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邂逅 6

真唯佳(まゆか)は帰宅後、自宅の一階で寛いでいた。


20畳ほどあるリビングに、白く大きい革張りのラブソファと、大きめの木のセンターテーブルを挟んで3人掛けソファーがある。

ラブソファの端寄りに腰をかけ、学校で配布された書類を分類していたところ、学年名簿を見つけたので、誰がどのクラスか確認をしていた。


私と絢祐(けんすけ)が3組で、彬が1組、鈴ちゃんが4組かぁ。絢祐とは一日中一緒って事ね。

そう思いながら、クラスメイトをチェックしていたところ、彼の名前があった。

各務(かがみ)(そう)、2組4番目。


明日、どんな顔をしてお礼を言おう。

隣のクラスに顔を出したら、また熱烈的な歓迎を受けるのかな……

ソファの肘置きに頬杖をついてぼんやりと考えていたところ、彬がリビングに入ってくる。


「ちょっと大事な話がある」

そう言って、真唯佳の正面に座り、どうやら呼ばれたらしい叉夜(さや)が、彬と同じソファーの反対側の端に座る。

「今日、真唯佳が何者かに襲われた」


えっという声を上げて、叉夜の顔が引き締まる。


「結果として、特に大きな傷を負うことはなかった。

だけどいつ次の攻撃を受けるかわからないから、帰宅後すぐにここ一帯に結界を張っておいた。

だからこの家にいれば恐らく問題ない。」

そう、彬は一通り事の経緯を説明する。


「そして、多分だけど、当面は通常の生活が送れると思う。」と付け足す彬に「なんでそんな事が言えるの?」と問いかける真唯佳。

「それは、良くも悪くも、君の力が完全には解放されていないからだよ」

彬は、静かにそう答えた。


どうやら自分は、異世界の不思議の国、ニーベルというところの姫らしい。

幼かった自分は、能力が制御できないので国で問題になったらしく、自分の父親である国王が力を封じ込めてしまったとのこと。


ただし問題が一つ。

生まれ故郷のニーベルは、特殊能力がないものは住む事ができない。


そこで父王は、人間として暮らすようにということで、人間界(というか日本)に自分を送り込んだ。

それが4−5歳の頃の話。

だけどその頃の話は全く覚えていない。


なので日本で何も知らず、とある家庭で生活していたある日、ちょっとした力に目覚めた。

力といっても、触っていないのに消しゴム程度のものが動かせるくらい。


時を同じくして、目の前に彬と叉夜が現れた。

どうやら、ニーベルは、私の力を封印していた術が切れかかっているのを察知したらしい。


そこで、力が暴走して人間界で被害を出すことなく全解放されるように、護衛兼教育係の騎士(ナイト)をつけることとした。

その任務に当たっているのが彬。

そして二人の身の回りの世話をする為に叉夜もついてきた。


それが4−5年前、真唯佳が小学4年生の頃の話。

全ては予定通りに進むかと思われた……が、二つの誤算が起きる。


一つ目は、ちょうどその頃、真唯佳の家の近辺に、怪しいニーベル人が現れていたとのこと。

真の目的は不明。

だけど、父王に反発をしている貴族の一部が、クーデターを狙って王家の限られた者だけが知っていた真唯佳の存在を知り、利用しようとしている可能性があるらしい。

そこで、真唯佳が以前住んでいた街から数百キロ離れた今の家に引っ越すことになる。


もう一つは、自分の封印がなかなか完全に解けないこと。

過去には、能力を高めようとトレーニングなど色んなことを試したが、あまり効果が得られず、せいぜい街の奇人変人コンテストで入賞できるかどうか。

このくらいの能力だと、異世界間を繋ぐ「(ゲート)」がくぐれないらしい。

通過出来ない理由は正確にはわからないが、能力のない人間が無駄に別空間の世界に入れないようになっているのではないかとの事。

ともかく、そうして月日が流れ、今に至る。


「君が王族に復帰していないから、まだ人間界にいることはバレている。

それはすなわち、今、君の身柄を確保したところで帰国できないという事を意味するから、彼らは焦る必要はない。

といっても、手中には収めておきたいだろうから、今後もなんらかの接触はあり得るだろうね。」

その彬の説明はなんだか、中途半端にしか能力に目覚めていないのはいいのか悪いのか、複雑な胸中である。


「何か手立てがあるなら、わざわざ「ご挨拶」なんてせずに、不意をついてとっとと君を掻っ攫えば良いのだから」

彬はそこまで淡々としゃべり、いつの間にか叉夜が用意してくれたお茶を何口か口に含む。

その解説を聞き、朝の一連の出来事を思い出す。

「なるほど、流石「英知(えいち)殿」ね。」

そうコメントをする真唯佳。


ニーベルでは、限られたものしか入れない王宮内で任務を遂行する貴族レベルになると、強力な特殊能力があるだけではなく、生まれながらの特性を持っているらしい。

そしてその、他者の追随を許さない特に優れた特性に、称号の「(おう)」をつけた別名で呼ばれる慣習があるとの事。


例えば、火を操るのに長けたものは「火の翁(若い時は翁子(おうじ))」、並外れた腕力を有する貴族は「剛力翁(ごうりきおう)」など。


彬の場合、「英知(えいち)翁子(おうじ)」と呼ばれているらしい。

剣術や格闘技、戦闘系の魔術はそれほどではないものの、結界を張ったり、特殊な呪文の詠唱を必要とする魔術、薬学の知識が豊富で、戦略的思考において右に出るものがおらず、帰国後は国王の参謀の地位が約束されている。

家でも膨大な量の読書を日頃からしており、なんだかよくわからないプログラミングをしている姿を見かける。


「敵の素性はお分かりなのですか?」との叉夜の問いかけに

「確認中だよ。首謀者に大物の貴族がいるという噂だけど、候補が何人かいるらしく、そこは宮廷と連携をしないと。

今朝接触をしてきた者は、過去に目撃した不審者と同じ気がするから、そこを手がかりに、まずはこの近辺に何人いるか確認する。」

そう彬が答える。


「本当に、いつも通り生活していいの?」

そうおずおずと真唯佳は質問をする。


「選択肢は二つだよ。この家の地下に潜り、部屋から一歩も出ずにひたすら能力に目覚めるまで何週間も何ヶ月も特訓をするか」

そこまで聞いて、過去の辛い特訓を思い出し、思わずゲっと声が出てしまう真唯佳。


「それが非現実的というなら、ニーベルに戻れない以上、いつもの生活を送るしかない。

多分相手は君のことを殺しはしない。王家を揺さぶるための大事な交渉カードだから。

四六時中張り付いてあげられる保証はないけど、僕も可能な限り守る。

ま、何度か接触されているうちに犯人の手がかりも増えるだろうから、ニーベル国内で相手の身元が特定できるんじゃないかな。」


「……じゃあ、これまで通りの生活を……。そして早く犯人が捕まるといいな」

と呟く真唯佳。


「君が狙われているとか関係なく、一般的に、一人にならないとか怪しそうな場所に近づかないようにしていれば、あとはなんとかなるよ。なんとかする」

そう、安心させるように力強く答える彬。


「学校内では彬様がサポートされるのであれば、私はその他の外出ではお供するようにしますね」

そう申し出てくれる叉夜もありがたい。


(王家としては、なるべく能力に目覚めて欲しくないんだろうけどな)

と心の中で呟きながら、立ち上がる彬であった。


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