第十四話「不帰の分遣隊」
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教会の分遣隊へ潜入するカインとリーリア。
しかし、そこで彼らを待っていたのは、
予想を遥かに超える光景でした。
月のない夜だった。
カインとリーリアは、森の中から分遣隊の建物を見下ろしていた。
石造りの本館。
隣接する兵舎。
周囲を囲む低い柵。
クロウの情報通りなら、警備は十人程度のはずだ。
「……おかしい」
カインが呟いた。
「どうしたの?」
「灯りがない。……一つも」
分遣隊の建物は、完全な闘に包まれていた。
松明の灯りも、窓から漏れる蝋燭の光も、何もない。
「警備が見えない」
カインは目を凝らした。
柵の周囲に、人影がない。
門の前にも、誰もいない。
「……まさか」
嫌な予感がした。
「リーリア、ついてこい。……気をつけろ」
【静寂】
門は、開いていた。
カインは慎重に敷地内に足を踏み入れた。
砂利を踏む音が、やけに大きく聞こえる。
「カイン、あれ……」
リーリアが指差した方向を見て、カインは息を呑んだ。
門番の詰め所。
その前に、人が倒れていた。
カインは駆け寄り、体に触れた。
冷たい。
死んでいる。
「……傷は、首の一撃だけだ」
カインは死体を検分した。
抵抗の跡がない。
苦悶の表情もない。
まるで、何が起きたか理解する前に、命を奪われたかのようだ。
「他にも、いる」
リーリアの声が震えていた。
カインは周囲を見回した。
兵舎の入り口に、二人。
本館の前に、三人。
みな、同じように倒れている。
「全員、殺されてる……」
【処刑の痕跡】
カインは一人一人の死体を確認した。
首を一撃で斬られている。
正確に、頸動脈と脊髄を断つ角度。
苦しませず、瞬時に命を奪う技術。
「これは……」
カインの顔が青ざめた。
「親父の技じゃない」
「え?」
「親父なら、もっと力強い斬撃になる。これは違う。もっと……繊細で、冷酷だ」
カインは震える手で、死体の傷を見つめた。
「アベル兄だ」
その名前を口にした瞬間、背筋が凍った。
「アベル兄が、ここに来た。……俺たちより先に」
【文書庫】
「どうする、カイン」
リーリアが訊いた。
カインは考えた。
アベル兄がここに来た。
つまり、俺たちの目的を知っている。
クロウの情報が漏れたのか、それとも別のルートで突き止めたのか。
だが、文書はまだここにあるかもしれない。
アベル兄の目的が「俺たちを捕らえること」なら、文書を回収する理由はない。
「……地下に行く」
「危険じゃない?」
「分かってる。でも、ここまで来たんだ」
カインはリーリアの手を握った。
「怖かったら、ここで待っていていい」
「……行くわ」
リーリアは首を振った。
「一緒に行く」
二人は本館に入り、地下への階段を探した。
【極秘文書】
地下の文書庫は、ひんやりとした空気に満ちていた。
棚には古い書類が積まれ、埃の匂いが漂っている。
「どこにあるんだ……」
カインは棚を調べていった。
「カイン、これ」
リーリアが一つの箱を見つけた。
古びた木箱。蓋には、教会の紋章が刻まれている。
そして、その横に「聖女計画」と書かれた札が貼られていた。
カインは箱を開けた。
中には、数枚の羊皮紙が入っていた。
「これが……」
カインは文書を手に取り、読み始めた。
『聖女計画・第七次改訂版』
『本物の奇跡を持つ者が現れた場合の対処法』
『聖女アステルの血統管理について』
そして、一枚の紙に、カインは目を止めた。
『リーリア・アステル。出生地不明。孤児院より引き取り。
血統検査の結果、始祖聖女の直系と判明。
危険度:最大。本物の奇跡を発現する可能性、極めて高し。
推奨処置:成人前の処分。
備考:感情的な結びつきを形成させないこと。
代替個体の確保は完了済み』
人間を「個体」と呼ぶ、冷徹な文面。
リーリアは最初から、教会にとって「処分対象」でしかなかったのだ。
「……リーリア」
カインは紙をリーリアに見せた。
彼女は震える手でそれを受け取り、読んだ。
「始祖聖女の……直系……?」
「お前は、最初から『処分』される予定だったんだ。……本物の力を持っているから」
リーリアの顔から、血の気が引いた。
【罠】
その時。
ガチャン、と音がした。
カインは振り返った。
地下への扉が、音もなく閉まっていた。
「……来たか」
カインは文書を懐に入れ、リーリアを背中に庇った。
階段の上から、足音が聞こえる。
正確なメトロノームのように等間隔で、重みを感じさせない音。
焦りもなく、躊躇いもなく。
獲物を追い詰める必要すらないと知っている者の、余裕の歩み。
やがて、一人の男が姿を現した。
黒い外套。
処刑人の家紋。
そして、感情のない、冷たい目。
「久しぶりだな、三男」
長兄、アベル・ヴェルデが、そこに立っていた。
第14話、分遣隊への潜入と、衝撃の真実でした。
リーリアは「始祖聖女の直系」。
だから、本物の奇跡を使える。
だから、教会に殺されようとした。
そして、ついに長兄アベルが姿を現しました。
圧倒的な「死」の気配が、二人に迫ります。
次回、長兄との直接対決。
カインの技術は、アベルに通じるのか。
「アベル怖すぎ!」「リーリアの出生の秘密!」と思っていただけたら、
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