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十字架の女神 第一部  作者: 光城佳洲
不協和音
21/73

不協和音 1

5月下旬の、初夏を思わせる陽射しの週末、昼下がり。

背の高い青年は、定期テストが終わり、気分転換に、とある家に向かっていた。


白い長袖シャツをたくし上げ、濃いめの紺のチノパンツ姿。

同じく濃紺のキャップを目深にかぶっているので、正確な年齢は不明だが、恐らく15−6歳のようだ。

キャップを深く被り顔を隠しながら、途中で寄ったコンビニの袋を手にしている。


駅の改札口を出て、少し歩くと見えてきたのは、鉄骨の3階建てアパート。

彼は、知人にここで会わないようにと、キャップをさらに深くかぶり直し、周囲に注意を払っていた。

アパートの外廊下を歩き、2階の目的の部屋の前に到着してインターホンを押すと、すぐに女性の明るい声が返ってくる。


「はーい、開いてるよ!」


インターホン越しにそう返事が来たので、彼はドアノブを回して、慣れたように部屋に入る。

大学生の部屋に入ると、初夏の風が窓から吹き込んできて、彼女特有の甘い香りとともに彼を包み込む。

部屋はこぢんまりとして、柔らかなライトが温かい雰囲気を醸し出している。

ベッドの上には教科書やノートが散らばっていて、彼女も忙しい日々を送っている様子がうかがえる。


「頼まれていたもの、買ってきましたよ」

彼は帽子をとり、入り口そばのキッチンスペースにいた彼女に袋を差し出し出す。


彼女は嬉しそうに袋を受け取り、中を覗いて「ありがとう」と微笑む。

途中、お茶菓子を買ってきて欲しいと頼んだだけだが、彼女が好きだと言っていたいちご味のポッキーと抹茶味のウエハースチョコが入っていた。

彼女は、彼が自分の好みを覚えてくれていたことに満足感を覚え、彼をますます気に入ってしまう。


勝手知ったるのか、青年はベッドの隣のリビングスペースにあるソファーに腰をかけ、自分の鞄と帽子をソファー横の床に置く。


「緑茶でいいよね。冷たい方がいい?」

「そうですね、外は結構暑かったですよ。一本、いただきますね」

飲み物のリクエストを聞かれたので、返事をしつつ、ソファー前の机にあったタバコに彼は手を伸ばし、火をつけ出す。


「あー、こら、未成年!」

アイスの緑茶が入ったグラスを二つと、彼が買ってきた茶菓子をトレイに載せてキッチンから持ってきた涼子が、青年が既にタバコの煙を燻らせているのを見つけて咎める。

だが、彼は悪びれもせずしれっと返事をする。


「僕、ホントは未成年じゃないですし。だいたい、僕に最初にタバコを勧めたのは涼子さんでしょ」

「未成年じゃないなんて、見え透いた嘘を……」

一応止めてみたものの、本当は怒る気が毛頭ない涼子は、呆れた口調でそう返すだけだ。

机にトレイを置いて彬の隣に座るなり、自分もタバコを吸い始める。

ソファーの正面に置いてある、小さい音量で情報番組を流しているテレビを眺めながら、無言で煙を燻らせる二人。


煙草を吸い終わり、彬は机の上の灰皿で火を消して、そのまま吸い殻を入れる。

ふと思いつき、タバコの箱を手に取り、興味深そうにその表面に書かれた警告文を読む。


「こんなんで、本当に健康を害するんですか?」

「何言ってるの、秀才君。色んな研究データが出てきてるんでしょ。あなたがいつも読んでいる、分厚い本にはそう言う話は出てこないの?」

そう、嫌味を言う涼子。


「どのくらい、寿命を縮めてくれるんですかね?」

数百年も寿命があるうちの、どのくらい?

そう言いたかったが、彼女は自分が人間ではないことを知らないので、その一言は彼の心に留めておく。


「そんなことより」

よくわからない彬の問いかけを終わらせるように返事をしながら、彼から煙草の箱を取り上げて、彼を押し倒す形で自分の唇を押し付ける涼子。

「テスト期間中、寂しかったわ。ずっと待ってたのよ。構ってよ」

そう言って、もう一度唇を重ねながら、相手のシャツのボタンを外し出す。


彬はキスをしながら、目の前の女性の服を脱がし、逆に押し倒し、肌の柔らかさを確かめる。

だが、彼の目には既に涼子は映っていなかった。


ただひたすらに願う。

この温もりを与えてくれるのが、快楽を与えてくれるのが()()であれば、どれだけ幸せであろうか……!

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