第十二話「クロウの取引」
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灰の隠れ里を後にしたカインとリーリア。
森の中を逃げる二人の前に、意外な人物が現れます。
隠れ里を出て、三日が経った。
カインとリーリアは、森の奥深くを進んでいた。
道なき道を歩き、川を渡り、崖を越える。
追手を撒くために、できるだけ人目につかないルートを選んでいた。
「……カイン、少し休まない?」
リーリアが足を止めた。
その顔には疲労の色が浮かんでいる。
「ああ、そうしよう」
カインは周囲を見回し、大きな木の根元に腰を下ろした。
リーリアもその隣に座る。
「水、飲むか」
「ありがとう」
水袋を渡しながら、カインは考えていた。
このまま逃げ続けて、どうなる。
アベル兄は必ず追いついてくる。
その時、俺たちに勝ち目はあるのか。
答えは、出なかった。
【追跡者】
「よお、二人とも」
突然、声がした。
カインは咄嗟に立ち上がり、道具袋に手を伸ばした。
「誰だ」
「そう警戒するなよ」
木の影から、黒いフードを被った男が姿を現した。
痩せた体躯。ぎらぎらと光る目。
「クロウ……?」
「おう。久しぶりだな、三男……いや、カイン」
クロウが薄笑いを浮かべた。
「なぜ、ここに」
「お前らを追いかけてきたのさ。……話があってな」
【取引】
クロウは二人の向かいに座り、懐から古びた羊皮紙を取り出した。
獣の脂の匂いが染み付いた、年代物の紙だ。
何度も折り畳まれた跡があり、端は擦り切れている。
「単刀直入に言う。俺と取引しないか」
「取引?」
「ああ。お前らが欲しいものを、俺は知っている」
クロウが羊皮紙を広げた。
そこには、複雑な記号と、いくつかの場所の名前が書かれていた。
「教会には『聖女計画』と呼ばれる極秘文書がある」
「聖女計画……」
リーリアが息を呑んだ。
「歴代の聖女がどのように選ばれ、どのように『処分』されてきたか。……その全てが記された文書だ」
クロウがカインを見た。
「お前の聖女が、なぜ殺されなければならなかったのか。その答えが、そこにある」
【覚悟】
カインは黙っていた。
教会の秘密。
リーリアが殺されようとした、本当の理由。
それを知ることができるなら……。
「なぜ、俺たちにそれを教える」
「さっき言っただろ。取引だ」
クロウが指を立てた。
「俺は元異端審問官だ。教会の内部には、まだコネがある。文書の所在も突き止めた」
「……」
「だが、俺一人では奪えない。お前の『処刑人の技術』と、聖女様の『奇跡』が必要なのさ」
カインは眉を顰めた。
「お前の目的は何だ」
「教会を潰したい。……それだけだ」
クロウの目に、暗い光が宿った。
「俺はあの組織の腐敗を、この目で見てきた。無実の人間が『異端』のレッテルを貼られ、殺されていくのをな」
「……」
「お前らと俺は、目的が重なっている。違うか?」
カインは考えた。
クロウを信用していいのか分からない。
だが、このまま逃げ続けても、何も変わらない。
「……その文書は、どこにある」
「国境近くの山中に、教会の分遣隊がある。そこの地下に保管されている」
クロウが立ち上がった。
「お前は聖女を連れて、どこへ行くつもりだった? 逃げ続けて、いつか追いつかれて、死ぬのを待つのか?」
「……」
「絶望の先にある真実を見る覚悟はあるか、カイン」
カインはリーリアを見た。
彼女は真っ直ぐにカインを見つめ、小さく頷いた。
その手は、もう震えていなかった。
牢獄で初めて会った時とは、別人のように。
「……行こう」
カインは立ち上がった。
「その文書を、手に入れる」
第12話、情報屋クロウの再登場でした。
教会の「聖女計画」。
その秘密を暴くことで、リーリアが殺されようとした真実が明らかになるかもしれません。
しかし、その先には何が待っているのか。
カインとリーリアの選択は、正しいのか。
次回、潜入準備が始まります。
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