強化人間 後編
「強化人間の事、もうちょっと教えてくれ」
「奴の言っていたG7-666、コイツは要するに、第七世代型強化人間、その666番目、と言う所だ」
「(あんなのが後665体も居たのかよ、じゃなくて)」
崩壊戦時がどれだけ危険地帯だったのか、軽く妄想して身震いしてしまう。
だが、それより一番聞きたい事がある。
「いや、そこじゃなくてだな、どんな施術をする?」
「世代ごとに施術方法何かの違いは有る、もちろん子供だけじゃなくて大人にもできる施せる奴だ」
「そうか(だったら私でも)」
「んで、あの子のはっと……」
先ほどの忠告を無視した形ではあったが、レプティルは端末でデータを検索。
やはりこの艦にはそれ程の情報が無いのか、ちょっと難航する。
「あー、やっぱ少ないな、出て来たのは戦争のかなり後半って事だからね……」
「それより、俺の耳にも違和感無かったんだが、本当にあの子強化人間なのか?」
「……」
サーバルの発言に、アーシャも少し揺らいだ。
フィリアを見ている限りでは、先ほどレプティルの言っていた副作用は見られなかった。
「そいつは間違いないよ、彼女の言動何かを見てもね」
「……けどサーバルの耳でも解んないんだろ?」
「あ、データ有った、と」
負傷箇所さえ音で解るサーバル達描人族の聴覚。
それでも生身の人間との差異を判別できないという事は、フィリアはただの子供の可能性がある。
「そいつはね、第七世代型は、生体ファイバーとナノマシンを用いた物だからな」
「生体ファイバー?このスーツなんかに使われてるやつだろ?」
「あー、じゃぁわかんねぇわ、音が普通の筋肉と変わんねぇからな」
聞き覚えのある単語に反応したアーシャは、自分の着ているインナースーツを示した。
微弱な魔力にも反応し、追加の筋肉として扱える特殊繊維だ。
「ああ、メイジギア、アーマードナイト、現在運用されている兵器にも使われている、そのうえ、義手何かの材料にもなる、その性質を利用して作り替えてるらしい」
「成程、けど、どうやってだ?」
「詳細までは解らないが、特別な術式を用いて繊維状から液体に近い状態に加工できるらしくてな、それを体内に注入して、筋肉はもちろん、皮膚、神経、骨や内臓に至るまでを強化しているらしい、その上ナノマシンを脳内に注射して、レーダーやセンサーを兼ねられる機能を持たされているんだ」
「(成程、モンスーンの機体を発見できたのはその恩恵か」
元々覚えていた内容だったのか、端末に目を通すことなくレプティルはすらすらと概要を説明した。
長々語られたセリフはアーシャの中でまとめられ、簡単な解説へと変換する。
「……つまり、アイツを含めた強化人間達は、常にメイジギアを装着しているような状態、と言う事か?」
「簡単に言うとそう言う事さね、正に人間兵器だ」
アーシャの言葉にうなずいたレプティルは画面を切り替え、本来の作業へと戻って行く。
先ほどまで眠そうな顔をしていたというのに、一番好きな遺物の話をしたせいか、顔の血色はかなり改善している。
おまけに作業速度も心なしか向上しており、口角も僅かに上がっている。
「くくく、しかも強化人間は、今やそのほとんどが消息を絶って記録しか残っていない、まさかソイツをこの目に拝められるなんてね」
「……それで、今の技術で再現できるのか?」
「……」
しかし、アーシャの発言で作業は止まる。
意図を見抜かれたのか、爬虫類が得物を見つけたような目で睨んで来る。
「(……目、怖)」
「……結論から言って無理だよ、生体ファイバーを液状にって所と、専用のナノマシンが無い」
「……そうか(クソ、だけど、ナノマシンならアイツの頭に)」
何とかして再現できないものかと、思考するアーシャ。
だが、そんな彼女にレプティルは絡みついて来る。
「研究の一環でアンタを改造してやってもいいがね、残念ながら、あの子の年齢が一番施術の適性が高い、それ以降はどんどん成功率は下がる、アンタ位だと、成功率はもう一割未満だろうね」
「……それでも、私は」
たとえ一割でも可能性があるのであれば。
そんな淡い期待を抱くが、レプティルは笑いながらアーシャの拘束を解く。
「……まぁ諦める事だ、確率云々の前に、無い袖は振れないって奴だ」
「……チ」
作業へ戻っていったレプティルを軽く睨み、アーシャは軽く拳を握り締めた。
弱さからくる乾き、それがアーシャを強さに引き寄せる。
「(……いや、未発見の遺跡はまだいくつもある、そこで強化人間に関する情報を集めればいい、最悪、その位置をアイツから吐かせれば)」
「あはは、お仕事に熱心なレプティルさん、やっぱいいね」
「(相変わらず復活早)」
嬉々として作業を始めるレプティルを睨む横で、いつの間にかケフュレスは復活していた。
横からの鬱陶しい気配は無視し、身体を軽く叩いて来たサーバルの方を向く。
「そんな事より飯だ、そろそろ飯の時間だろ?」
「……それもそうだな、行くぞケフュレス」
「……さっき、随分物騒な話しだったね」
「……お前には関係ない」
珍しく真剣なケフュレスにペースを狂わされたが、アーシャはサーバルの事を追いかけようと振り返る。
すると、その背後からケフュレスが抱き着いて来る。
「も~、アーシャちゃん、誰に助けられたと思ってるの~?恩人に対してぞんざい過ぎな~い?」
「……」
地味に心の古傷をえぐられ、胸に痛みを覚えた。
確かにケフュレスのおかげで地獄から救い出され、今と言う時間を生きる事ができている。
だが、それはそれだ。
「感謝こそしているが、それとこれとは話が別だ」
「ちぇ、あの時は素直で可愛かったのに~、それに初めて会った時から思ってたんだよ、この子は必ず、私の伴侶であり、一番のロリコン仲間に育てるんだって」
「どんだけ前から気持ち悪い事考えてたんだよ、テメェは、まぁ失敗してなによりだ」
「……」
反論するとやたらと強めに抱きしめだし、不快感が強まる。
さっさと振り払おうとすると、アーシャの耳に吐息がかかる。
「私は、改造された貴女より、今の貴女の方が好きかな」
「……何でお前まで引き留めてるんだよ」
「好きだから、変わりゆく短命種の姿が……フィリアちゃんより小さかった貴女が、こんなに大きくなったように」
「長命種も大変だな、特に今は」
「まぁね」
過去の事を知る人物は貴重である昨今、ケフュレスのようなエルフは狙われやすい。
その事に軽く同情はするも、それはそれ。
強くなれる道筋がどんな邪道であっても、進める道は進むのみだ。
「とにかく、何を言われようが、私は力が欲しいんでね」
「だったら今ここで素晴らしい提案をするよ、貴女もロリコンにならない?」
「そんなもんになる位なら、強化人間になる事選ぶわ」
嫌悪いっぱいに振り払い、アーシャはさっさと移動。
だが、ケフュレスはまだしつこく絡んで来る。
「そんな事言わないで!今のご時世ロリだろうがショタだろうが、関係持っても手を出しても犯罪でもなんでもない、勧善の事だよ!」
「懲悪だわ!」
「さっさと飯行くぞ!!」
何故か白熱してしまった口論は、サーバルの大声によってようやく静止した。
他のスタッフも聞いていられないような内容もようやく終わり、三人は食堂へと向かう。
その途中で、アーシャの脳裏に嫌な記憶が過ぎる。
「(……チ、ケフュレスのせいで、嫌な事思い出しちまった、何が子供と関係持っても犯罪じゃないだ、あんなクズ野郎共)」
ケフュレスのせいもあって、少し思い出してしまった。
抵抗したせいで、撃ち殺された両親の姿を。
そして、思わずその時の自分とフィリアを重ねてしまう。
「(……考えてみると、アイツも犠牲者なんだな、この狂った世界の)」
適性が有るからと、強化人間の施術を受けたフィリア。
金になるからと、奴隷の身分に墜とされたアーシャ。
狂ったこの世界に人生を台無しにされた。
「(……解ってくれるか?私の苦しみが)」




