第二十七話「アベルの敗北」
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長兄アベルとの因縁に、ついに決着がつきます。
「完璧な処刑人」は、何を失い、何を取り戻すのか。
そして、地下では父から息子へ、「あるもの」が託されます。
大聖堂の前。
アベルとセスの戦いは、終盤を迎えていた。
セスは満身創痍だった。
もはや剣を握る力も残っていない。
だが、まだ立っている。
「……なぜだ」
アベルが呟いた。
「なぜ、まだ立っている」
「さあな……」
セスが笑った。
「俺にも、分からない」
【予測の外】
アベルは、セスを見つめていた。
理解できない。
この男の動きが、予測できない。
処刑人の型に沿っていない。
論理的な判断をしていない。
ただ、感情のままに動いている。
「死を恐れながら、死に向かってくる」
その矛盾した動きが、アベルの演算を狂わせていた。
「お前は……」
アベルが言葉を詰まらせた。
「何のために、戦っている」
「何のため、か」
セスが血を吐きながら答えた。
「……分からない。でも、ここで逃げたら、俺は俺じゃなくなる」
「意味が分からない」
「だろうな」
セスが笑った。
「俺も、分からない。……でも、これが俺の答えだ」
【恐怖】
アベルの胸に、何かが芽生えた。
冷たい。
心臓が、縮むような感覚。
……これは、何だ。
「恐怖」だ。
かつて自分が削ぎ落としたはずの感情。
セスの目を見ていると、それが蘇ってくる。
死を恐れながら、それでも立ち向かってくる目。
論理では説明できない、「生」への執着。
その目が、アベルに「人間」を思い出させる。
「やめろ……」
アベルが呟いた。
「俺を、見るな」
「何だ、急に」
「その目で、俺を見るな……!」
アベルが双剣を振り上げた。
だが、その手が震えていた。
【最後の一撃】
セスは、アベルの様子を見ていた。
……震えている。
完璧だったはずの兄が、震えている。
「アベル」
セスが一歩、前に出た。
「俺は、お前を倒しに来たんじゃない」
「何……?」
「お前を、連れ戻しに来たんだ」
セスが剣を捨てた。
「何を……」
アベルは反応できなかった。
セスが、素手で向かってきている。
攻撃ではない。
では、何だ。
処刑人の予測演算が、この動きを処理できない。
セスが、アベルに飛びついた。
そして、抱きしめた。
【兄弟】
「……何を、している」
アベルの声が、震えていた。
「兄さん」
セスが呟いた。
「お前は、ずっと一人で戦ってきたんだな」
「……」
「完璧にならなきゃいけないと思ってた。感情を捨てなきゃいけないと思ってた。……でも、それは嘘だ」
セスが続けた。
「お前の双剣、震えてただろ。……お前は、まだ人間だ」
「黙れ……」
アベルが抵抗しようとした。
だが、体が動かない。
セスの腕が、それを許さない。
「離せ……俺は、完璧な処刑人だ。感情など……」
「嘘だ」
セスが言い切った。
「お前は、怖かったんだろ。一人で、全部背負って。……誰にも頼れなくて」
「……」
「もういいんだ、兄さん。……一人で戦わなくていい」
アベルの目から、涙が流れた。
本人も気づかないまま。
削ぎ落としたはずの感情が、溢れ出していた。
【瓦解】
アベルの双剣が、地面に落ちた。
カラン、と乾いた音が響いた。
「……なぜだ」
アベルが呟いた。
「なぜ、俺は……泣いている」
「それが、人間だからだ」
セスが答えた。
「俺たちは、不完全だ。泣いて、笑って、怖がって。……でも、それでいいんだ」
アベルは、弟の肩に顔を埋めた。
「俺は……間違っていたのか」
「分からない。でも、一人で背負う必要はなかった」
「……」
「俺たちは、兄弟だ。……一緒に背負えばよかったんだ」
アベルの体から、力が抜けた。
「完璧な処刑人」は、敗北した。
だが、それは剣の敗北ではなかった。
「人間」としての、帰還だった。
【継承】
同じ頃、封印の間の前。
ギルバートは、カインを見つめていた。
「……お前は、俺を超えた」
「親父……」
「俺が四十年間、見つけられなかった答えを、お前は見つけた」
ギルバートが、懐から何かを取り出した。
それは、刃のない剣だった。
「これは……」
「『芯剣』。俺がマルタを逃がした夜、自ら刃を折った剣だ」
ギルバートがカインに差し出した。
「お前に、これを託す」
「託す……?」
「この剣には、刃がない。……殺すことができない剣だ」
ギルバートが続けた。
「だが、お前の【逆縫】と合わせれば、『救うための剣』になる」
カインは、芯剣を受け取った。
刃のない剣。
父が、処刑人を辞めたかった証。
「親父……」
「行け、カイン」
ギルバートが微かに笑った。
「お前なら、俺ができなかったことを成し遂げられる」
「……ありがとう」
カインは芯剣を握りしめた。
そして、封印の間の扉に向かった。
「リーリア、クロウ。行くぞ」
「ああ」
「うん……!」
三人は、扉を開けた。
最終決戦の舞台が、今、開かれた。
第27話、「アベルの敗北」でした。
アベルは、セスに「抱きしめられて」敗北しました。
剣ではなく、感情に。
「完璧な処刑人」は、人間に戻りました。
削ぎ落としたはずの涙が、溢れ出していました。
そして、ギルバートからカインへ、「芯剣」が継承されました。
刃のない剣。殺せない剣。
それが、【逆縫】と合わさり、「救うための剣」になる。
次回、封印の間へ。
「原初の闇」との対峙が始まります。
「アベルの涙がヤバい!」「芯剣の継承が熱い!」と思っていただけたら、
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