強化人間 後編
「奴の言っていたG7-666、コイツは要するに、第七世代型強化人間、その六百六十六番目、と言う所だ」
「ああ、そ、それは何となく解るが……」
強化人間と言う聞き慣れない言葉に首を傾げた事で、レプティルは端末より関連するデータを引っ張り出してくれた。
折角教えてくれたのでしっかり聞きたかったが、今はフィリアの事よりも、強化人間その物について知りたい。
「その、強化人間?てのは何なんだ?」
「世代ごとに施術方法何かの違いは有るんだが、変わっていないのは、人型種族を兵器として扱う事を目的としているって所さ、もちろん子供だけじゃなくて大人も居たらしいけどね」
「……あまり良い物って訳じゃないって事か」
レプティルの発言から考えて、本来は人型種族の大人を兵器扱いする為の物。
崩壊戦末期は学徒出陣のような物が有ったと聞いているアーシャ達は、フィリアもその手の徴兵でその施術を受けたのだろうと予想した。
「まぁそれが何でそんな所にあるかは分からないがな」
「で、具体的にはどんな強化がされてんだ?俺の耳にも特に何も違和感は無いが」
「そうだな、確か……」
自慢の聴覚をもってしてもフィリアを普通の人間としてしか認識できなかったサーバルの為に、レプティルはまた手持ちの端末を操作する。
第七世代型強化人間の強化内容の項目を見つけたのか、アゴに手を置きながら数秒眺めると、思い出したかのように端末から目を離す。
「第七世代型の施術としては、生体ファイバーとナノマシンを用いた物だな」
「生体ファイバー?このスーツとかに使われてるやつだろ?」
聞き覚えのある単語に反応したアーシャは、自分の着ているインナースーツを示した。
生体ファイバーは、微弱な魔力さえ有れば第二の筋肉等として扱えるだけでなく、装甲の複合材や駆動系にも扱われている万能素材だ。
機械工学的に難しいとされている二足歩行兵器を実現できたのも、この生体ファイバーの恩恵が有ったからこそ。
だが、生体ファイバーの活用方法はそれだけではない。
「ああ、だが、知っての通り、生体ファイバーは兵器運用も行えるが、義手や義足のような医療品としても扱う事ができる、筋肉や骨と細胞レベルで癒着してな」
「成程、だがどうやってだ?万能な素材って言っても、繊維なんだから体内に埋め込むにしても手間がかかるだろ」
「詳細までは解らないが、特別な術式を用いて繊維状から液体に近い状態に加工できるらしくてな、それを体内に注入して、筋肉はもちろん、皮膚、神経、骨や内臓に至るまでを置き換えて強化しているらしい、その上ナノマシンを脳内に注射して、レーダーやセンサーを兼ねられる機能を持たされているんだ」
「(成程、モンスーンの機体を発見できたのはその恩恵か)」
元々覚えていた内容だったのか、再度端末に目を通すことなくレプティルはすらすらと概要を説明した。
長々語られたセリフはアーシャの中でまとめられ、簡単な解説へと変換する。
「……つまり、アイツを含めた強化人間達は、常にメイジギアを装着しているような状態、と言う事か?」
「簡単に言うとそう言う事さね、正に人間兵器だ」
アーシャの言葉にうなずいたレプティルは画面を切り替え、本来の作業へと戻って行く。
先ほどまで眠そうな顔をしていたというのに、一番好きな遺物の話をしたせいか、顔の血色はかなり改善している。
おまけに作業速度も心なしか向上しており、口角も僅かに上がっている。
「くくく、しかも強化人間は、今やそのほとんどが消息を絶って記録しか残っていない、まさかソイツをこの目に拝められるなんてね」
「あはは、お仕事に熱心なレプティルさん、やっぱいいね」
「(相変わらず復活早)」
嬉々として作業を始めるレプティルを眺める傍らで、いつの間にかケフュレスは復活していた。
折れていた鼻も前歯も何事も無かったかのように再生しており、残っているのは拭ききれずに固まった血液だけだが、それも拭き取りながら熱心に作業をこなすレプティルを眺めだす。
だがこんな彼女より、アーシャは自身の腹の虫の方が気になって仕方がない。
「そんな事より飯だ、そろそろ飯の時間だろ?」
「てか、何時までそうしてんだ、行くぞケフュレス」
「えー、もうちょっと眺めさせてよ~」
「駄々こねるな、行くぞ」
「うへー」
身体を休める事も彼女達戦闘員の仕事という事で、余程の事が無い限り戦闘後は実質的な非番を与えられている。
なので、武器や装備品の整備は全てここのスタッフに任せておき、あからさまに嫌そうな顔を浮かべるケフュレスを連行して食堂へ向かう。
「も~、アーシャちゃん、誰に助けられたと思ってるの~、恩人に対してぞんざい過ぎな~い?」
「……」
地味に心の古傷をえぐられ、胸に痛みを覚えた。
過去にアーシャはケフュレスのおかげで地獄から救い出された過去を持っており、彼女に救い出されたおかげで今を生きている。
だが、それはそれだ。
「感謝こそしているが、それとこれとは話が別だ」
「ちぇ、あの時は素直で可愛かったのに~、それに初めて会った時から思ってたんだよ、この子は必ず、私の伴侶であり、一番のロリコン仲間に育てるんだって」
「どんだけ前から気持ち悪い事考えてたんだよテメェは、まぁ失敗してなによりだ」
「そんな事無いよ、ほら、一緒に想像してみなよ、沢山の子供達に囲まれて、お姉ちゃん、お姉さん、色々な呼ばれ方をしてくる子達を、愛で、そして育む、グヘヘ、愛情ばかりが湧き出て来るでしょ?」
「罪状なら山ほど乱立してくるが?」
説得でもしたいのか、顔を赤くしながら表情も歪めるケフュレスからは軽蔑しか沸いてこない。
いっそ憲兵にでも突き出して営倉にでもぶちこんでもらった方が良いかもしれないと、頭を悩ませてしまっているというのに、ケフュレスはまだ諦めようとしない。
「だったら今ここで素晴らしい提案をするよ、貴女もロリコンにならない?」
「そんなもんになる位なら鬼になる事選ぶわ」
「そんな事言わないで!今のご時世ロリだろうがショタだろうが、関係持っても手を出しても犯罪でもなんでもない、勧善の事だよ!」
「懲悪だわ!」
「その倫理も有ってないような物だから!」
「だからって心置きなくやっていい訳じゃねぇからな!!」
「さっさと飯行くぞ!!」
何故か白熱してしまった口論は、サーバルの大声によってようやく静止した。
他のスタッフも聞いていられないような内容もようやく終わり、三人は食堂へと向かう事になった。




