邂逅 4
「ワタシの名前は各務蒼と言います。中2です。あなたをマユカちゃんと呼んでいいですか?」
「八重神真唯佳よ。中2なんだ、私たちと一緒ね。私たち4人のうちの誰かと同じクラスになるかもね」
一緒に歩いている少年にどう呼ばれたいか判断できないので、とりあえずフルネームで自己紹介をする。
そんな会話をしながら歩くこと、ゆうに5分。
運悪く、声をかけられた場所が職員室から遠い上、生徒たちがよく使う近道を通っていないので、もう少し歩かざるを得ない。
校舎裏など、本来歩道ではないところを通っているところを先生に見つかると、時々注意を受けてしまうので、転校初日でやらないほうがいいと思ったからだ。
「それにしても、島国ニッポンにこんな広い土地があったとは……さぁーっすが私立。」
その言い方が嫌味なのか、心底感動しているのかよく分からないが、彼の発言の意味するところはわかる。
翠陵学園は初等部から大学まで同一敷地内にあるので、かなり広いのだ。
「ねぇ、友達になってくれる?」
「え?なに?」
蒼の唐突なお願いにすぐさま反応できず、真唯佳は思わず聞き返してしまった。
はたして彼の会話は、前後の脈絡というのが存在するのだろうか。
「真唯佳ちゃんって呼んでいい?」
先ほど、わざとスルーした質問が再度戻ってきたので、ちゃんと答えざるを得ない。
「えぇっと……。うーん……。いいわよ」
どうして呼び方に拘るのかよく分からず、またそんなに親しくなるか分からない相手に、馴れ馴れしく下の名前で呼ばれるのもどうかと思いつつ、それ以上の断る理由も思い当たらないので、迷った挙句了承する。
「やった!じゃあ僕のことは蒼くんって呼んでね」
「なんで?」
反射的に聞き返してしまったが、そのあとすぐに後悔することになる。
「なんでって言われても……ただただ純粋に真唯佳ちゃんにそう呼んで欲しいから……俺が蒼くんて呼ばれたらおかしい?変?気持ち悪い??ひょっとして俺のこと嫌い?……だとしたら蒼くん大ショック!!!」
めんどくさっ!そう心の中で叫びながら、フォローを入れる。
「や、そんなことないよ、気持ち悪くないし嫌いじゃないし」
「なら蒼くんって呼んでくれるね?」
「……頑張ります」
「やったーーー!」
つ、ついていけないわ、このテンション……
そう思いながら、チラリと彼の風貌を再確認する。
体型は華奢で背はスラリと高め、モデル体型に近い。
顔もクールな雰囲気があるのに、中身がフレンドリーを通り越してちょっと鬱陶しいのはギャップがある。
10分ほど前に受けた、儚げで落ち着いた第一印象と全然違う。
はっきり言って詐欺レベルだ。
うるささと言ったら、鈴乃と引けを取らないだろう。
だけど、これだけ人懐っこいなら、すぐにクラスに打ち解けられるかもしれない。
「そういえば、どうして転校してきたの?」
大抵は親の都合なのだろうと自分でツッコミながら、話を変えようとして思わず聞いてしまう。
が、さっきのテンションから一転、蒼の顔からヘラヘラした笑みが消え、急に歯切れが悪くなる。
「え、あぁ……まぁ色々ありまして」
そうなんだ……と当たり障りのない返事をする。
あ、この話題はダメなのね、わかりやすい。
複雑なご家庭の事情か何かかしら。うちもよそ様のこと、どうこう言える状況じゃないもんね。
そんなことを考えているうちに、お目当ての建物が見えてきたところだというのに。
ついていない、というか、よりによって、というか……
再び、だ。
さっきの禍々しい気が、真唯佳の周りにまとわりついてきたのは。
「あれが……目の前の建物に職員室があるから……」
そう言いながら急に意識が朦朧とする。
彬には、どう伝えよう……
「え、急にどうしたんだ、おいっ!」
咄嗟に崩れそうな真唯佳を蒼が支えてくれたのは辛うじて分かったが、そこで記憶が途切れてしまった。