強化人間 前編
荒廃した様子を眺め終えた後。
アーシャ達は近くのエレベーターを使って格納庫へと移動していた。
「はぁ、相変わらず騒がしいな、ここは」
リフトで下がるアーシャ達の目に映るのは、忙しく動く整備班や戦闘班のスタッフ達。
傭兵団『ヴェイザー』の一員達は、保有しているメイジギアとアーマードナイトの整備を行っている。
「しかたねぇだろ、一応魔獣とか賊がいねぇ訳じゃねぇんだ」
「そうだけどな」
万全の戦力維持のため常に稼働している空間へ、三人は降り立つ。
そして、早速装備を預ける為の区画へと向かう。
「よう、なんか大変だったみたいだな」
「ああ、早朝任務ってだけで疲れるってのに」
ドワーフの整備士に茶化されながら、アーシャは専用のハンガーにメイジギアを預ける。
装備類も回収され、ヘルメットも外される。
夜空のように綺麗な黒髪が現れ、首を左右に振り、痒みの有った部分を雑にかきむしる。
「それで、レプティルの奴はどこだ?」
「アイツならライトニング共の所だ、なんか有ったのか?」
「ああ、ちょっと見せたい物が有ってな」
用の有る整備士の居場所を聞きつつ、アーシャは開放されたメイジギアから飛び降りる。
おかげで、重さと暑苦しさから解放された。
だが、唯一解放されていない重量感には眉をひそめてしまう。
「(……またデカくなったか?)」
背筋を伸ばし、視線をゆっくり下の方へと向ける。
最初に見えるのは黒いインナースーツだが、つま先は突き出ている胸部のせいで先の部分しか見えない。
力を追い求めるアーシャとしては、ただの重石だ。
「……はぁ、私にはなんの役に立たないってのに」
このヴェイザーに入ったのも、故郷を潰した傭兵達への復讐が目的。
そして、連れていかれた友人を探し出す事。
その為に必要なのは、女性としての魅力ではない。
「(今の私に必要なのは力だ、こんなふざけた世界を生き抜いて、どんな奴にも負けない、圧倒的な力……そうしないと、私の目的は)」
その目的を果たすためにこの傭兵団へ入団し、今まで戦い続けて来た。
だが、今はそんな先の話よりも目の前の事だと、アーシャは持って来たウェポンコンテナを担ぐ。
「それより、レプティルはっと、あ、整備頼むぞ」
「ああ、任せておけ」
ドワーフの整備士に、自分のメイジギアの手入れを任せる。
お目当ての人物の元へフィリアのコンテナを届けるべく、移動を行う。
「(ライトニングチーム、か……)はぁ」
目的地に居ると思われる、反りの合わない人物。
彼の姿を思い返すだけで、足取りは重くなる。
「はぁ」
「レプティルの所か?」
「ッ、サーバルか……」
同じく黒いインナースーツ姿のサーバルが、頭の猫耳をピコピコ動かしながら寄り付いて来る。
アーシャの胸程度の位置から見上げ、八重歯を一本ちらつかせながら話しかけて来た。
猫っぽい容姿の彼女だが、一人だけ見当たらない。
「……ケフュレスはどうした?」
「ああ、アイツなら整備班の連中にどやされてる、どてっ腹に大穴開けたからな」
「……開けたのお前だけどな」
「どうせ、修理費はアイツの給料から天引きだ」
サーバルの報告に、アーシャはクスクス笑った。
仕事はできるとは言え、ケフュレスには色々と困らされている。
彼女が喜ぶ事の無い目に遭っているのならば、実に喜ばしい。
「それはそれとして、お前よくそんな物持てるよな、コンクリートの冷蔵庫みたいな物だろ?」
「私をなめるな、こんなのスーツのアシストだけで事足りるんだよ」
「流石タイタン族だな」
「あまり嬉しくはないな」
別に種族に誇りは無いので、タイタンだから、という褒め方は素直に受け取れない。
せめて、日ごろの努力のおかげ、と言って欲しい所だ。
「まぁそれより、兄貴の所だろ?さっさと行こうぜ!」
「……ああ」
世間話を終わりにしたサーバルは、一足先に自身の兄の元でも有る目的地へと向かう。
やはり兄に会える事が嬉しいようで、滅多に見ない位明るい笑顔で先に移動していく。
とは言え、アーシャとしてはその人物と反りが合わないので、あまり会いたくは無かった。
――――――
アーシャとサーバルがレプティルの元へ向かった頃。
メイジギアの整備を任されたドワーフの整備士は、ついでに記録された戦闘ログに目を通していた。
「……コイツは」
後半の映像が流れた辺りで、ドワーフの整備士息を飲んだ。
遺跡でアーシャ達が見つけた少女、フィリア。
彼女の姿と戦いを目の当たりにし、思わず言葉を零す。
「まさか、強化人間か?」
フィリアの正体に、彼の身体は寒気に襲われた。
「崩壊戦終結と共に全て失われた筈だが……」
当時を生き延びた身でも有る彼は、ログの閲覧を中止。
想起される過去を忘れるように、メイジギアの整備を再開する。
「崩壊戦時の狂った遺産の一つ……とんでもない物を見つけてしまったな、アイツ等」
本日も続きを二本投稿します。




