幼年組
日は変わり、アーシャとフィリアは本格に的に孤児院の手伝いに入った。
二人はアンジェラの采配に従い、幼年組に配置される。
「おねーさーん!たかいたかいしてー!」
「ずるい!ぼくもー!」
「はいはい、順番ね!」
挨拶をすませてすぐ自由時間となり、幼児たちは間髪入れずにアーシャへ群がった。
元々長身なアーシャは、座りながらでも子供達では滅多に味わえない高さまで持ってく。
「……人気者は辛いですね」
「ああ、全くだ(はぁ、やっぱり慣れないな、この空気)」
フィリアに気を許すようになっても、やはり子供達の自己中心な言動にはため息が出る。
だが、目に力を入れたアーシャはぎこちない笑顔で子供を抱き上げる。
「ほーら!」
「きゃはは!」
「(これからフィリアをしっかり守っていかなきゃいけないんだ、これしきの事)」
喜ぶ子供を視界に収めつつ、その傍らにフィリアを捉える。
彼女も幼児たちにせがまれ、絵本の朗読を始めている。
「はい、おしまい、次は君ね(それに、あの子も頑張ってるんだ、私が手を抜く訳にはいかない)」
持ち上げていた子供を下ろすと、次の子供に移る。
医療用の義肢を着けている子も居れば、施設に捨てられただけで五体満足子供もいる。
そんな子供達に群がれ、服やエプロンをかじられ、引っ張られる。
「ほーら」
「わーい!」
もう一人を持ち上げたアーシャは、幼児を何度か上下させる。
しかし、その途中でその子の表情は歪む。
「……う、うー」
「ん?」
「えーん!」
「ど、どうした?どうした?」
泣き出した幼児の抱き方を変えたアーシャは、腕が生暖かくなったのを感じ取る。
「……あ」
どうやら、まだオムツの時期の子だったらしい。
「もう、ちょっとごめんね!この子おもらししちゃったから」
「えー!ぼくまだ!」
「後でやってあげるから!ちょっと待っててね!」
「やだやだー!」
「あーん!」
「もー!」
抱っこをせがんで来る子、濡れたオムツを気持ち悪がる子。
他にも子供達に囲まれてしまい、アーシャは四面楚歌となってしまう。
「(マスター、今までにない顔してる)」
「おねーちゃん、続き!」
「あ、はい、すぐに読みます」
そんなアーシャを横目に、フィリアは数人の子供達の為に絵本を読みきかせを再開。
ページをめくると、可愛く描かれた青虫が、リンゴを食べているシーンが現れる。
少し息を詰まらせながらも、フィリアは絵本の文字を読む。
「……次の日もハラペコなあおむし君は、リンゴを二個食べました」
「いっこ!にこ!」
「正解、です」
フィリアが音読した後で、読み聞かせていた子供が絵本を突きながら答えた。
楽しそうに、身近な物を数える。
そんな当たり前のような光景だというのに、フィリアは目頭を熱くする。
「あ!わたしがかぞえたかった!」
「次も、ありますから」
その傍らで、フィリアは彼女達位の年齢の時を過ぎらせた。
当時施された教育では、リンゴは出て来なかった
「(何発の銃弾がどうとか、この子達に言わなくて良いんだ)」
普通の物を普通に数え、微笑みを浮かべ合う。
たったそれだけの事に胸を暖かくしつつ、フィリアはページをめくる。
「えっと、青虫くんはイチゴを」
「おねーさんのかみきれー」
「ほんとだー」
「絵本はいいんですか?」
続きを読みきかせようとした瞬間、フィリアは髪を引っ張られた。
一人が興味を持ったおかげで、次々子供達はフィリアの髪に注目しだす。
「(確かに青髪は種族全体で見ても珍しいけど)」
「ねー、これちょうだーい」
「取れませんよ」
「しってるー!」
「もう」
太陽のように眩しい笑顔を向けて来た子の頭を、フィリアは優しく撫でた。
「ほーら、オムツ変えたぞ、それじゃ、お待たせだ」
「わーい!」
その傍らでも、アーシャは子供を抱き上げた。
「ほーれ、ほーれ」
「たかいたかーい!」
「わー!」
弾けるような笑みを目にしながらも、アーシャは内心でため息を零す。
今は目の前の子が怪我をしないように集中したいのに、また別の子が背中を昇って来る。
他にも幼児たちに群がられ、この子達の安否も気にしなければならない。
「(片手間も休む時が無いな、先生たちもオセロットも、よくこんな事続けられるな)」
「ん、あーむ」
くらくらした頭で必死に子供達を認知していると、その内の一人が胸に吸い付いて来た。
「こら、そんな所吸っても、もう出ないぞ」
「んー」
「食いしん坊め」
子守りを初めて一時間にも満たない間に、アーシャは戦場に居る時のような疲労を感じた。
「おねーちゃんはやくー」
「はいはい、た、たかいたかーい」
始まったばかりだというのに、既に呂律がおかしくなった。




