広がっていたのは、闇だった。
光を拒絶する空間。
松明の火さえ、数歩先で呑み込まれて消える。
「これが……封印の間」
カインが息を呑んだ。
空間の中央に、黒い球体が浮かんでいた。
脈動するように蠢いている。
まるで、巨大な心臓のように。
「あれが『原初の闇』か……」
クロウが呟いた。
「近づくな。……触れただけで、魂を喰われる」
【重圧】
一歩、足を踏み入れた瞬間、カインは感じた。
体が、重い。
希望が、吸い取られていく感覚。
「カイン……」
リーリアが膝をついた。
「大丈夫か!」
「平気……でも、何か、引っ張られてる……」
リーリアの体が、淡く光り始めた。
同時に、黒い球体も脈動を強めた。
「共鳴が、強くなってる……」
クロウが顔を歪めた。
「このままじゃ、聖女の力が闇に呑み込まれるぞ」
「どうすればいい」
「俺が、道を作る」
クロウが前に出た。
【クロウの贖罪】
「道を作る?」
「俺は元審問官だ。……闇の術を、少しは知っている」
クロウが両手を広げた。
「闇の浸食を、俺の体で受け止める。……その間に、お前らは核心まで行け」
「待て、それじゃお前が……!」
「構わない」
クロウが振り返った。
その目には、覚悟があった。
「俺は、ずっと償いを探していた。……ヘレナの息子を殺した罪を」
「……」
「これが、俺の贖罪だ」
クロウが闇に向かって歩き出した。
黒い触手のようなものが、クロウに絡みついた。
彼の体が、闇に浸食されていく。
「くっ……!」
だが、クロウは止まらなかった。
「行け、カイン! 聖女を連れて、あの球体まで!」
「クロウ……!」
「俺の闇は、お前らの光を守るために使う……!」
クロウの体が、黒く染まっていく。
皮膚が焼けるような痛み。魂が削られる音が聞こえるようだった。
だが、その口元は、どこか満足げに綻んでいた。
(……ヘレナ。これで、少しは償えたかな)
クロウの周囲だけ、闇が薄くなった。
道が、開かれた。
【後方】
同じ頃、封印の間の外。
ギルバートとアベルは、扉の前に立っていた。
「追手が来る」
ギルバートが言った。
「教会の兵士たちだ。……数は多い」
「……」
アベルは黙っていた。
涙の跡が、まだ頬に残っている。
「アベル」
ギルバートが息子を見た。
「戦えるか」
「……分からない」
アベルが正直に答えた。
「俺は、何のために剣を振るえばいいのか、分からなくなった」
「そうか」
ギルバートが微かに笑った。
「なら、俺と同じだ」
「……親父?」
「俺も、四十年間、分からなかった。……何のために、この剣を振るっているのか」
ギルバートが処刑剣を構えた。
「だが、今は違う」
「……」
「今は、息子たちを守るために振るう。……それだけで、十分だ」
アベルは、父の背中を見つめた。
そして、地面に落ちていた双剣を拾い上げた。
「……俺も、戦う」
「いいのか」
「分からない。……でも、ここで逃げたら、セスに笑われる」
アベルが父の隣に立った。
「親父。……一緒に、戦おう」
ギルバートは、息子を見た。
「……ああ」
父と長兄が、並んで立った。
教会の兵士たちが、押し寄せてくる。
「来い」
ギルバートが剣を構えた。
「ヴェルデ家の処刑人が、相手をしてやる」
兵士たちが襲いかかってきた。
ギルバートの剣が、淀みなく敵を薙ぎ払う。
四十年の経験が凝縮された、完璧な剣筋。
一方、アベルの動きは、以前とは違っていた。
予測に頼らない。
泥臭く、必死に、一人一人と向き合う戦い方。
斬られた腕から血が流れる。
痛い。でも、その痛みが、自分が生きている証だと分かった。
(……セス。これが、お前の言っていた「不完全な強さ」か)
アベルは、初めて笑いながら戦っていた。
【共鳴】
封印の間の中。
カインはリーリアの手を引いて、闘の中を進んでいた。
クロウが作った道を、駆け抜ける。
「リーリア、大丈夫か!」
「うん……でも、引っ張られる……!」
リーリアの体から、光が溢れ出していた。
同時に、黒い球体からも、闇が触手のように伸びてくる。
「浄化」と「浸食」が、彼女の中で拮抗している。
「もう少しだ……!」
カインは芯剣を握りしめた。
黒い球体が、目の前にあった。
「カイン……」
リーリアが立ち止まった。
「私、分かる。……あの闇を、消す方法が」
「本当か」
「うん。でも……」
リーリアの目に、涙が浮かんだ。
「怖い。……失敗したら、世界が終わる」
「失敗しない」
カインがリーリアの手を握った。
「お前なら、できる。……俺が、そばにいる」
「カイン……」
「最初に約束しただろ。全部終わったら、俺の名前を呼んでくれって」
カインが微笑んだ。
「俺は、その約束を守るためにここにいる。……だから、お前も信じろ」
リーリアは涙を拭いた。
そして、頷いた。
「……うん。信じる」
リーリアが、黒い球体に手を伸ばした。
彼女の体から、眩い光が放たれた。
浄化が、始まった。
第28話、「封印の間」でした。
クロウが、自らの体で闇を受け止め、道を作りました。
これが、彼の贖罪。
ギルバートとアベルは、並んで後方を守っています。
バラバラだった家族が、初めて一つの目的のために繋がりました。
そして、リーリアの浄化が始まりました。
「原初の闇」を消し去ることができるのか。
次回、浄化の行方。
そして、「マルタは元気だ」の真意が明かされます。
「クロウの贖罪が熱い!」「家族の結集がエモい!」と思っていただけたら、
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