十五話
なんだかんだで一ヶ月・・・おまたせしましたー
「余計な憶測で大騒ぎにでもなったら目もあてられないからな。聞きたかったらおとなしく席につけ」
ざわめきが収まらぬなか、生徒達がめいめいの席につき始める。
「アルトさん・・・」
少し心配そうに己を見るレイルストにちょっと困ったようにアルトがちょこんと首を傾ける。
「ボクが説明するよりも、ルダート先生の説明を聞いたほうが分かりやすいとおもうよ」
「・・・わかりました」
しぶしぶとガイやリーナも席に向かう。
「誤解の無いように説明する。今回イシュトに上位者の報酬が与えられるのはアルトの奴が不正を働いたからではない。そこはきっちり言わせてもらうぞ」
そこまで言ったときにリーナが手を上げる。
「なんだ?」
「なら、なんでイシュトがご褒美貰ってるんですか?納得出来ないんですが」
誰もが感じる疑問だろう。
「そんなのイシュトの調合のほうが上だったに決まってるじゃないか。」
「その通り!」
イシュトの取り巻き達がさも自分のことのように言う。
その様を見ながら満足そうにイシュトが笑っているのを見てリーナの眉間にシワがよる。
「バカね。アルトが提出したときにルダート先生が言ったことも忘れたの?」
「なんだと!?」
「あの時先生ははっきり順位が入れ代わったって言ったじゃない。それはどう言い訳する気なのよ」
「ルダート先生が見誤ったんだろ!他の先生達はちゃんとわかったんだよ!」
「・・・話になんないわね」
「なんだって!」
ダンッ
一触即発状態だった二人がその音にビクリと立ちすくむ。
「取りあえずうるさいから、だまれ?」
教壇にたたきつけた名簿でトントンと肩を叩きながらルダートがそういった。
「「はいっ」」
「まぁ、おまえら 生徒になめられてるってのは後できっちり話し合うとしてだ」
その言葉にイシュトの取り巻き達がビクリと震えたのを見ないふりをしながら先を続ける。
「何度も言うが、アルトが不正を働いたってことで報酬がイシュトになったわけじゃない。順位で言えば一位がアルトで二位がイシュト。コレは変えようの無い事実だ」
はっきり言い切られた事実にイシュトの顔色が変わる。
「どういうこと、ですか・・・?」
「・・・アルトが提出したプレートは3つ。物理耐性・魔力耐性・そしてその両立」
指折り数えながら、アルトの提出したプレートを上げていく。
「物理耐性だけとってみても、イシュトが提出したものよりも質は上なんだよ。それに、こっちは話し合う以前に、一年制限内での製作ってのはオレだけじゃなく外の教員も全員認めてる。だから、アルトが一位であることは揺らがない。それよりも問題なのは両立したプレートのほうだ。今回の処置は主にこっちにあるからな・・・納得してなさそうだな」
「納得できるわけがないでしょう・・・三種調合だったんだ。二年生どころか三年生ですらできないやつらがいるんですよっ!?それなのにっ・・・」
握りこんだコブシが震えている。
「まぁ、お前も一年の中じゃトップクラスであることは間違いないんだろうがな、コレに関してはお前は間違いなくアルトの次だ」
容赦なく事実を突きつけるルダートにイシュトがうつむく。
取り巻き達が気遣うように視線を送るが、声をかけられる様子ではなかった。
だが、それでもイシュト擁護するようにルダートに意見する。
「先生、そのプレートが一年制限で作られたとしても、本当にそいつが・・・アルトが作ったっていえるんですか?」
「そうだ!上級生とかに頼んで作って貰ったとか」
名案とばかりに同意する声が上がる前にルダートがそれを否定する。
「残念ながら、ありえない」
「なんでありえないなんて断言できるんですか?一年ならともかく、二年以上ならイシュト以上のものを作れても不思議じゃ・・・」
「二年どころか最終学年でもアルトが作ったものを作れる生徒は現在この学院には存在しない」
不自然なほどにきっぱりとルダートが断言する。
そう、断言したのだ存在 しないと。
「この学院に在学している生徒の中に、三種調合ができる生徒は百数十名。四種調合ができる生徒はさらに減って十数名。五種調合に関してはたったの二人だ。知っての通り三種と四種、四種と五種でその壁はかなり分厚い」
コトン、コトンと教壇の上にアルトが作成したプレートを並べて置いていく。
「それだけ調合ってのは繊細だ。だから熟練した者でも四種、五種になっていくと自分に合った特定のレシピでしか作らない・・・というか作れない。成功率の低いものを複数覚えるよりも、成功率の高い特定のレシピを覚えるほうが効率がいいからな。で、だ」
一番手前、物理硬度のプレートを手に取ると一番近くに座っていた生徒に手渡す。
「念のために物理硬度と魔力硬度のプレートに関してはお前達が言うように外の生徒が作ったという可能性を考え、作成できそうな上級生を全員呼び出して確認をとった。もちろん全員答えは否だったがな」
「全員って・・・そんなに呼び出して全部聞いてまわったってことですか?この短時間で?」
アルトがプレートを提出してから一日どころか半日たってもいないはず。
そんな短時間にこの学院の上位にある者達すべてに聞いて回れるものなのだろうか?
レイルストの疑問にルダートはニヤリと笑うと生徒の間を回っているプレートを指差した。
「その、物理硬度のプレートを作ることの出来そうな生徒ってのは20名足らずだったからな。会議室に全員呼び出したってだけだ」
「作成できそうな生徒が20名・・・って!」
ガタン
椅子を蹴倒して立ち上がったレイルストに皆の視線が集まるが、彼はそれをすべて取り合わずに音にびっくりしているアルトへと視線を向ける。
「・・・四種調合・・・?」
呆然としながらもレイルストからこぼれた言葉に教室からざわめきが消えた。
「ちょっとルスト何言って・・・」
いち早く正気に戻ったリーナが引きつったままレイルストをいさめようとするが、それよりも早くレイルストがまくし立てる。
「そうだ、四種調合なんだ・・・リーナ、あのプレートは四種調合だよっ」
「何言ってるのよルスト。いくらなんでもそんなわけ・・・」
さっきまでガイといっていたことではあるが、本気では言ったわけじゃない。
けれどそんなリーナの言葉をさえぎって興奮冷めやらぬ様子でレイルストは続ける。
「今先生が言ってたじゃないですかっ。そのプレートを作れる可能性がある生徒を呼んで確認したって!」
「確かにいってたけど」
「作れる生徒が20名弱だって・・・現在いる生徒で四種・五種の調合が出来るのが20名弱だっていってたっ・・・なら少なくともそれはあのプレートが四種調合だってことじゃないですかっ!?」
「ちょっとまてよ・・・マヂでか?」
ガイも微かにうわずった声でそう言うと集中する視線に居心地悪そうに身じろぐアルトを見つめた。
「マヂであれ・・・四種調合なのか」
ルダートの側にある残りのプレートを指差しながらガイが問いかける。
問いかけられたアルトのほうはコテンと首を傾げつつも応えた。
「四種調合は物理硬度のプレートだよ」
内心誰もが否定の返事が返って来ると思っていたのに、あっさりと予想を裏切ってくれるアルトにガイは乾いた笑いを漏らしながら椅子に腰を落とした。
アルトの発言に固まっていたクラスメイト達が騒ぎ立てる中で、レイルストとイシュトの二人が呆然とつぶやく。
「「四種調合は・・・?」」
その呟きを聞き取ったルダートがニヤニヤと教員にあるまじき表情で見ている。
「なんだ、気がついたのは二人だけか?」
ルダートのその発言に、考えが外れてないことを確信した二人。
イシュトは呆然としたままいつの間にか回ってきていたプレートを見つめ、レイルストは大きなため息をつきながら天井を仰ぐ。
「レベルが違いすぎます・・・」
「・・・ルスト?」
いぶかしげに問いかけてくるリーナには答えず、じっと教壇に置かれたプレートを見つめる。
「・・・先生・・・そのプレートは・・・」
「そのプレートは何種調合なんですか」
レイルストの声をさえぎり、イシュトが問いかける。
顔を上げず、じっと机の上のプレートを睨みつけながら。
「先生は先ほど、両立したプレートのせいで今回の処置になったとおっしゃった。・・・そして・・・このプレートは四種調合であるにもかかわらず、先生達はあまり頓着されてない。ならば、そのプレートはいったい何だって言うんです!?四種調合以上に価値のあることってっ・・・!」
それ以上言葉にする事を躊躇うようにイシュトが言葉に詰まるように押し黙った。
「四種調合以上の価値があり、この学園にすら作成出来る者が存在しない・・・やっぱり・・・五種調合・・・なんですか?」
黙り込んだイシュトの代わりというようにレイルストが言葉を継いだ。
四種調合を成功させることだけでも一年としては型破りの実力といえる、五種となればほぼ即戦力としてどこの工房でもすぐに引き抜かれるような一流どころなのだ。
そう、ココに一年として通っていることが不思議なほどに。
どんな反応でも逃すまいとまっすぐに見詰めてくるレイルストに、すぐに返答はせず、手元にあるプレートをかざした。
「一応この学園ではこういった場合ある程度の立会いを許されている。三種ならば教員なら誰でも、四種でも教員3人という条件で立会いができる」
コトン、とプレートを机に戻す。
「・・・まぁ、五種の調合も、教員5人という条件で立会いはできる。無論、そのときに知った調合の配合、条件等どんな調合であろうと黙秘が義務づけられるってのはまぁ、当たり前なんだが・・・さすがにそれ以上になると教員の権限だけではどうにもならなくてな。ギルドの立会いが必須になるんだよ」
誰もが理解を放棄したように声が消えた。
「教員が問題にしてるプレートは六種調合だ。さすがに学園だけの話で済まされなくなったってギルドに要請する羽目になったってわけだ」
「やっぱり非常識だ・・・」
誰もが言葉を失う中、ガイの疲れと呆れを含んだ声がいやにはっきりと教室に響く。
「四種と五種に関しては他の生徒の確認後に俺以外の教員立会いの下確かにアルトが調合したものと認定されたので、この時点で調合の上位者の順位が確定してる」
ルダートの言葉にイシュトは完全に口を噤んでいた。
四種調合どころか六種調合なんて身内の中でもほんの一握りであり、それがどれだけの腕であるのかいやというほど言い聞かせられてきたからだ。
ただ呆然とルダートの言葉を聴いている。
「もう一つの上位者報酬の件に関しては・・・いろいろもめてなぁ・・・」
思い出したのかかなり渋面になる。
「俺個人の意見としては納得できるもんじゃないんだが、今の時点でアルトの調合能力ってのは未知数だ。なのでこの際ギルドに立会い要請するついでにアルトのランクの見極めも同時にしてもらうことになったんだが、その見極めの際に一時的な措置として制限解除されることになった。見極めの際に制限なしで調合できることを報酬とする為に次席に何時もの報酬を繰り下げるって話になってな」
「・・・それって以前言っていた特別調合ってことですか?」
「いいや、あくまで一時的な措置だ。一年制限だけだといろいろ見極めるにしても範囲が狭まるからな」
「なら、それを報酬にするのっておかしいとおもいますけど・・・」
確かに納得できる内容ではないだろう。
「なっさけない話ではあるんだが、自分の受け持ち以外から特別調合の資格を取れるやつが出るのが我慢ならないっていうエリート様達が普段の険悪さが嘘のように結託しあってあれこれといちゃもんつけてくださったんだよ。ギルドの立会いまでこぎつける実力があるなら特別調合の資格を取ることもたやすいだろうから報酬は次席に繰り下げてもかまわないだろうってな」
様子を思い出したのかどんよりとため息を漏らす。
普段ルダート曰くエリート様達が何を言っても聞き流して飄々とした態度で対抗していた彼が、ココまで消耗しているのはよほどのことだったのだろう。
「一応、外の教員もさすがに理不尽だと思ってくれたのかギルドを呼んでのの査定で作成された物が認められればそのまま報酬としてアルトに引き渡すってことにはなった」
妥協案ともいうべきそれにレイルストはかすかに眉をひそめるとアルトに問う。
「アルトさんはそれでいいんですか?」
気遣うような問いにアルトは二コリと笑う。
「素材もらうよりそっちのほうが好きなの作れるから問題ないです」
「・・・考え方によってはそっちが確かに得ではありますね・・・」
「はい」
アルトがギルドの査定をクリアできることが条件の報酬は逆の見かたをすればそれを了承した人物達はそれをアルトがクリアーできるとは思ってもいないということにもつながる。
だが、そんなことをぜんぜん気にした様子がない(もしくは気づかない)アルトにとりあえず内心を押し隠してレイルストは席に着く。
それを合図にしたように教室内が再びざわざわとざわめきだす。
視線の先はアルトかアルトが作ったプレートである。
「ガイさんの言葉じゃないですけど・・・ほんっと非常識というか・・・やっぱり類友って言葉は馬鹿にできませんね」
レイルストの脳裏には一年期待の星であるリシャとラディウスが浮かぶ。
一年だけでなく、在校生の中でも飛びぬけた存在。
そんな二人に唯一かまわれるアルト。
特別の中に普通が紛れ込んでいると思っていたが、何のことはないアルト自身も特別だっただけなのだ。
本人に自覚が皆無なだけで・・・
逆に性質が悪いとも言うかもしれないが。
パンパン
収集がつかなさそうなざわめきの中、ルダートが手を鳴らすとピタリとそのざわめきがきれいに消え去った。
「まあ、アルトの調合に関しての説明は以上だが、そのほかにも注意することがある。アルトは特にだが、クラス全体にもかかわることだ」
アルトだけでなくクラス全体という言葉に誰もが首をかしげる。
「もっと穏便にって済ませられれば良かったんだが、上級生の上位者を呼び出したんで一応彼らには事情を説明した。彼らを呼び出す原因になった調合も、その作成者のこともな」
回りくどいというか噛んで含むような言い方に聡い者達はアッと声を上げた。
当事者であるアルトはまだ気づいていない。
だが、どうせ言わずにいようがどっちにしろ同じことなのですっぱりとルダートは本題を口にした。
「しばらくこの教室に学年問わずで人が押しかけてくる可能性がある」
今まで四種以上の調合がなされた場合、どこからか噂がながれてその人物のところまで結構人が押しかけていったという話が結構あった。
しかし、今回は上位者達の中でも結構な実力者を呼び出した上に、それ以上物を作ったと当人達の前で公表したのだ、騒ぎにならないわけがない。
というか、上位者というのはそれなりにプライドが高いので自分以上の実力者の顔を見にこないわけがない。
ルダートの発言にようやく言っていることが飲み込めたのか、今の今までのほほんと状況を他人事のように聞いていたアルトの顔からサァーっ音が聞こえそうな勢いで血の気が引いていた。
そんなあるとの様子に気づかないはずがないが、ルダートは容赦なく・・・けれど状況を面白がるように現実を突きつけた。
「まぁ、こればっかりはさすがに止めようがないんでな。騒ぎが収まるまで窮屈だろうががんばって耐えてくれ」
クラス全体にいっているのかアルト限定で言っているのか分からないが、無情な一言にアルトがふよふよと視線をさまよわせたあと、血の気の引いた表情のまま口を開いた。
「・・・明日からお休みしていいですか?」
「ずる休みはみとめられんぞ」
きっぱりすっぱりと希望を切り捨てられたアルトは今にも泣き出しそうな顔して机につっぷすしかなかった。
いろいろ突っ込み満載かもしれませんが スルーよろしくお願いします(ぉぃ
イシュト君に関してはちょっと思うとこありまして土下座は今回なしです。
まぁ、別の機会にちょこっとこの件を掘り返すとおもいますが 予定は未定だったり・・・
い、いしなげないでー