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プロローグ

ーーーーーーーーーー


たとえ世界が過ちの色に染まろうとも

つないだ手は ずっと離れないと信じている


たとえ偽りと見なされようとも

君への想いは 変わらないから


ーーーーーーーーーー


薄暗い室内、照明は消されて、障子越しに外の光があるので、かろうじて中の様子が判別できる。

その八畳間の和室には、片隅に小さいちゃぶ台があるだけ。

筆記用具などがいくつか入った古びた鉛筆立てが置かれている。


障子と反対側の壁に、三角座りをしている小学生の女子が一人。

顔を突っ伏しているので、表情を伺うことはできない。


彼女はずっと塞ぎ込んでいた。


しばらくして、だんだん日が落ちて来たのか、室内がさらに暗く、しかし少し赤みがかっていく。

燃える炎を連想させるその色が、彼女にある決断をさせた。


おもむろに立ち、鉛筆立てから手にしたのはハサミだった。

普通の工作用のものだが、少し先がとがっているので、使いようによっては人をも傷つけることが出来るであろう。

そこに、偶然にも彼女の様子を見に来た女性が障子を開け、そのただならぬ雰囲気にヒッと悲鳴を上げる。


「彬様!」女性が叫ぶ。


「私が生きているってことは間違っているんだわ!」

彼女はハサミを逆手に持ち、自分の胸に突き刺した。


「やめろーっ!」

しかし、それは直前で止まっていた。


「くうううぅ……」

思いっきり力を込めているのだが、どうしても自分の胸には刺さらない。何か目に見えない力によって阻止されていた。

「……なぜとめるの……」


声がした廊下に顔を向けると、20代くらいの女性の隣に、いつの間にか10歳くらいの男の子が立っていた。

そして確かに、その不思議な力は彼の能力に違いなかった。

しかし、彼女はその能力について、違和感を感じていない。


男の子は、ゆっくりと同じ年頃の女の子のそばに行き、そっと両手で包み込むようにハサミに手をかけ、優しく彼女の手からはさみを離させる事に成功する。


「なぜ、死のうとするんだい……?自分ができる限りのことを、やってからでも遅くはないと思う」

「でも、それじゃ、もっと多くの人が犠牲になっちゃう。そんなのは、きっと耐えられないよ……」

「もっと人を信じて。僕が守ってあげる。周りの人も、そして君も……」


彼女をじっと見つめるその両の目には、有無を言わせない強い意志の光と、人に安らぎを与える何かの力が宿っていた。


その表情を見た女の子は、ポロポロと泣き出しながら、その言葉を受け入れた。

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