孤児院
傭兵団ヴェイザーを乗せた艦ソウリュウは、目的地である町へ到着。
しばらくした後で、アーシャ達は孤児院へと向かっていた。
「……ここが、マーセナルタウンですか」
その道中で、フィリアは町を見渡す。
ベルガスシティ程栄えてはいないが、どことなく落ち着いた雰囲気が見られる。
「ああ、エターナル管轄の町だ、ここでの抗争は禁止だが……その、私から離れるなよ、個人の安全まで保障されない」
「は、はい」
頬を少し赤くしたアーシャは、紙袋を持っていない手でフィリアの手を掴む。
フィリアの体温が手を通じて伝わり、離れないようにしっかりと握る。
そんな彼女達の姿を、オセロットは鼻で笑う。
「……随分としおらしくなったな、自分から手を握るとは」
「うるせぇ、そんでお前は何で毎回毎回大量にお菓子持ち込むんだよ!?」
そう言いながら、アーシャは手に持っている紙袋をオセロットへ押し付けた。
この紙袋はアーシャとオセロットだけでなく、同行しているライトニングチームとスコールチームの面々も全員持っている。
中身はオセロットの手作りお菓子が入っており、全員で四苦八苦しながら持ち込んでいる。
「折角行くんだ、生徒や先生方に土産の一つ持って行かないといけない、お前だってそれ位の良識あるだろ!?」
「売れないバンドマンみたいな恰好してる奴に良識問われたくねぇ!」
今のオセロットは半裸長ズボンの上に、ギザギザノースリーブのロングコートと言う恰好。
長ズボンもダメージジーンズで、アクセサリーも大量に着けている。
そんな姿に、フィリアも冷や汗をかいてしまう。
「サーバルさんの私服があれなのって、もしかして」
「ああ、コイツのせいだ」
ヒソヒソと話す二人に、ケフュレスが話しかける。
「ちょっと、もう着いたよ」
「おう」
「は、はい」
彼女の発言で顔を上げたフィリアは、目の前の建物を目にする。
所々古さを感じるが、周りより立派で大学病院のような大きな建物。
校庭と呼べる広い庭では、今も多くの子供達が遊び回っている。
「こ、ここが」
「ああ、春暁園、私達が育った場所だ」
「しゅんぎょう、えん」
「この世界で数少ない、良心みたいな所だ……マックスを探す為に、私はここを出たんだ」
園の名前をオウム返ししたフィリアは、校門越しに子供達を観察する。
遊び回る子供達の種族は、艦内の時のように複数確認でき、みんな笑顔で遊び回っている。
そんな子供達を見ていると、アーシャ最後に言った言葉は耳に入らなかった。
「(……あの子達)」
一見すれば平和に見えるが、一部の子供の足音や四肢の関節の収縮音に違和感を覚える。
踏みしめる砂の音からして、生体ファイバーを用いる医療用の義肢だ。
それだけではない。
顔に手術痕を持つ子供や、頭の耳が片方無い獣人の子供まで見受けられる。
「(戦争で、焼け出された、のか……)」
敵対勢力であれば目の前に居るような子供さえ焼き、かろうじて生き延びた子供に手を差し伸べる事すらできなかった。
閃光で見えなくなった目で母を探し、泣きじゃくる子供。
砲撃の余波で四肢を失い、破片で体を刻まれた子供。
かつては見捨てるしかできなかった子供達には、治療が施され、ここに笑顔で居られる。
羨望の目を向けていると、輪に馴染めていない子供を見つける。
「……馴染めない子もいるんですね」
「ああ、私みたいにな……サーバルが居なかったら、私はここに居なかったかもな」
「な、何だよ急に」
「事実を言っただけだ」
「……そうかよ、まぁあん時のお前、本当に根暗だったもんな」
「うるせぇ」
「(……そっか、サーバルさんは、ここに居た時のマスターを知ってるんだ)」
顔を赤くするサーバルを横目に、笑みを浮かべるアーシャを見つめる。
隅っこで表情を曇らせる子供が昔のアーシャと考えると、フィリアは痛む胸を抑えた。
「(私が知らない時間、私の知らないマスター)」
目に影を作ったフィリアは、昔の仲間達を思い出す。
洗脳と施術で、自分を兵器としてしか認識していない同年代の子供達。
「(最初からただの友達、私には、ただの兵器同士の関係が、最初だった)」
兵士や起動兵器は勿論の事、同じように強化された同年代の子供さえその手にかけた。
同じような子供としか接した事が無い事を思い出し、フィリアはフェンスにもたれかかってしまう。
「……フィリア?」
「戦争で奪われた子供達を保護、しているんですね」
「そんな所、と言いたいが……」
「ん?」
「下手したら、あそこに居る子供達、もしくは親を焼いたのは、私達かもしれないんだ」
「……」
光りの灯っていないアーシャの目は、冗談ではない事を物語っている。
「な、なぜ、そんな」
「……ここはヴェイザーの管轄だが、表向きには伏せられている、イメージ的な問題があってな」
フィリアが言葉を失っていると、インターフォンが鳴る。
「すみません、オセロットです、アンジェラ先生に頼まれて来ました」
『はーい、今開けまーす』
と言うオセロット達のやり取りに気付いたフィリアは、ゆっくりと顔を上げる。
インターフォンで返事をした人物のおかげで校門の鍵が開き、フィリア達は招かれる。
金属のきしむ音は校庭中に響きわたり、子供達の視線は一斉に向けられて来る。
「い」
「おし、来た来た!」
怖気づくアーシャとは反対に、紙袋を置いたオセロットは一目散に子供達の方へ向かう。
彼の姿に気付いたのか、多くの子供達が彼へと群がる。
「ねこのおにいちゃんとおねえちゃんだー!」
「トカゲのヒトもいるよー!」
「おーきいおねえさんもいる!」
「……私もかよ」
隣であからさまにため息をついたアーシャは、ゆっくりと男性陣たちに続く。
空気について行けないフィリアは、後ろで眺める。
「(……自然な笑み、楽しそうな空気)」
オセロットに抱かれる子や、ラケルタにぶら下がる子供達。
更に下手な空手をレッドに披露する子に、サーバルと笑い合う子供まで見受けられる。
聞いた事の無い子供達の賑やかさに、フィリアは頬を緩ませる。
「マスターも、ここで過ごしたんですね……あれ?マスター?」
「アーシャちゃんなら、あそこだよ」
「え?」
ケフュレスが指さす方を見ると、一か所だけ子供の山ができていた。
少し揺れたと思うと、山は盛り上がりだす。
「ふんぬー!」
「ま、マスター!?」
「なんでいつもこうなるんだよ」
どうやら子供に群がられていたアーシャだったらしく、立ち上がった事でクリスマスツリーのように子供達がぶら下がられている。
初めて会った時のような嫌悪感の籠った目をしながら、子供達を一人ずつ引きはがしていく。
「あはは、アーシャちゃんにはやっぱまだ早かったかな?」
「はい、少し克服したと思っていたんですが」
「いやいや、随分進歩したよ、前だったら自分から近寄る何てこと、しなかったからね……それに、目をよく見て」
「あ……」
艦内を案内されている時は目を合わせてくれなかったが、今は子供一人一人に目を向けている。
その事に気付くと、一部の子供達と目が合う。
「あ!あたらしいひとかな?」
「ほんとだ!」
「あ、えっと」
数名の子供達に囲まれたフィリアは、少し話しにとまどってしまう。
話した事有る同年代と言えば、施術や刷り込みで感情の起伏を無くした子共位だ。
キラキラした目の子や、活発な子と話した事は無い。
「きれいなかみだね」
「え、ええ、よく言われます」
「ねぇ、おなまえは?」
「えっと、私はG……」
同年代と話したせいか、思わず番号で名乗りそうになった。
だが、ここでは兵器で居る必要は無い。
「え、っと、フィリア、と言います」
「うん!よろしくね!フィリアちゃん!」
「……はい」
複雑な気持ちになりながら、フィリアは笑みを浮かべた。
そして、子供達を見渡していると、隙間から輪に入れていなかった子供を視認。
その子供と目が合い、殺気のような物をぶつけられる。
「(……あの目は)」
向けられたのは、戦場で敵に向ける目。
まるで、昔大勢いた仲間達の内の一人を見ているようだった。
思わず目を逸らしてしまいそうになったが、改めてその子供と目を合わせる。




