第二十一話「潜伏と再会」
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王都に潜入したカインたち。
そこで再会したのは、意外な人物でした。
かつての敵、次兄セス。
彼は、独房の中で何を思っていたのか。
王都での潜伏生活が始まった。
カインとリーリアは、ヘレナの酒場『母の揺り籠』の屋根裏部屋に身を隠していた。
日中は外出を控え、夜だけ街の様子を探る。
灰の民の協力者たちが、教会の動きを報告してくれる。
「大聖堂の警備が強化されてる」
クロウが地図を広げた。
「アベルが指揮を執ってるらしい。……お前らを待ち構えてるな」
「だろうな」
カインは窓から大聖堂を見つめた。
夜の闇に浮かぶ白い塔。
あそこに、全ての答えがある。
「正面から突破するのは無理だ。……別の方法を考えないと」
【情報】
数日後、灰の民の一人が重要な情報を持ってきた。
「教会の地下牢に、ヴェルデ家の人間が幽閉されてるらしい」
「ヴェルデ家の……?」
カインは眉を顰めた。
「誰だ」
「次男だ。聖女を逃がした責任を問われて、処刑待ちだと」
カインの目が見開かれた。
「セス兄が……」
「知り合いか」
「……兄だ」
クロウが驚いた顔をした。
「お前の兄が、幽閉されてるのか」
「ああ。……俺が、仮死の薬で殺さずに済ませた相手だ」
【決断】
その夜、カインはヘレナの酒場で考え込んでいた。
リーリアが隣に座った。
「セスを、助けに行くの?」
「……分からない」
カインは正直に答えた。
「セス兄は、俺を殺そうとした。お前も殺そうとした。……敵だ」
「でも、助けたいと思ってる?」
「……」
カインは黙った。
セスは敵だ。それは間違いない。
でも、同時に兄でもある。
同じ家で育ち、同じ父に育てられた。
「セス兄は、俺と違って『普通』だった」
カインが呟いた。
「俺みたいな『欠陥』がなかった。だから、処刑人の道を外れられなかった」
「……」
「あいつは、俺を見下していた。でも、本当は羨んでいたのかもしれない。……逃げられた俺を」
カインは立ち上がった。
「会いに行く」
「え?」
「セス兄に、会いに行く。……話を聞きたい」
【潜入】
翌日の深夜。
カインは単身で、教会の地下牢に潜入した。
灰の民から得た情報を頼りに、警備の隙を突く。
処刑人として培った技術が、ここで役に立った。
地下牢は、湿った空気と腐臭に満ちていた。
どこかで水滴が落ちる音が、規則的に響いている。
時折、奥の独房から罪人のうめき声が聞こえた。
この場所で何日も過ごせば、正気を保つのは難しいだろう。
いくつもの独房が並んでいる。
その奥に、一人の男が座っていた。
痩せ細った体。伸びきった髪。虚ろな目。
「……セス兄」
カインが声をかけた。
男が顔を上げた。
「誰だ……」
「俺だ。カインだ」
セスの目が、わずかに焦点を結んだ。
「カイン……? お前、なぜ……」
「話を聞きに来た」
【独房】
カインは格子越しにセスを見つめた。
かつて自分を見下していた兄は、見る影もなく衰弱していた。
「……お前、なぜここに」
セスが掠れた声で言った。
「教会を壊しに来た」
「何……?」
「聖女を生贄にするシステムを、終わらせる」
セスが目を見開いた。
「お前、正気か……。アベルがいるんだぞ。親父もいる。……勝てるわけがない」
「それでも、やる」
カインは真っ直ぐにセスを見た。
「セス兄。教えてくれ。……アベル兄は、今どうなっている」
【アベルの狂気】
セスは長い間、黙っていた。
やがて、震える声で話し始めた。
「アベルは……変わった」
「変わった?」
「お前が聖女を連れて逃げた後、あいつは……さらに『完璧』になった」
セスが体を震わせた。
「感情が、完全に消えた。俺が幽閉された時、一度だけ面会に来た。……あの目を見て、俺は理解した」
「何を」
「あいつにとって、俺はもう『弟』じゃない。『処理対象』だ」
セスが顔を覆った。
「『お前は失敗した。だから処分される』……そう言われた。何の感情もなく」
カインは黙って聞いていた。
「俺は怖い。アベルが怖い。……あいつは、もう人間じゃない」
【なぜ殺さなかった】
沈黙が落ちた。
やがて、セスが顔を上げた。
「カイン。……一つ、訊いていいか」
「何だ」
「お前は、なぜ俺を殺さなかった」
カインは少し考えた。
「……殺す必要がなかったからだ」
「それだけか」
「それだけだ」
セスが苦笑した。
「お前は昔から、そうだったな。……殺さなくていいなら、殺さない。単純で、馬鹿正直で」
「……」
「俺は、お前を『出来損ない』だと思っていた。処刑人なのに殺せない、欠陥品だと」
セスが俯いた。
「でも、今なら分かる。……お前の『欠陥』は、俺にはないものだった」
「セス兄……」
「俺には、止まる理由がなかった。だから、アベルのようになろうとして……なれなくて……歪んだまま、ここまで来た」
【出来損ない】
カインは格子に手をかけた。
「セス兄。お前は、出来損ないなんかじゃない」
「……何?」
「お前は、アベル兄になれなかった。でも、それは『失敗』じゃない」
カインが言った。
「アベル兄のようになれなかったから、お前はまだ『人間』でいられる」
セスが目を見開いた。
「俺も、お前も、『完璧な処刑人』にはなれなかった。……でも、それでいいんだ」
カインは続けた。
「不完全なままでいい。……それが、俺たちの強さだ」
セスは何も言えなかった。
ただ、目から涙が溢れていた。
【脱出】
「セス兄。ここから出ろ」
カインが鍵を取り出した。
潜入の途中で、看守から奪ったものだ。
「出て、どうする」
「俺たちと一緒に来い」
「……俺を、信用するのか」
「信用してない」
カインが正直に言った。
「でも、お前は俺の兄だ。……見捨てるつもりはない」
セスは呆然とカインを見つめた。
そして、力なく笑った。
「……お前は、本当に馬鹿だな」
「よく言われる」
カインが格子を開けた。
「行くぞ。……リーリアたちが待ってる」
セスはよろめきながら立ち上がった。
「カイン」
「何だ」
「……ありがとう」
カインは何も言わず、ただ手を差し出した。
セスはその手を見つめた。
そして、自分の手を見た。
汚れて、痩せ細った、みすぼらしい手。
一瞬、躊躇した。
こんな手で、弟の手を取っていいのか。
自分にはそんな資格が……。
「早くしろ。見つかる」
カインの声で、セスは顔を上げた。
弟の目は、真っ直ぐだった。
資格があるとかないとか、そんなことは関係ない。
ただ、手を差し出している。
セスがその手を取った。
兄弟は、初めて対等に手を繋いだ。
第21話、次兄セスとの再会でした。
かつての敵が、独房で変わっていました。
アベルの「狂気」に怯え、自分の「不完全さ」を嘆いていたセス。
カインは彼に言いました。
「不完全なままでいい。それが俺たちの強さだ」
処刑人の息子たちが、初めて手を繋ぎました。
これは、ヴェルデ家の「再生」の始まりです。
「セスの変化がエモい!」「兄弟の和解が熱い!」と思っていただけたら、
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