表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

第十五話「長兄の牙」

お読みいただきありがとうございます。

第2部クライマックス。

ついに、長兄アベルとの直接対決です。


カインのこれまでの全てが、試されます。

アベルは、階段の上に立っていた。


感情のない目。

無駄のない姿勢。

手には、処刑剣ではなく、細身の長剣が握られている。


「久しぶりだな、三男」


その声には、怒りも、失望も、何もなかった。

ただ事実を述べているだけの、平坦な声。


「アベル兄……」


カインは道具袋に手を伸ばした。


「ここで会えて嬉しいよ」


アベルがゆっくりと階段を降りてくる。


「セスを無力化した時は驚いた。お前にそれだけの技術があるとは思わなかった」


「……」


「だが、それも今日で終わりだ」


アベルの目が、カインを捉えた。


「聖女を渡せ。……そうすれば、お前だけは見逃してやる」


【拒絶】


「断る」


カインは即答した。


「そうか」


アベルは表情を変えなかった。


「なら、お前も一緒に死ね」


アベルが動いた。


速い。


カインは咄嗟に横に跳んだ。

アベルの剣が、さっきまでカインがいた場所を薙いだ。


「リーリア、下がれ!」


カインは懐から煙幕の瓶を取り出し、地面に叩きつけた。


白い煙が広がる。


「煙幕か」


アベルの声が、煙の中から聞こえた。


「セスにも使ったな。……だが」


風が吹いた。

いや、違う。アベルが剣を振り、風圧で煙を払ったのだ。


「俺には通じない」


煙が晴れた時、アベルはカインの目の前にいた。


【無力化】


カインは仮死の針を放った。


アベルは首を傾けるだけで、それを避けた。


「仮死の薬を塗った針。……聖女を助けた時も、セスを倒した時も、同じ手を使ったな」


「っ……!」


「お前の手の内は、全て分かっている」


アベルの剣が閃いた。


カインは辛うじて身を捩り、致命傷を避けた。

だが、腕を浅く切られた。


「くっ……!」


「次」


アベルが剣を構え直す。


カインは必死に頭を回転させた。


煙幕は効かない。

針も効かない。

では、何が効く。


「お前の技術は、全て俺が教えたものだ」


アベルが言った。


「解剖学的知識による急所への攻撃。毒薬の調合。仮死の偽装。……全部、俺の方が上だ」


「……」


「お前は俺に勝てない。最初から、勝負にすらならない」


アベルの目には、軽蔑も、怒りも、何もなかった。

ただ、事実を述べているだけ。


それが、何よりも恐ろしかった。


【絶望】


カインは後退した。


考えろ。

何か、アベル兄に通じる方法があるはずだ。


だが、何も思いつかない。


アベルは「完成された処刑人」だ。

技術で勝てるはずがない。

策略も見抜かれる。

力でも、速さでも、経験でも、全てにおいて劣っている。


「終わりだ、三男」


アベルが剣を振り上げた。


「お前は優秀な処刑人になれたかもしれない。だが、『殺せない』という欠陥が、全てを台無しにした」


(……いや)


カインは心の中で呟いた。


(この欠陥こそが、俺がリーリアと出会えた理由だ)


殺せなかったから、彼女を救った。

殺せなかったから、今ここにいる。

それは欠陥じゃない。俺が選んだ、俺だけの道だ。


「処刑人に情けは不要だ。……それを理解できなかったお前の負けだ」


剣が振り下ろされる。


カインは動けなかった。


【奇跡】


その時。


「カインッ!」


リーリアの叫び声が響いた。


そして、世界が白く染まった。


「何……っ!」


アベルが目を庇った。


リーリアの手から、凄まじい光が放たれていた。

訓練で見せた閃光とは、比べものにならない。

まるで太陽が地下に降りてきたかのような、圧倒的な光量。


「カイン、逃げて!」


リーリアの声が聞こえる。


カインは彼女の手を掴んだ。


「こっちだ!」


地下には、もう一つの出口があった。

非常用の脱出路。カインは潜入前にクロウから聞いていた。


「待て……!」


アベルの声が背後から聞こえる。


だが、光はまだ続いていた。

リーリアの力が、アベルの視界を奪い続けている。


二人は脱出路を駆け上がり、外に飛び出した。


「崖だ!」


目の前に、断崖絶壁が広がっていた。

その下には、川が流れている。


「飛ぶぞ!」


「えっ……!」


カインはリーリアを抱きかかえ、崖から飛び降りた。

落下する一瞬、彼女の体を強く抱きしめた。

何があっても、離さない。

その想いを込めて。


【敗走】


冷たい水が、体を包んだ。


カインは必死にリーリアを抱えながら、川の流れに身を任せた。


「リーリア! 意識はあるか!」


「……あ、ある……」


リーリアの声は弱々しかった。

奇跡を使いすぎた反動だろう。


川は二人を下流へと運んでいく。

分遣隊の建物は、どんどん遠ざかっていった。


やがて、川の流れが緩やかになった。


カインは岸に這い上がり、リーリアを引き上げた。


「大丈夫か……」


「うん……なんとか……」


二人は濡れた体を抱えて、岸辺に座り込んだ。


【次で終わりだ】


「……逃げられた、か」


分遣隊の建物の屋上。


アベルは、崖の下を見下ろしていた。


追おうと思えば追えた。

だが、その必要はない。


「逃げ延びたところで、結果は変わらない」


アベルは剣を鞘に収めた。


「お前の手の内は全て見た。次は、何も通じない」


月のない夜空を見上げながら、アベルは呟いた。


「次で終わりだ、三男」


その言葉は、まるで死刑宣告のように、夜の闘に溶けていった。

第15話、長兄アベルとの初対決でした。


カインの全ての技術が、「子供騙し」として無効化される絶望。

そして、リーリアの「予測できない奇跡」による脱出。


二人は生き延びました。

しかし、アベルの言葉は重くのしかかります。

「次で終わりだ」。


ここで第2部・完結です。

第3部では、父ギルバートとの対面、そして最終決戦へ。


「アベル強すぎ!」「リーリアの奇跡がヤバい!」と思っていただけたら、

下にある【☆☆☆☆☆】マークで応援をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ