強化人間 前編
荒廃した様子を眺め終えた後。
フィリアは予定通りに医療班に連行されていき、それを見送ったアーシャ達は近くのエレベーターを使って格納庫へと移動していた。
「はぁ、相変わらず騒がしいな、ここは」
リフトで下がる三人の目に映るのは、忙しく動く整備班や戦闘班のスタッフ達。
アーシャ達スコールチームの所属する傭兵団『ヴェイザー』の一員達は、保有しているメイジギアとアーマードナイトの整備を行っている。
まるで工場の中であるかのように、工具の動作音や、クレーンの駆動音が耳に叩きつけられてくる。
この辺りは依頼主の領地の一つとは言え、盗賊の類が居ない訳では無い。
加えて魔獣の襲撃に備える為にも、この格納庫はほぼ常に稼働している。
そんな空間に降り立った三人は、早速装備を預ける為の区画へと向かう。
「よう、なんか大変だったみたいだな」
「ああ、早朝任務ってだけで疲れるってのに」
ドワーフの整備士に茶化されながら、アーシャは専用のハンガーにメイジギアを預ける。
装備類もアームを介して回収され、各所のボルトやネジが自動的に開放さていく。
フルフェイスヘルメットも外された事で、夜空のように綺麗な黒髪が現れ、首を左右に振り、痒みの有った部分を雑にかきむしる。
「それで、レプティルの奴はどこだ?」
「アイツならライトニング共の所だ、なんか有ったのか?」
「ああ、ちょっと見せたい物が有ってな」
用の有る整備士の居場所を聞きつつ、アーシャは開放されたメイジギアから飛び降りる。
魔力駆動によるパワーアシスト有りでも感じていた重さからも解放され、まるで雲の上でも歩いているような気分になる。
だが、唯一解放されていない重量感には眉をひそめてしまう。
「(……またデカくなったか?)」
床に着地した事で一番重量を感じたのは、背中や肩の部分。
一先ず背筋を伸ばし、視線をゆっくり下の方へと向ける。
最初に見えるのは全身の肌をピッチリと包み込んでいる黒いインナースーツだが、つま先は突き出ている胸部のせいで先の部分しか見えない。
十代前半終了目前辺りでタッパが異様に伸びて来て内心一喜一憂していたが、その喜びに反比例するかのように胸の膨らみが大きくなってきた。
傭兵として生きる事を望むアーシャとしては邪魔に思える物で、最近メイジギアを着ている時もキツイ感じがしてきている。
「……はぁ、私にはなんの役に立たないってのに」
現状結婚する気も無ければ、色気が必要な依頼を受けるつもりも何も無い。
このヴェイザーに入隊したのも、何としてでも果たさなければならない目的が有る故の事だ。
それまで四肢も命も無事であればと言う事が前提だが、そうならなかったら手榴弾なり拳銃なり特攻なりで自決する覚悟だ。
「(今の私に必要なのは力だ、こんなふざけた世界を生き抜いて、どんな奴にも負けない、圧倒的な力……そうしないと、私の目的は)」
人生設計と共に脳裏を過ぎって来る、もはや叶うかどうかも解らない目的。
その目的を果たすためにこの傭兵団へ入団し、今まで戦い続けて来た。
だが、今はそんな先の話よりも目の前の事だ。
もう一悶着有る事を覚悟しつつ、アーシャは持って来たウェポンコンテナを担ぐ。
「それより、レプティルはっと、あ、整備頼むぞ」
「ああ、任せておけ」
ドワーフの整備士に自分のメイジギア『スコール』の手入れを任せつつ、アーシャは自身の身長と同等レベルかつ、かなり重量の有る金属の箱を担ぎ、お目当ての人物の元へと向かう。
話によれば別の精鋭部隊の元に居るらしく、ため息交じりにそこへと向かう。
そのチームはスコールと同様の精鋭部隊とは言え、折り合いの悪い人物が居るのでできるだけ合いたくない。
「はぁ」
「レプティルの所か?」
「ッ、サーバルか……」
背負っている物より別の物で脚を重くするアーシャの元に、同じく黒いインナースーツ姿のサーバルが寄り付き、アーシャの胸程度の位置から見上げ、八重歯を一本ちらつかせながら話しかけて来た。
茶系のボーイッシュな短い髪をなびかせる頭頂部には、フワフワな毛並みを持つ猫のような獣耳がピクピクと動かしており、尻尾はインナースーツに覆われているが、不自由なく動かしている。
そんな猫っぽい容姿の彼女だが、一人だけ見当たらない。
「……ケフュレスはどうした?」
「ああ、アイツなら整備班の連中にどやされてる、どてっ腹に大穴開けたからな」
「……開けたのお前だけどな」
「どうせ修理費はアイツの給料から天引きだ」
足りていない一人はやはりケフュレスだが、彼女は別の整備士にどやされていた。
大穴を開けたのはサーバルだが、彼女のセクハラ度合いは周知の事。
銃弾で撃ち抜かない限り止まらない事が多く、この傭兵団で使われている銃弾の弾痕が有ればそう言う事と認識されている。
加えて修理費も彼女の問題行動として自動的に処理され、経費では無く給料から天引きされる事になっている。
「それはそれとして、お前よくそんな物持てるよな、コンクリートの冷蔵庫みたいな物だろ?」
「私をなめるな、こんなのスーツのアシストだけで事足りるんだよ」
「流石タイタン族だな」
「あまり嬉しくはないな」
二人と他の隊員や別の傭兵達も着用する黒いインナースーツは、そのままでも身体能力を補助する機能が有る。
それでもフィリアの私物であるウェポンコンテナは異常に重く、スーツのアシストだけで軽々と持てるような物ではない。そもそもの力が通常の人間よりも強いタイタン族であるアーシャだからこそできる事だ。
「まぁそれより、兄貴の所だろ?さっさと行こうぜ!」
「……ああ」
世間話を終わりにしたサーバルは、一足先に自身の兄の元でも有る目的地へと向かう。
恋愛感情無しのブラコンである彼女は、やはり兄に会える事が嬉しいようで、滅多に見ない位明るい笑顔で先に移動していく。
とは言え、アーシャとしてはその人物と反りが合わないので、あまり会いたくは無かった。
本日も続きを二本投稿します。




