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無銘の鍛冶師  作者: 星砂
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十三話

・・・脱線してもーた・・・

アルトが誘いかけるまでにココまで脱線するとはおもってもみなかった・・・


創具科のメンバーが集まると調合談義がとまらない・・・

お昼時間も終わり、教室へと帰ってくると先を争うようにリーナとガイがやってきた。


「「これでどうだっ」」


同時にプレートを差し出される。

ビックリしてアルトは入口に立ち尽くす。

まさか戻ってきて早々にこんな事になるとは予想だにしてなかったからだ。


「えっと・・・」

「三人とも、休みが終わってすぐに入り口で固まっていたらほかの生徒に迷惑になりますよ」

やんわりとそう言ってアルトの腕を引きレイルストが教室の中へと引き入れる。


「あ、わりぃ。ついノリでコイツと張り合っちまったぜ」

「なによ!あたしのせいにする気なの!?」


再び二人が入り口で騒ぎ出したのをレイルストの声が制する。


「二人とも、僕の言ったことちゃんと聞いていました?」


ぴたりと二人の動きが止まった。ソロソロと二人がレイルストを見るとニッコリ笑顔で見つめている。

声も表情も穏やかなのに、背筋が寒くなるのはなぜだろう。

完全に固まった二人に満足したのかレイルストはアルトの手を引いて席へと座らせる。

リーナとガイはスゴスゴとアルトをエスコートするレイルストの後からついてきた。


「二人とも、あんなふうに押しかけていったら迷惑でしょう?」

「面目ない」

「ごめんなさーぃ」

「まったく。アルトさん許してもらえますか?」


レイルストにそう問いかけられて、アルトはようやく硬直から解かれて大きく息を吐いた。


「ビックリした・・・」

「なんか、話しかけるたびに固まってないか?」

「先生以外にボクに話しかけくる人ってあんまりいなかったから慣れてなくて・・・リシャやラディーに話しかける人がほとんどだったし」


村ではリシャ達以外に同年代の子供というのはいなかった。なので、アルトにとって同世代に声をかけられるということ=絡まれる。という図式が学園に来たこの数ヶ月で刷り込まれてしまっているので、教師以外が話しかけるとどうしても身がすくんでしまうのだ。

さすがにそこまでは言えないが。


「だからってビビり過ぎだろ。別に俺はお前を取って食う気はねぇぞ」

「早く慣れるようにがんばります・・・」

「ぜひともそうしてくれ。いちいちビビられたら弱いものいじめしてるみたいでやりずれぇ」

「あぁ、それでしたら僕のこともぜひルストと呼んでください。レイルストって呼びづらいでしょう?」

「あ、俺もかまわねぇか?」

「えぇ。構いませんよ」


ガイの言葉にあっさりと了承するレイルスト。


「・・・ずいぶん貴族のボンボンにしては気さくだな・・・」

「貴族っていっても商人の成り上がりですし、僕が何か成したわけでもありませんから。それと兄の影響もありますけど」


ニッコリとガイにそう返す。

剣術科ほどではないにしろ、創具科にも上流階級の子息というのはいる。

傭兵クラス達ほど血気盛んなものも少ないのであまり衝突は少ないが、やはり多少の軋轢というのは存在しているのだが、レイルストとリーナに関してはそこまでこだわりは無いらしい。


「なのであまり僕もリーナも気にしないで結構ですよ。所詮僕らはまだ子供なんですし、大人の駆け引きはもう少ししてからでも十分です」


曇りのない笑顔でそういっているが、先ほど見せた無言の圧力を体感した後ではあまり説得力は感じられない気がした。

もう十分駆け引き云々の素地はできあがっていそうだ。

さりげなく視線を自分から移すガイにとりあえず何も突っ込まずに、レイルストは自分もプレートをアルトの前に差し出した。


「僕も一通り試してみたのですけれど、どうでしょうか?」

「・・・ボク、先生じゃないよ?」

「先生に提出する前に意見を聞きたいんです。あなたが僕らよりも技術が上なのは事実ですからね」

「先生よりも気軽に意見聞けるじゃない。同年代のほうが」


リーナもはいっとプレートをアルトの前に置く。

倣うようにガイも差し出してくるので受け取った。軽くなでたり叩いたりとプレートを見比べる。


「・・・何言っても怒らない?」


恐る恐るリーナに視線をやりながらアルトが言うと当のリーナが沈黙した。


「怒られそうなほどのダメ出しがあるのか?」

「これ、光に向けて見てもらえる?」


ガイにプレートを三枚とも差し出す。

言われたとおりに明るい方向へ向けてプレートをかざした。


「三枚のプレートの端を見てもらうと分かると思うんだけど、一枚だけちょっと違うでしょう」


アルトに言われるままプレートを見てみると一枚だけ光にあたった(ふち)が少しだけ赤く色づいて見えた。


「あー・・・なんか赤っぽい?」

「そのプレート硬度で言えば一番高いんだけど、品質で言えば一番低いです」

「硬度が高けりゃ頑丈ってこったろ?何がいけないんだよ」

「確かに硬いんですけど、脆いんです」

「・・・ずいぶん相反してますね」


硬い=丈夫。普通ならこの公式が成り立つだろう。


「武具にしろ装具にしろ、硬いだけでは成り立たないんです。硬いだけでは衝撃を吸収・分散できません。ある程度の柔軟さも持ち合わせてなければ武具を作ったとしても早々に折れてしまいます」

「・・・つまり、わたしのプレートにはその柔軟性が欠けてるってわけね?」

「そうです。最初よりは確かに硬度的には上がってるんですが、武具を作る材料としては不適格じゃないかと・・・」

「奥が深いですね」

「武具の種類によっても材料は使い分けないといけないから、それに合わせた調合をしないとどんなに質の良い素材であったとしても効果は半減ってこともあるんです。だから、一概に硬度が高いだけって言うのも良いとはいえないんです。・・・だから、この中で言えばガイさんのプレートが一番バランスが取れてるんじゃないかな」

「マジか!?」

「・・・負けた・・・」


アルトの言葉にガイがコブシを掲げる。反対にリーナがうなだれた。


「残念。負けちゃいましたね」

「ルストさんも前よりは良くなってますよ」

「そうですか?それだとやる気がでます」


どうやら三人で出来を競っているらしい。

アルトにはそうやって競う相手が存在しなかったので少しうらやましい気がした。


「今度は絶対勝ってみせるわっ」

「負けるかよっ」

「じゃぁ次の勝負を・・・」


ガイとリーナが午前と同じように作業場に向かおうとしたときふとアルトが声をかける。


「・・・魔法耐性の課題は終わったの?」

「「あっ」」


ふと思ったことを口にするとガイとリーナが声を上げる。

どうやら完全に頭の中から抹消されていたらしい。


「調合って始めるときりがなくなるから最初に課題からやってたほうがいいよ」

「それは、体験談ですか?」

「・・・新しい鉱石手に入れるたびに炉にこもって調合試してたことがあって、気がついたらベットの上だったことが何度か・・・」


さすがに三人の動きが止まる。

いくら夢中になったからといって倒れるまで夢中になるのもどうだろう?

しかも一度でなく前科が何回もあるというのも問題だ。


「あんまり何度も同じこと繰り返したからリシャとラディーにそれぞれ1日づつ説教されて決まった時間以上調合しないって約束させらるくらいにはきりがないかなぁ」

「確かに、先に課題を済ませたほうがよさそうですね・・・」

「てか、それ聞いたら一週間でどこまで課題の精度上げられるか疑問だわよ・・・時間足りないんじゃない?」

「休み返上だな、こりゃ」

「あっ・・・そっか、みんな課題があるんだよね・・・やっぱり無理だよね」


ラディウスに言われたことを思い出したが、彼等は課題の提出がある。さすがに言われたとおりに誘うのにははばかられた。


「無理って何がですか?」


レイルストが独り言に近いアルトの言葉を聞き取ったらしい。聞き返してくる。


「・・・ラディウスが・・・みんなをさそったらどうだって言ってたから・・・」

「誘う?」

「あのラディウスが何に誘えっていったんだ?」

「今度の闘技場のトーナメント。リシャとラディーが一緒に出るから見においでって」

「ちょっとまて、リシャ=フラデットとラディウス=ファーレンがトーナメントに出るってのか!?」

「剣術科ならともかく、魔法科のラディウスが出るってのは意外ね」

「バカ、上位者ってのはたいていトーナメントに出てる。手っ取り早く知名度を上げる手だからな。けどリシャ=フラデットとラディウス=ファーレンの二人は今まで一度もトーナメントに出なかったんだよ。めんどくさいっていってなっ。その二人が出るんだぞ?今回のトーナメントかなり盛り上がるぜ!」


説明しながらガイ本人がすでに盛り上がっている。


「学年関係なく出場するから、先輩の武具とかも見れて勉強になるから誘ってみたらどうかっていってたんだけど・・・課題あるもんね・・・」


しょぼんとアルトが顔を伏せたとき、ドンと目の前の机に手が置かれた。


「俺は行くぜ!そんな面白そうな試合見逃す手はねぇ」

「先輩方の武具を見れるならば行く価値は有りますよね。なら僕も行きます」

「ルストが行くならあたしも行くわ。課題もあるけど息抜きくらいしたって罰は当たらないでしょ」


パチクリと目を見開き三人を見つめる。


「一緒に行ってくれるの?」

「はい。リーナが言った通り息抜きも必要ですし、勉強にもなりますしね。それに、こうやって誰かと一緒に行って意見交換って言うのもいいんじゃないでしょうか?」

「いいなそれ」


すっかり行くことが確定している。

思っても見なかった結果に驚いたが、アルトは初めてリシャ達以外の同年代との行動にジワジワと嬉しさが沸きあがってきた。


「ありがとう。ボク、リシャ達以外の人とどっか行ったりするの初めてだ」


ふにゃりと安心したように笑う。

いつも一人で無表情でいるか、絡まれて泣きそうになっているところしかほとんど見たこと無かったので三人ともつられたように笑った。

なんていうか、頭をなでたくなるようなそんな和ませる雰囲気を持った笑顔だったのだ。


「そういや、リシャ=フラデットは個人戦に出るとして、ラディウス=ファーレンは団体戦だろ?時間がかち合ったら両方見れねぇけど、どっちに行くつもりなんだ?」


剣術科の生徒は個人でも出場できるが、魔法科の生徒はほぼ個人戦には出場しない。詠唱などの問題があり、どうしても不利だからだ。だから大抵魔法科の生徒は2~5人のパーティーを組んで団体戦の方に出場する。

だからガイもそう思ったのも不自然ではない。


「リシャとラディーはペアで出るっていったよ?」

「ペアって・・・二人で団体戦に出るってのか?マジかよ?普通団体戦ってのは定員いっぱい5人で出るのが普通だってのにか?」


アルトの言葉にガイが驚く。完全に予想外な答えだったからだ。


「いくら上位者だっていっても無謀だわ。普通団体戦なら剣術科4魔法科1がベストメンバーだっていわれてるのよ?メンバーが2人で1人は魔法科・・・相手は一年だって限らないんでしょ?完全に不利よ、ラディウス=ファーレンが狙い撃ちされるんじゃない?」


同じくリーナがガイに同意するようにそう言った。

トーナメントの存在は知っていてもその詳細を知らなかったアルトは二人の言葉に不安になる。

彼らが強いことは知っていても自分の知るそれはずいぶんと狭い範囲であることをアルトは自覚していた。

それが世間に何処まで通用するかというのは分からないのだ。


「二人とも、変にアルトさんの不安を煽ってますよ。アルトさんもそんな泣きそうな顔しないで。ただ単に力試しで臨む方もいらっしゃるという話ですし、実際ペアで挑む方もいらっしゃいますからそこまで無謀ということでもありませんよ。上級生ですがペアで団体優勝なさった方々も昨年いらっしゃったという話も聞いたことあります」

「でもそれって二人とも騎士クラスだったって・・・」


ガイが皆まで言う前にニッコリと笑顔でレイルストから無言の圧力がかかった。


「今度の一年の上位者はめったにいない傑物だという噂もありますから、ひょっとすると優勝しちゃったりするかもしれないですよ?」


半ば石化しかかっているガイから視線をはずし、先ほどとは違った笑みを浮かべてアルトに言った。


「トーナメント楽しみですね」

「・・・うん・・・」


ガイを石化させた笑みを見ていないアルトは動かなくなったガイを不思議に思いつつも頷いた。







ちなみに、ガイの石化が解けたのはそれから10分後だった・・・

ガイはへたれ。

おっかしーなぁ・・・最初はちょっと怖いお兄さんタイプだったのに

どうみてもへたれです。



・・・書くたび思う。文章ってむずかしいっ!

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