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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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人と兵器

 少女との一悶着があった後。


「名称、シュカ……下腹部に手術痕有り、他、全身に裂傷、火傷痕複数」

「今院内の案内してんだ、後にしろ」

「あ、すみません」


 孤児院内を歩くアーシャに、院内で管理している子供のファイルを閉じたフィリアは続く。

 小さな歩幅で歩いてくれるアーシャの横顔を、フィリアは見上げる。

 悲しさを孕みながらも、どこか懐かしさを感じる柔らかな顔だ。


「……まぁ、アイツの事が気になるのも解る」

「……そう、ですよね」

「ここに来ると、私はそいつを思い出す」

「え?」


 思い出の場所のようにアーシャが言ったのは、なんの変哲もないただの廊下。

 そこに着くなり、彼女は床に手をついた。


「ここで、私はアイツと同じような事を言った、ケフュレスにな」

「……えっと、どういった状況で?」

「……夜中に孤児院を脱走しようとした、そしたら、たまたま来てたアイツに見つかった」


 細める目のアーシャは、片膝をつきながら笑みを浮かべる。


「アイツから渡された銃をアイツに向けて、もう誰の指図も受けない、もう二度と奪わせやしないって、私は引き金を引いた、で、気にいられた」


 ――――――


 六年前。

 脱走を試みていたアーシャはケフュレスに見つかり、彼女から渡された拳銃を向ける。


「どう?引ける?その引き金」

「……引いてやる、引いてやるよ(邪魔するなら、例え恩人でも)」


 震える指を引き金に当てるアーシャだが、銃口の先にいるケフュレスの頭に向けて撃てずにいた。

 この時のアーシャは、銃に触れた事も無ければ、撃ったことも無い。

 そんな彼女の脳裏を過ぎるのは、ケフュレスが同じ武器で敵を次々と殺す姿。

 恐ろしさを感じる彼女の姿に銃を握るアーシャの手は震え、頭の中は真っ白になる。


「ウワアアアア!!」


 叫んだアーシャは目を力強く閉ざし、勢いに任せて引き金を引いた。

 一発の銃声が響き渡り、空となった薬莢が転がる。

 反動で銃は手から転げ落ち、アーシャ自身は尻餅をつく。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 高鳴る鼓動を抑えるように肩で息をするアーシャは、硝煙の臭いに表情を歪ませながらゆっくりと顔を上げる。

 頭の吹き飛んだケフュレスを錯覚するも、現実をその目に焼き付ける。

 開き切った瞳孔で捉えたのは、頬から血を流して笑みを浮かべるケフュレスの姿。


「気に入ったよ、アンジェラか、レイブンに頼んであげる、二人のシゴキを耐えられたら、私が力をあげる」


 彼女はアーシャの前で初めて目を開き、硝煙の立ち込める拳銃を回収。

 立ち上がったアーシャは、次はケフュレスへと殴り掛かる。


「この!ガッ!?」


 首に手刀を入れられたアーシャは、ケフュレスの胸の中へ倒れ込む。

 そんな彼女からの声を、アーシャはかろうじて聞き取る。


「もしも貴女が、例外だと言うのなら」


 ――――――


「とまぁ、こんな感じの事言ってたな、あんま覚えてないけど」

「は、はぁ……」


 思い出話を聞かされたフィリアは、その内容に目を細めた。

 ケフュレス本人から聞いた話によれば、彼女はアーシャを救出した恩人の筈だ。


「……恩人と、聞いていたのですが」

「ああ、アイツのおかげでここに逃げ込めたが、私はそんな事を認識する余裕も無かった」

「……彼女もそうだと?」

「多分な」


 アーシャの言葉に、フィリアはまたもや先程の少女、シュカを思い出す。

 どう見てもストレスからくる症状と、正気ではない目をしていた。

 そんな彼女に、何時までも心をかき乱されている。


「……それでも、貴女にも自分が有った」

「買い被るな、マックスを助けるんだって、駄々こねてただけだ」

「だとしても、何かに反抗できるのは、自分を持っている証拠かもしれません」


 そう言いながら、フィリアは自分のチョーカーに触れた。

 言い訳をするのであれば、刻まれた奴隷の刻印で反抗自体ができない。

 だとしても、マスターであるアーシャに反発するなと言われた事は無い。


「……そうかもな」

「(けど、今更自分を持ってどうする?コマンダーからここに預けてもらう提案を拒んだのも、兵器であり続ける為だってのに)」


 兵器であり続ける理由を思い返すフィリアだったが、シュカの言葉が脳裏を過ぎる。


「(なのに何で、あの言葉が忘れられない?)」

「……どうした?」

「……」


 立ち止まったアーシャの手を取ったフィリアは、その手を自分の顔へと乗せる。


「ふぃ、フィリ、ア?」

「(私は兵器だ、主の命令に従い、敵を殺し、この命捨ててでも主を守る……この暖かさを、無くさないように)」


 頭頂部から頬にアーシャの手を移すと、彼女の手の温もりを感じ取る。

 目の前で死んでいった過去の仲間達を思い浮かべながら、自分に言い聞かせる。

 自分は兵器だと、人ではないのだと、チョーカーに触れる。


「(その為に、自分なんて物は必要無い……)ありがとうございます、これで、任務に戻れます」


 マスターであるアーシャの体温は正常、敵影は無い。

 スキャンを終えたフィリアは、現在の任務内容を視界の隅に表示。

 落ち込んでいた顔も、人形のように無表情となる。


「フィリア……」


 アーシャの手を離そうとした時、彼女は座り込んで抱きしめて来る。

 感情をマスキングされていないフィリアは、彼女の匂いや鼓動を直に感じ取る。


「ッ!?ま、マスター?」


 戸惑いながらも、フィリアはこの状態で戦闘を行う為の方法を模索。

 必死に兵器である自分に戻るべく、戦術の予測を構築する。


「そんな顔をするな、お前はまだ子供なんだ、言いたい事は遠慮せずに言っていい時期なんだ、私が、捨ててしまった時期だ」

「……」


 息を飲んだフィリアは、痛む胸を抑える。

 どれだけ自分を無くそうとしても、アーシャや他の人達が引き戻して来る。

 目頭が熱くなると共に、フィリアの視界は歪みだす。


「けど、私は……」


 折角固めた筈の決意はかき乱され、願望へと変わってしまう。


「(貴女の隣じゃない、後ろでもない、兵器として、貴女の前に居なきゃいけないのに……何で……何で、人として、彼女の隣に居たいと思う)」


 引き離そうとアーシャの肩に手を置いたフィリアは、突き飛ばすように力を入れた。

 しかし、人の温かさにフィリアは屈する。


「こんな事していちゃ、いけないんです」


 全身をアーシャの温かさに包まれ、フィリアは抱きしめ返した。

 目から雫を零しながら、アーシャの服が伸びそうな程握り締める。


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