第十九話「王都潜入」
お読みいただきありがとうございます。
いよいよ、舞台は因縁の王都へ。
追手の目を欺きながら、カインたちは敵の本拠地へと向かいます。
そして、クロウの過去が明かされます。
廃屋を発って、五日が経った。
カインたちは森を抜け、街道を避けながら王都を目指していた。
「そろそろ変装が必要だな」
クロウが立ち止まった。
「ここから先は、教会の目が厳しくなる。……お前らの顔は、手配書で広まってる」
「どうする」
「俺に任せろ」
クロウが荷物から布の包みを取り出した。
中には、質素な旅人の衣服が入っていた。
【変装】
カインは処刑人の外套を脱ぎ、農民風の上着に着替えた。
「リーリアは、その銀髪が目立つ」
「分かってる」
リーリアが頭巾を深く被った。
「これでいい?」
「ああ。……ただ、目を伏せていろ。お前の目は、見る者を惹きつける」
リーリアが少し照れたように俯いた。
クロウが地図を広げた。
「王都への正規ルートは、全て検問がある。……俺たちは、別の道を使う」
「別の道?」
「地下水路だ」
クロウが地図の一点を指差した。
「王都の下には、古代から続く地下道がある。表向きは下水道だが、一部は古い地下墓地と繋がっている」
「地下墓地……」
「教会は『穢れた場所』として封印している。だから、警備が薄い」
カインは地図を見つめた。
その地下道には、見覚えがあった。
「……俺は、この道を知っている」
「何?」
「幼い頃、一度だけ親父に連れられて通ったことがある。……死体処理のために」
クロウが目を細めた。
「……処刑人の家は、この道を使っていたのか」
「ああ。処刑された罪人の遺体を、人目につかないように運ぶために」
カインは苦い記憶を振り払った。
「とにかく、道は分かる。……案内できる」
【移動】
三人は街道を外れ、森の中を進んだ。
日が傾き始めた頃、クロウが足を止めた。
「今日はここで野営だ。……明日の夜に、地下道の入り口に着く」
カインとリーリアは頷き、野営の準備を始めた。
焚き火を囲み、簡単な食事を取る。
「なあ、クロウ」
カインが口を開いた。
「お前は、なぜ教会を憎んでいる」
クロウの手が、一瞬止まった。
「……前にも言っただろう。腐敗を見てきたからだ」
「それだけじゃないだろう」
カインはクロウを見つめた。
「お前の目には、もっと深い何かがある。……個人的な、恨みのようなものが」
クロウは長い間、黙っていた。
【クロウの過去】
焚き火の炎が、クロウの顔を照らしていた。
「……俺は、優秀な審問官だった」
やがて、クロウが口を開いた。
「異端者を見つけ出し、裁く。……それが俺の仕事だった」
「……」
「若い頃は、正義だと思っていた。神に仕え、世界を守っている。……そう信じていた」
クロウが焚き火を見つめる。
「ある日、俺は命令を受けた。『ある少年を異端者として告発しろ』と」
「少年……?」
「十二歳の、ただの子供だった。罪なんてない。……ただ、その母親が教会の高官に逆らっただけだ」
カインは黙って聞いていた。
「俺は……命令に従った」
クロウの声が、低くなった。
「少年は処刑された。……俺が、手を下した」
【救えなかった命】
リーリアが息を呑んだ。
「その時、俺は気づいた。……教会に『正義』なんてない。あるのは権力と、それを維持するための暴力だけだ」
クロウが顔を上げた。
「俺は教会を離れた。……でも、あの少年は戻ってこない」
「……その少年の母親は」
「生きている。……王都で、酒場を営んでいる」
クロウが苦笑した。
「俺が教会を裏切った後、彼女を訪ねた。……殺されると思った」
「殺されなかったのか」
「ああ。彼女は……俺を許してくれた」
クロウの目に、複雑な光が宿った。
「『あなたを憎んでも、息子は戻らない』と言われた。……その言葉が、今も胸に刺さっている」
クロウが小さく息を吐いた。
「彼女が淹れてくれたスープは、今まで食べたどんなものより苦かった。……許されることが、こんなに辛いとは思わなかった」
「……」
「だから、俺は教会を潰したい。……あの少年のような犠牲者を、これ以上出さないために」
【贖罪】
カインは焚き火を見つめた。
クロウの過去は、重かった。
でも、それは彼が「悪人」だからではない。
システムに組み込まれ、抗えなかった一人の人間の話だ。
「お前は、その女将に会いに行くのか」
「ああ。彼女は王都で、俺たちの拠点を提供してくれる」
「……信用できるのか」
「分からない」
クロウが正直に答えた。
「でも、彼女は教会を憎んでいる。……それだけは、確かだ」
カインは頷いた。
「分かった。……お前を信じる」
クロウが少し驚いたような顔をした。
「……俺は、お前の敵だった審問官だぞ」
「過去の話だ」
カインが言った。
「今のお前は、俺たちの仲間だ。……違うか?」
クロウは黙っていた。
そして、小さく笑った。
「……お前、甘いな」
「よく言われる」
「だが、嫌いじゃない」
クロウが立ち上がった。
「明日は早い。……寝ろ」
【王都】
翌日の夕暮れ。
三人は丘の上に立っていた。
眼下に、王都が広がっている。
高い城壁。密集した家々。
そして、その中心に聳え立つ大聖堂。
夕焼けに染まった白亜の建物は、まるで血を浴びた墓標のように見えた。
あそこで、何人もの聖女が「生贄」として消えていったのだ。
「……大きいな」
カインが呟いた。
「あそこが、教会の本拠地だ」
クロウが大聖堂を指差した。
「あの地下に、『原初の闇』が封印されている。……そして、お前たちを追う連中の総本山でもある」
カインは大聖堂を見つめた。
かつて、あの場所でリーリアは処刑されるはずだった。
俺は、そこから彼女を救い出した。
「……あの時は、逃げるだけで精一杯だった」
「今は?」
リーリアが訊いた。
カインは拳を握った。
「今は……倒すべき城に見える」
リーリアがカインの隣に立った。
「私も。……もう、逃げない」
二人は並んで、王都を見下ろした。
かつて自分たちを殺そうとした場所。
今は、自分たちが壊しに行く場所。
「行こう」
カインが言った。
「王都へ」
第19話、王都潜入への道のりでした。
クロウの過去が明かされました。
かつて「救えなかった少年」。
その贖罪が、彼を動かしています。
そして、三人は王都を見下ろしました。
逃げる場所から、倒すべき城へ。
視点が、完全に変わりました。
次回、地下水路を通って王都へ潜入。
いよいよ、最終決戦への舞台が整います。
「クロウの過去が重い!」「王都編楽しみ!」と思っていただけたら、
下にある【☆☆☆☆☆】マークで応援をお願いします!




