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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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少年兵

 しばらくして。

 アーシャとフィリア以外のメンバーは孤児院を離れた。

 残されたフィリアは、先日の一見以来アーシャと口を聞けずにいた。


「……私は、どうすれば」


 仕事の合間に思い悩むフィリアは、先日の事を思い出す。


「(私が捨てるべきもの……やはり、兵器として過ごしてきた過去、か?)」


 脳裏に過ぎったのは、思い立ってすぐに捨てようとは思えない代物。

 未だに曖昧な記憶の中で、確かに居る仲間達との思い出。


「(後ろ髪を引かれているのは解っている、だけど……)」


 関係性こそ思い出せないが、確かに仲間達の死んでいった姿は覚えている。

 彼女達の事を想うと、どうしても一歩踏み出せない。


「……はぁ」


 ため息をついたフィリアは、ふと空を見上げた。

 今は少年組達が外で遊ぶ時間で幼年組達の姿はなく、スポーツで賑わっている。

 ゆっくりと視線を落とし、ボーっと子供達を眺める。


「……ん?」


 そんなフィリアの耳に入り込む、石を木にぶつける音。

 ここに来て初めて出会った少女が、こんな音を延々と鳴らしていた。


「あの子、また」


 音の方を向いたフィリアは、またもや輪に馴染めていない彼女、シュカの姿を捉える。


「(……私と同じ、幼少から戦いを強いられて来た子供)」


 気づけばその足は彼女の方へと向かい、フィリアは隣に立った。

 一瞬目が合ってから見向きもされなくなってしまうが、フィリアは彼女の目を横から見つめる。

 戦場を見て心を壊された虚ろの目。

 アーマー展開時に施される感情抑制が無ければ、今頃自分も浮かべていた目だ。


「……貴女は」

「……」

「貴女は、どう生きたいですか?」


 石を投げる手を止めたシュカは、フィリアの方をゆっくりと向いて来た。


「……何の用だ?僕に来やすく話しかけるな」


 相変わらず殺気の籠った目を彼女は向けて来た。

 そんな彼女の目に臆する事無く、フィリアはゆっくりと歩み寄る。


「……こ」


 胸と喉の間に痛みが走った。

 まるで、言葉が自分を傷つけているように。


「(苦しい)」


 近くにあるのに、果てしなく遠く感じる一歩。

 一度首を左右に振ったフィリアは、震えた声を出す。


「こ、こんな、こんな事を聞くのは、野暮、どころ、では、無いのですが」

「……」


 踏み出したくなかった一歩を、フィリアは踏みしめる。


「貴女は、亡くなられたご友人に対して、どんな想いで、ここに居るんですか?」

「ッ、気安く……」


 フィリアの発言に対して鋭い表情を浮かべたシュカは、耳を抑えながら石を握り締める。

 彼女の姿を見たフィリアは、首のチョーカーに手を置く。


「話しかけるなと、言っている!」


 癇癪を起したシュカの手で石は投擲されるも、先に展開されていたアーマーに防がれた。

 完全防備となったフィリアは、ゆっくりとシュカへと手を伸ばす。


「……」

「く、来るな!」


 アーマーを展開したフィリアと言う異物を目にしたせいか、シュカの表情は恐怖に染まった。

 冷や汗を垂らして後退するシュカの手をそっと包むように握ったフィリアは、アーマーを解除する。


「……酷い手、さぞ、苦労されたのでしょう」

「……うるさい!」

「……」


 フィリアの手は跳ね除けられ、シュカは首掛けているヘッドフォンを装着。

 また苦悶の表情を浮かべたシュカは、勢いよく耳を抑える。


「うるさい、うるさい!チクショウ!耳元で撃つな!!」

「ッ」


 強張った表情で耳を抑えては、シュカは狂ったように片手を振るった。

 彼女から少し距離を置こうとしたフィリアは、すぐに立ち戻る。


「ああああ!」


 考えていると、シュカはまたどこかへ走り去ろうとする。

 逃げられる前に、フィリアは彼女の手を取る。


「待って!」

「黙れ!うるさい、うるさいんだよ!」


 徐々に呼吸を荒くするシュカの顔は汗で塗れ、握っている手からも高い心拍数を検知。

 慣れた手でCQCを披露し、シュカの事を拘束。


「ッ!」


 訓練された動きで、シュカはフィリアの拘束を脱出。

 逆にフィリアは掴まれ、投げ飛ばされかけてしまう。


「(いや、これじゃない)」


 持ち直したフィリアは、またシュカへと手を伸ばす。

 彼女のトラウマを刺激してしまうと判断し、咄嗟に動きを変更する。


「あ」

「……」


 洗練された動きでは無く、ただ正面から抱きしめた。

 誰でもやる、普通の抱擁だ。

 二人そろって座り込み、そっと背を撫でる。


「(本当はマスターにするつもりだったが、まさかこの子に使うとは)」

「……何だよ」

「意識を集中させてください、私の心臓の音だけを聞いてください」


 個人的に調べ、こっそりと練習していた事。

 自分の心音をシュカに聞こえるようにし、彼女の体を包み込む。


「心音、それがどうした、僕の耳は」

「分かっています、カルテを見ましたから」


 彼女を苦しめる音を少しでも和らげられればと思い、フィリアは更に言葉を投げかける。


「だから落ち着いて、私は貴女のそばに居ますから」

「うるさい、そんな言葉が、信用できるか、優しさは、全部嘘だ!」


 引き離そうと力を込めて来るが、フィリアはアーマー無しでこらえる。

 本来の力しか出せなくとも、腕が千切れんばかりの力で抑え込む。


「……信用しなくて構いません、ただ、私は貴女と話がしたい」

「黙れ!」

「ッ」


 言葉を跳ね除けるように、シュカの拳はフィリアの肩を捉える。

 何度も何度も殴られ歯を食いしばるフィリアは、肩のきしむ痛みをこらえる。


「(……この子一人を救えないようでは、マスターを守るなんて、夢のまた夢だ)」


 シュカをアーシャと重ねたフィリアは、拳を止める事無く抱きしめる。

 ただ優しく、一番助けたい人を想いながら。


「黙れ、だまれ……」


 徐々に目から涙を零すシュカは、徐々に力を弱めていく。

 涙でフィリアのエプロンを濡らし、静かに泣きだす。


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