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第3話 古方に隠された影

宮廷の朝は、静かでありながら、どこか緊張を孕んでいた。

側近の症状は徐々に落ち着いてきたが、別の侍医から新たな報告が届く。


「沙良さん、他の側近の体調にも異常が出始めました。」

凜斗の声には、淡い焦りが混じる。

私はその知らせに眉をひそめ、息を整えた。


「影響範囲が広がっている……やはり、単なる調理ミスではありませんね。」

古い薬方帳をもう一度確認する。ページには、現代ではあまり使われないハーブと分量が書かれていた。


室内に広がる微かな匂いの層を嗅ぎ分けながら、私は思考を巡らせる。

「同じ処方を複数箇所で、しかも少しずつ改変して使った形跡があります。」

凜斗が驚いた顔で私を見た。「つまり……誰かが意図的に仕組んでいる、と?」


「はい。しかも、誰にでも影響が出るわけではない。体質に合わせて微調整されているのです。」

私の指先が薬方帳を撫でる。古方に秘められた痕跡を、一つずつなぞるように。


「古い方方には、王家に関わる特定の体質用の処方が記されています……。」

私は声を潜めて言う。

「この中毒事件の背後には、王家の秘密が絡んでいる可能性があります。」


凜斗はしばらく沈黙した後、決意を帯びた声で言った。

「ならば、私たちはまず原因を突き止め、その証拠を押さえなければなりません。」


私たちは側近たちの居室を順に回り、残された食事の残滓や薬の香りを嗅ぎ分けた。

焦げたような匂い、かすかに甘い香り、微かな薬草の混ざり香――全てが私の手がかりになる。


「……なるほど。」

私は小さくつぶやき、指で匂いの層をたどる。

「調合温度と分量、ハーブの組み合わせ。これは巧妙に仕組まれています。」


凜斗が静かに問いかける。「では、犯人は……?」


「宮廷の中にいるでしょう。」

私の瞳は真剣そのものだ。

「表向きは忠義の侍医や側近の誰か。しかし裏には、権力を握る貴族の影もあります。」


そのとき、書庫の扉が微かに軋む音を立てた。

誰かが、私たちの動きを探っている――宮廷は、予想以上に緊迫した罠のようだ。


私は薬方帳を胸に抱き、深く息をついた。

「私が解かなければ……この事件は王都全体に波及しかねません。」

凜斗も頷く。二人で力を合わせ、少しずつ事件の糸を手繰り寄せる決意を固めた。


古方に秘められた影が、ゆっくりと、しかし確実に宮廷の光の中に姿を現し始める――。

香りの糸を手繰る少女は、王都の秘密の深淵へと足を踏み入れたのだった。

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