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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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先生

 翌日。

 この日のアーシャは、アンジェラと共に古着やぬいぐるみの修理に携わっていた。

 フィリアもすぐ近くでオモチャの修理を行い、二人の視線は顔だけミイラ状態のアーシャに向けられる。


「(……痛って)」


 一応ケフュレスに回復魔法をかけて貰ったが、まだ鼓動のようなリズムで痛みが走る。

 特に最後の額に受けた一撃は、今も殴られているように痛い。

 その気を紛らわすように、アーシャはほつれたセーターを編み直す。


「あ、あの、マスター、非常に聞きづらいんですが」

「……何だ?」

「昨日、何が」


 オセロットにボコボコにされた。

 そんな言葉がアーシャの口から出る訳も無く、目を逸らしながら答える。


「……自動ドアに挟まった」

「ここに自動ドアは無いわよ」

「……」


 すぐにアンジェラに反論され、アーシャはまた口をすぼめる。


「じゃぁ転んだ」

「じゃぁとか言ってる時点で違いますよね?」

「……なんでもいいだろ」


 ロボットのオモチャを修理するフィリアから、アーシャは目を逸らした。

 そんな二人のやり取りを目にするアンジェラは、静かにほほ笑む。


「フィリアちゃん、私達みたいな大人の女の子にも、色々有るのよ」

「先生、アンタ男でしょ」

「うふふ、でも、女心も解ってるつもりよ」

「……」


 女性と名乗るにはあまりにも屈強な体躯、少しでも強面を可愛くしようと施された化粧。

 そんな見た目に反して、彼もチマチマと人形の修理を続けている。

 だが、アーシャにとって彼は特別な存在でもある。


「先生」

「なぁに?」

「その……」

「どうしたの?私は貴女の先生でもあるのよ、遠慮しないで」


 縫う手を止めたアーシャは、セーターを握り締める。


「守るって、なんなんでしょう、もう師匠でもある貴方にしか、聞けそうになくて」

「え」


 アーシャの言葉に、フィリアの作業する手は止まった。

 そんな彼女を横目にするアーシャは、セーターを膝の上に置く。


「ん?どうした?」

「あ、いえ、その、子弟のご関係なんですか?」

「あれ?言ってなかったか?」

「あら、実はそうなのよ、この子、私のいろんな意味で私の教え子なのよ」

「ついでに言うと、スコールの先代の隊長」

「そ、そうなんですか、す、すみません、話の腰を折ってしまって」

「まぁまぁ、そんな謝る事じゃないわよ」


 頭を下げたフィリアの頭を撫でたアンジェラは、直し終えた人形をテーブルに置く。

 次に直す物を手に取ると、優しい表情を浮かべながら作業を開始する。

 そんな彼の姿を見つめながら、アーシャの手は完全に止まる。


「守る、そうねぇ、私はその人の為に何ができるか寄り添ってみるかしらね?」

「……」

「でも、急にどうしたの?貴女らしくないわ」

「……今のままだと、私は目的を果たせるとはとても思えないんです」


 熱くなる目頭を押さえながら、アーシャは串刺しになったフィリアを思い出す。

 大量に血を流して倒れた彼女の姿を思い浮かべただけで、脳が揺れるような感覚に陥る。


「フィリアすら守れないのに、無事かもわからないマックスを助ける何て、寝言でしかないですよね」

「ま、マスター、その事はもう良いと」


 直したオモチャをテーブルに置いたフィリアは、椅子の上に立ち上がった。

 彼女から視線を外したアーシャは、何も答えられない。


「……」

「フィリアちゃん、今この子は責任の話をしているのよ、貴女がどうとかではなく、今後同じ事を起こさない様にって」

「……ですが、もう過ぎた事です」

「……けど、実際に起こった事だ、また生き残れる保証はない!」

「あれは私の過ちです、マスターが気にする事ではありません!」

「それでも私がどうにかできた事だ、お前達の隊長としての責務があるんだよ!」

「それで貴女が死んでしまえば、私が貴女に仕えていた意味が無くなってしまうんですよ!」


 気づけば二人はテーブルを乗り出し、互いに睨み合う。

 しかし、その二人の間にアンジェラが入り込む。


「はいはい、二人共落ち着いて!」

「ぬ」

「うぐ」


 彼の怪力で抑え込まれた二人は、無理矢理席につかせられる。

 そして、今まで笑みを絶やさなかったアンジェラの顔は強張る。


「アーシャちゃん、責任を背負う事は良いけどもう少し周りを見なさい、フィリアちゃんも、言う通りかもしれないけど身近な人の厚意は受け取る物よ」

「……」

「……」


 黙ってしまう二人は、互いに目を逸らした。

 そんな二人を目にするアンジェラは、腕を組みながらため息を吐く。


「私はもう失いたく……」


 そう言ったアーシャは、フィリアの方を見つめる。

 胸に痛みを覚え、少し勢いよく立ち上がった。


「いや、いい……糸が減って来た、取って来る」

「……ええ、行ってらっしゃい」


 表情に影を落としたアーシャは、部屋を出て行った。

 彼女の寂しさを纏った背中を見送るアンジェラは、ゆっくりとフィリアの方を向く。


「……マスター」

「フィリアちゃん」

「私は、私だって、貴女を……」

「もう」


 俯いたフィリアの頭に手を置き、軽く撫でる。

 胸に手を置く彼女は、指が白くなるまで力を籠め始める。


「そんなになっても言えないって事は、何か事情が有るのね」

「……」


 アンジェラの問いかけに対し、フィリアは数回頷いた。

 彼女の様子を目にしたアンジェラは、作業の手を再開する。


「……人には色々あるものね、例えば、貴女達が会ったドレイクさんとか」

「……あの人が、何か?」


 報告書の内容を思い出しながら、アンジェラは自分の記憶を呼び覚ます。

 そして、声を震わせるフィリアに微笑みながら語りだす。


「ドラゴノイドは穏やかな種族よ、仕事でもかつての同盟族や子供を殺すような事はしない筈」

「……でも、実際殺されかけました」

「きっとその人は、種族の矜持を曲げた……どう?貴女も、大胆に捨ててみるのは」

「……捨てる、ですか」


 そう言いながら、フィリアは首のチョーカーに触れた。

 数秒程目を閉じながら黙っていると、フィリアは目をゆっくりと明ける。


「少し、考えてみます、守られるだけは、私も嫌なので」

「ッ、え、ええ、それが良いわ」


 少し目に光が戻ったフィリアは、自分の作業を再開する。


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