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葛藤 4

王宮内 マディラの部屋


城内での生活も10日ほど過ぎたある日の午後。

「パトリック様がお見えです」

そう侍女に声をかけられて、すぐ後に颯爽と現れる腹違いの兄。


「お兄様、ご機嫌麗しゅうございます」

ソファーにて書類に目を通していたマディラが立ち上がり、皇太子に挨拶をする。

「良い、俺に気を遣わなくて良いから」

そう言いながら、彼はマディラのソファの向かいの一人用の椅子に腰をかける。


「どうだ、こっちの生活にも慣れたか?というか、幼少期の記憶はあるのか?青の世界はこことは随分違うと騎士(ナイト)から聞いていたが」

「残念ながら、幼少期の記憶はほとんどありません。ただ、城の配置や生活の決まりを聞けば、すぐに慣れていますので、実な色々覚えているのかもしれません。また皇太子妃メアリー様にも色々ご配慮いただきまして、大変感謝しております。」

「そうか、あれがよくしてくれたか」

出されたお茶を飲みながら、妹の話を聞いて満足そうな顔をするパトリック。


「そういえば、目下の課題は、ひょっとしてお見合い相手選びか?作法などはすぐに思い出せても、王宮に出入りする人間を一度に大量に覚えて、その中から父上がご納得される相手選びは、さぞかし大変であろう」

「そうですね……おっしゃる通りです。お兄様は、どなたか良いかたをご存知ですか?」

そう言いながらマディラは、使用人にお見合い写真をいくつか持って来させて、自分と兄のソファの間の机に置く。


父王は、異母妹(いもうと)を側に置いておきたくないので、早く辺境の地送りか幽閉をしたい。

しかし、当面はもっともらしい口実がないので手っ取り早く、見合いをさせて王族との婚姻ではなく貴族の元へ降嫁させたいようだった。

「いいやつはもう相手がいるからな……曲がりなりにも俺の義弟(おとうと)になるから。あ、これとこれは外してほしいな」というアドバイスをして、皇太子はどんどん候補者を減らしていく。


「騎士団長ファランの息子、ユリウス。有能だけどその自慢の腕力で、お山の大将的な奴だな。騎槍の翁子か。正式な翁への就任はまだみたいだが、お前より年下だからな。悪くはないが、ちょっとヤンチャな噂を聞く。男らしい奴が好みなら、こういうのも良いかもな」

「財務大臣カーヴァンの息子、リヒト。伝令翁か。 今は文章管理などの部門のリーダーをしてたな。学院時代から目立たなかったが、悪くはない。話してみて、お前が気にいるか……」

なぜか兄の方が、妹の相手選びに夢中になり、あっという間に候補者が二人に絞られたのであった。



――――――――――



王宮の庭


柔らかな光が庭園の花々を照らし、風が優しく吹き抜ける。

マディラは、人間界から帰国して以来の疲れを癒すため、久しぶりに広々とした庭を歩いていた。

彼女の心は少し重く、慣れ親しんだ場所であっても、どこかよそよそしさを感じていた。


そんな時、彼女の視界にふと見覚えのある背中が入る。

フードも仮面もなくなり、普通の貴族の青年として、彼は庭園の片隅で静かに佇んでいた。

マディラの胸の奥に、懐かしさとともにあの特別な日々がよぎるが、周囲には使用人や侍女たちがちらほらと目に入る。

彼女は胸に押し込んだ感情を抑え、遠い昔の知り合いを見かけたように、冷静を装いながら彼に歩み寄った。

「……あら、お久しぶりですね。こんなに大きくなって……最後にお会いしたのは、確か幼い頃、ここで遊んでいた時でしょうか?」

姫は微笑みながら、心の奥に秘めた親しみを言葉に乗せるが、それを表に出すことはできない。


彼もまた、冷静な表情で彼女に応える。

「お久しぶりです、姫様。私が学院進学前にお会いして以来ですので、十年以上ぶりでしょうか」

ジュリアンの言葉は控えめで、冷静に保たれている。

周りにいる人々が注視している中で、彼は毅然とした態度を崩さず、あくまで一貴族として姫に接する。


彼のあまりに冷淡な言葉に、一瞬怯み、ただここで会話が終了するのも不自然なので、彼女は言葉を続ける。

「またこの庭で会うことがあるのでしょうか」

「どうでしょう。それは、運命次第かと存じます。ですが、姫様のご健康とご多幸を祈り続けております。」

そういうと英知翁は一礼し、その場を後にした。


もはや彼に話しかけることすら許されぬ関係になったのだと、彼の背中を見送りながら、自分の立場を改めて感じ、マディラは無言でその場を後にした。



――――――――――



皇太子の助言から数日後。


マディラはついに、初めに会うのをリヒト・カーヴァンにすることを決意する。

リヒトは慎重であり、知識と冷静さを持つ相手として、兄も父も彼を好意的に見ていた。


マディラがリヒトとの面談を進めると決めた後、ユリウスは自分が選ばれなかったことに激怒する。

彼は、自分の存在を無視されたことが許せなかった。

どこからか二番手の知らせを知り、彼はますます苛立ち、マディラにその旨の手紙を送ってきた。

姫は元々、腕力にものを言わせて事を成し遂げるタイプの男性が苦手だった。

なのでその書面を読んだ後、感情をおさえられずに発作的に興奮して怒る性格かもしれないので、もしもリヒトとの面談がイマイチでも連絡することを控えようと彼女は考えた。


父王には正式な取り交わしに出てもらうため、その前に彼女は非公式に何度かリヒトと会う事にした。


初めての会話で、彼は何かを考え込んでいるようで、とても慎重に言葉を選びながら話していた。

「このような機会をいただき、光栄に思っています。……僕はこの関係が王女様にとって良いものとなるよう、努力するつもりです。」

マディラはリヒトの不器用な誠実さに少し安堵を感じるが、二人の間にはまだ距離があった。

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