第十八話「聖女計画の全貌」
お読みいただきありがとうございます。
分遣隊から奪った文書。
その中には、想像を絶する「真実」が記されていました。
聖女とは、何のために存在するのか。
その答えが、ついに明かされます。
【逆縫】の訓練を始めて、三日が経った。
カインの動きは、少しずつ形になりつつある。
まだ実戦で使えるレベルではないが、確実に進歩していた。
その日の夕方。
クロウが深刻な顔で、カインとリーリアを呼んだ。
「文書の解読が終わった」
クロウの手には、分遣隊から奪った羊皮紙の束があった。
「……で、何が書いてあった」
「座れ。……立ったまま聞くには、重すぎる話だ」
【聖女計画】
廃屋の中、三人は車座になって座った。
クロウが羊皮紙を広げる。
「まず、表向きの『聖女計画』から説明する」
クロウが指で文字をなぞった。
「歴代の聖女は、教会の権威を維持するための『象徴』として利用されてきた。……これは、お前らも知ってるな」
「ああ。偽りの奇跡で、民を騙していた」
「そうだ。だが、それは『表向き』の話だ」
クロウの目が鋭くなった。
「本当の『聖女計画』は、もっと古い。……数千年前から続いている」
「数千年……?」
リーリアが息を呑んだ。
【封印】
「この世界には、『災厄』が眠っている」
クロウが言った。
「数千年前、世界を滅ぼしかけた『何か』。神話では『神が封じた魔』とされている」
「……神話の話か」
「いや。実在する」
クロウが別の羊皮紙を取り出した。
そこには、古代の図面が描かれていた。
「王都の地下深く。大聖堂の真下に、『それ』は封印されている」
カインは図面を見た。
複雑な紋様。中心には、黒い円が描かれている。
「『原初の闇』。……古代文明が生み出した呪い、あるいは兵器だったらしい」
「兵器……」
「詳細は分からない。だが、解放されれば世界が滅ぶ。……それだけは確かだ」
【生贄】
「で、聖女と何の関係がある」
カインが訊いた。
クロウは黙って、別の羊皮紙を差し出した。
カインはそれを手に取り、読み始めた。
『封印維持のための手順書』
『聖女の生命力を封印炉に注入する方法』
『推奨される聖女の年齢:15歳〜20歳』
『注入後の聖女の生存期間:約3日〜7日』
カインの手が、震えた。
「……これは」
「聖女は、封印のエネルギー源だ」
クロウが淡々と言った。
「『本物の奇跡』を持つ聖女の生命力を、封印に注ぎ込む。……それで、数百年は封印が保たれる」
「つまり……」
「聖女は、最初から『生贄』として育てられていたのさ」
【偽物の意味】
リーリアの顔から、血の気が引いていた。
「でも……歴代の聖女は『偽物』だったんでしょう……?」
「ああ。だから、封印は徐々に弱まっている」
クロウが説明した。
「偽物の聖女でも、微弱な力はある。それを何人も犠牲にすることで、なんとか封印を維持してきた」
「……何人も」
「数百年で、百人以上。……全員、『異端者』として処刑されている」
カインは拳を握りしめた。
教会は、聖女を「生贄」として消費してきた。
世界を守るという名目で、無数の命を奪ってきた。
【本物の恐怖】
「じゃあ、私は……」
リーリアの声が震えていた。
「お前は『本物』だ。始祖聖女の直系。……数百年ぶりの、完全な力を持つ聖女」
クロウがリーリアを見た。
「お前一人の生命力で、封印を数百年は延長できる。……教会にとっては、最高の『素材』だ」
「素材……」
リーリアは無意識に、自分の腕を抱きしめた。
(私の心も、この温かさも、全部ただの燃料だったの……?)
「だから殺そうとした。……いや、違うな」
クロウが首を振った。
「殺すつもりじゃなかった。『回収』して、然るべき時に『使う』つもりだったんだ」
カインは立ち上がった。
「ふざけるな」
低い声が、小屋の中に響いた。
「リーリアは『素材』じゃない。『生贄』でもない。……一人の、人間だ」
【もう一つの可能性】
「待て、カイン」
クロウが手を上げた。
「まだ話は終わってない」
「……何だ」
「文書には、もう一つの可能性が記されている」
クロウが最後の羊皮紙を取り出した。
「『本物の聖女』の力は、封印を維持するだけじゃない。……『災厄そのものを浄化できる可能性がある』」
「浄化……?」
「つまり、封印じゃなくて、消滅させられるかもしれないってことだ」
カインは目を見開いた。
「なら、なぜ教会はそれをしない」
「リスクが高すぎるからだ」
クロウが言った。
「浄化に失敗すれば、封印が解けて世界が滅ぶ。……教会は、その賭けをする勇気がなかった」
「だから、生贄にして封印を維持し続けてきた……」
「ああ。何百年も、何千年も。……永遠に聖女を犠牲にし続けるシステムを作り上げた」
【静かなる決意】
沈黙が落ちた。
リーリアは俯いていた。
自分が「生贄」として生まれてきたという事実を、受け止めようとしているのだろう。
カインは彼女の隣に座った。
「リーリア」
「……」
「俺は、お前を生贄になんかさせない」
(父さんも、かつてそう思ったんだろうか)
一瞬、そんな考えが頭をよぎった。
マルタ婆を逃がした夜、父は何を思っていたのか。
でも、今は関係ない。
俺は俺の道を行く。
リーリアが顔を上げた。
「でも……封印が解けたら、世界が……」
「なら、浄化すればいい」
カインは真っ直ぐにリーリアを見た。
「お前には、その力がある。……俺は、それを信じる」
「でも、失敗したら……」
「しない」
カインが言い切った。
「お前は、俺が見てきた誰よりも強い。震えながらでも立ち上がる。恐怖に負けずに光を放てる」
「カイン……」
「お前なら、できる。……俺が、そばにいる」
リーリアの目から、涙が溢れた。
「……ありがとう」
カインは彼女の手を握った。
怒りは、もう消えていた。
代わりにあるのは、静かな決意。
教会を倒す。
このシステムを壊す。
リーリアを、人間として生きさせる。
それが、カインの戦う理由になった。
【宣戦】
「クロウ」
カインが立ち上がった。
「王都への道を教えてくれ」
「……本気か」
「ああ。俺たちは、教会を壊しに行く」
クロウは長い間、カインを見つめていた。
そして、ふっと笑った。
「……いい目だ。昔の俺と、同じ目をしてる」
クロウが立ち上がった。
「いいだろう。案内してやる。……ただし、準備はまだ終わってないぞ」
「分かってる。【逆縫】を完成させる。……それまでに、潜入の段取りを頼む」
「了解だ」
クロウが小屋を出ていく。
カインはリーリアを見た。
「リーリア。お前は、どうする」
彼女は涙を拭い、立ち上がった。
「決まってるわ」
その目には、もう迷いはなかった。
「私も行く。……自分の運命は、自分で決める」
カインは微かに笑った。
「ああ。……一緒に行こう」
二人は手を取り合った。
教会との戦いが、本格的に始まろうとしていた。
第18話、「聖女計画」の全貌でした。
聖女は、「封印のための生贄」だった。
数千年にわたり、教会は聖女を犠牲にして世界を維持してきた。
しかし、リーリアには別の可能性がある。
「災厄」を浄化し、永遠に終わらせる力。
カインは決意しました。
教会のシステムを壊し、リーリアを人間として生きさせる。
それが、彼の戦う理由です。
「設定が深い!」「カインの決意がエモい!」と思っていただけたら、
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