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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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耳元の銃声

 落ち着きを取り戻したシュカを連れ、フィリアは屋上へと赴いていた。

 そよ風に当たる二人は、隣り合わせになりながら外を眺める。


「……よろしければ」

「……」


 隣に立つシュカに、フィリアは携帯食の半分を手渡した。

 奪いとるように受け取った彼女は、フィリアと共にじっと見つめる。


「……昔から、こればかりだった」

「……ええ、私もです」


 二人の思い浮かぶ食事と言えば、今手に持っている携帯食。

 毎日三食出されていたが、二人は平気な顔で口へと放り込む。


「でも、何故か受け付ける」

「謎の中毒性有りますよね」


 中毒症状の出る物が無いというのに、二人はあっさり食べ終わる。


「……で、何だよ、僕に話したい事って」

「……」


 柵を背にしながら座り込んだシュカに合わせて、フィリアも座り込む。

 目に影を落とし、薄っすらとアーシャの事を思い浮かべる。

 だが、その前に言っておく事があった。


「先ずことわっておきます、私は私自身の利得の為に貴女を利用してる、と」

「……逆に清々しいな」

「すみません、後で信用できなくなった、とは言われたくないので」


 軽く頭を下げたフィリアは、本題に入る為に正座に切り替える。

 そして、粗雑に座るシュカに面と向かう。


「……私は、貴女と同じです、兵器として、幼少の頃から訓練して、多くの人間を殺して来ました、マスターの為に」

「ああ」


 細めた目で、シュカは軽く頷いた。


「そして、一緒に訓練した仲間もいましたが、ほとんど亡くなりました」

「……はぁ」

「それから」

「前置きはいい、さっさと要点話せ」

「……はい」


 ため息と共に発せられたセリフに、フィリアは息を整える。

 そして、自らの喉に突き刺さる言葉を吐き出す。


「私は、その、そんな過去を捨てていいのかと」

「……」


 言われた通りに要点を話したものの、シュカの表情は曇った。

 それどころか、目に怒りの炎が見える。


「そんな事の為に僕に話しかけたのかよ!?」

「はい」

「ふざけんな!そんな事知るか!だから自分が無いんだよ!お前は!!」


 勢いよく立ち上がったシュカの言葉は、次々フィリアの胸に突き刺さった。

 胸を抑えるフィリアは、大きく息を吸う。

 初めて会った時に指摘され、ずっと気にしていた。


「(……彼女の言う通りだ、だから)」


 爪で皮膚を突き破りそうな程拳を握ったフィリアは、思わずつぶやく。


「それが、嫌だから」


 シュカに聞こえない程のボリュームで呟き、フィリアは上を向く。

 すっかり顔を真っ赤に染める彼女の足は、施設の方へと向かってしまう。


「じゃぁな」

「ま、待ってください!私は真剣に悩んでるんです!」


 帰られる前に、フィリアはシュカの腰に抱き着いた。

 それでもシュカは止まらず、ゆっくりと扉へ向かう。


「うるさいんだよ、悩みに付き合おうとか考えた僕が甘かった」

「だから!さっき聞いたじゃないですか!亡くなったご友人に何を思っているのか、と!」

「ギ……」

「……あ」


 彼女の地雷を踏み抜いた事に気付き、フィリアは冷や汗をかく。

 シュカはヘッドフォンで耳を覆い、息を荒くする。


「うるさいんだよ!本当に!」


 叫んだシュカは、フィリアの事を蹴り飛ばした。


「ッ!待って!」


 フィリアはまたもや抱きしめるも、シュカの反応は薄い。

 まるでフィリアを気に留めず、汗を流しながらヘッドフォンを抑える。


「あー!うるさい!」

「……」

「うるさい!うるさい!」


 叫びながら腕を振り回すシュカは、銃声の幻聴が響き渡る耳を抑え続ける。

 それでも耳元で発砲されているように騒がしく、次第にマズルフラッシュまでもが見えて来た。

 幻影に目を眩ませるシュカは、呼吸を更に荒くしながら両手を目の前に持って来る。


「はぁ、はぁ……」


 命乞いをする彼らを射殺しろと、周りの大人達は命令を下してくる。

 射撃訓練を名目とした処刑を行えと、シュカへ迫る。


『これは殺しではない』


 耳元でそう呟く大人はシュカの手を取り、ゆっくりと傭兵へと照準を合わせる。

 まだ殺しをした事の無い時期のシュカは発砲をためらい、保持する銃を震わせる。


『これは』

「いやだぁぁ!」

『救済だ』


 引き金は引かれ、傭兵の一人が悲痛な断末魔を響かせる。

 それだけで心がえぐられるも、地獄は始まったばかり。

 叫び散らす彼らを、仲間達は次々と射殺する。

 そすれば、ご褒美がもらえるから。


「やめろ」


 うずくまるシュカは耳を抑え、目も勢いよく閉じた。

 それでも銃声と断末魔が手を貫き、鼓膜を振るわせて来る。


「もう撃たないでくれぇぇぇ!」

「……」


 両耳を抑えながら叫ぶシュカを前にするフィリアは、自分の右手を見つめる。

 例えまた何か言われようと、今は彼女を正気に戻す。

 そう言い聞かせ、フィリアは手を振るう。


「シュカさん!!」

「ッ!」


 そう叫んだ瞬間、シュカの頬に衝撃が走った。

 フィリアの手でシュカの頬は叩かれ、今まで幻覚と幻聴は消える。

 おかげで、一時的に我に返る。


「は、はぁ、あ……」


 僅かに戻った視界に、震える右手を抑えるフィリアを捉える。

 そして、彼女は未だに震える両手を差し出す。


「シュカさん!落ち着いて、私を見て」

「……」

「ゆっくり息を、呼吸して」


 フィリアの両手に頬を包まれたシュカは、彼女の青い瞳を見つめる。

 そして、彼女の手に自分の手を重ねる。


「ッ」

「あ!」


 意識を取り戻した事で、シュカは目を逸らした。

 更に手を振り掃おうとするも、頑なにフィリアはそれを許そうとしない。


「見て!私を!見てください!」

「……」


 目を閉じながら顔を逸らす事さえ、フィリアはそれを許さない。

 いつまでも同じ姿勢を続けるフィリアに、シュカは少しずつ目を開けていく。


「……なん、で」

「……私、も……私も、貴女と同じですから」


 大人から向けられる見下した目でも無く、他の子供が浮かべる虚ろな目でもない。

 真剣なその眼差しに、シュカの心は僅かに解れる。


「……僕は、僕には、友人なんて居なかった」

「……」


 光りの宿らない目を浮かべたシュカは、フィリアに抱きしめられた。

 そして、背中を軽く撫でられる。


「周りは、薬の為に、殺しをする、連中、だった」

「そう、でしたか」


 またもや涙を流すシュカは、震える手でフィリアの事を抱きしめる。

 こんな事をしてくれる大人も子供も居なかったせいか、この暖かさに心を緩ませてしまう。


「僕は、ぼく、は……」


 フィリアの温もりに包まれながら、シュカは言葉を続ける。


「もう誰も、信じたく、無かったのに」


 涙を零しながら、目の前の温もりをもっと引き寄せる。


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