お茶会 次の目的地
目が覚めたアーシャは、ほどなくして復帰。
スコールの生活する部屋に戻り、恒例のお茶会に参加していた。
「は~い、アーシャちゃん退院おめでと!お姉さん特性の紅茶とプリンでーす」
「……あ、ありがとう」
いつも通り糸目の朗らかな笑みを浮かべるケフュレスから、アーシャはお茶とお菓子を受け取った。
そして、チラリと隣に座っているフィリアへと目を向ける。
「……」
「……」
不意に目が合うなり、アーシャは目を逸らした。
心臓も一瞬強く打ち、顔も火照りだす。
「(くそ、話したいのに、話題が出て来ない)」
部屋に戻ったら色々と話したいと思っていたというのに、この体たらく。
自分のコミュニケーション能力の低さと、気の使えなさに落ち込みながら紅茶をすする。
「(言わないといけないのに、私、次は絶対に守るからって、傷つけないからって……)」
紅茶を冷ますフリをしながら深呼吸し、アーシャは気持ちを落ち着けていく。
いつも通り、冷静に、フィリアの頭を撫でながら言えばいい。
「(よし)」
「ところでアーシャちゃん、さっきから顔赤いけど、大丈夫?」
「ブッ!」
ケフュレスの横やりで、折角整った覚悟は霧散。
感情の矢印は、ケフュレスへと向かう。
「い、いきなり何だよ!?」
「いやー、ベルガスシティ行く前の時もなんかソワソワしてたしぃ、目覚めた?ねぇ目覚めた?」
「永眠させんぞ」
「あはは」
口元を手で隠しながら徐々に接近してくるケフュレスを前に、アーシャは拳を握り締めた。
すぐ逃げられたが、アーシャはすぐにサーバルの方を向く。
「サーバル、黙ってないで、お前もなんか言ってくれよ」
「……テメェで何とかしやがれってんだ」
「……なんか、最近冷たくね?」
「知らね」
しかし、サーバルは顔だけでなく体まで違う方向を向けてしまう。
彼女の様子にため息を零しながら、アーシャは席に深く座る。
「たく」
「まぁまぁ、ちょっとヤキモチ焼いちゃっただけだよね」
「や、焼いてねぇ!」
ケフュレスに茶化され、サーバルは顔を赤くした。
そんな彼女の様子に、アーシャは先日の一件を思い出す。
「(そういやコイツ、この前……)」
当時は出撃命令で流れてしまったが、サーバルは明らかに何か気付いていた。
「(ま、まさか、私がロリコンに近づいたとか、変な勘違いしてんじゃないだろうな)」
誤解されているのではないか、そんな不安を過ぎらせてしまう。
悩んでいると、ケフュレスが口を開く。
「あーそうだフィリアちゃん、次の町に着いたら、アーシャちゃん、しばらく孤児院勤務なんだけど、貴女はどうする?」
先ほどコマンダーからもたらされた通達を思い出し、アーシャの思考は吹き飛んだ。
「え?あ、えっと」
「……そうだった」
返答に困るフィリアを横目に、アーシャは露骨に俯いた。
アーシャのメイジギアは大破し、その報告書を書くついでに聞かされた一時的な転属。
フィリアは慣れてきたが、他の子供に同じように接する事ができるか解らない。
「……さ、サポートの為に、ご同行します。私が居た方が、マスターも、あ、安心、でしょうし」
チラチラと目を向けて来るフィリアは、自分の手同士を絡ませながら答えた。
まるで同意を求めて来ているかのような彼女の仕草に、アーシャはカップを置く。
「あ、ああ、そうしてくれると、う、嬉しい」
以前であれば、嫌々同行を許可していただろう。
そんな事を思いながら、アーシャはプリンを一口食べた。
「……はい、ありがとうございます」
その横でも、顔を赤らめたフィリアはカップで顔を隠すように紅茶をすする。
一瞬ではあったが、フィリアの顔は朝日のように明るく見えた。
そんな彼女の表情に胸を暖かくしたアーシャも、柔らかくほほ笑んだ。
フィリアは置いたカップを震えながら握り、顔を俯かせてしまう。
「で、ですが、その、私、戦闘ばかりでしたので……下手にやって、傷つけてしまいそうで」
彼女のセリフに、空気が凍り着いた。
アーマーを展開したフィリアは、ドレイクと言う傭兵と正面から斬り合える。
カップを強めの力で包むフィリアを前に、アーシャはほほ笑みながら口を開く。
「……大丈夫だ、基本同い年ばっかだし、それに、子供なんて怪我してナンボだ」
「……そう、でしょうか」
「お前がそれ言うか?」
「グ」
サーバルの横槍で、アーシャの表情は崩れた。
「まぁ最初の二、三日は俺と兄貴たちも行くから、安心しな」
「……は、はい」
「……」
サーバルの発言で、フィリアは僅かに笑顔を取り戻す。
確かに子供好きであるオセロットの方が、孤児院での仕事に向いている事に違いは無い。
下手をしたら、フィリアのサポートは全て彼らに頼る事になりそうだ。
「(でもこれ、下手したら、私の方がサポートされる事になりそうだな)」
「それに、あそこは基本的に身寄りのない子とか、元々少年兵だった子なんかも居るから、意外と話合うかもよー」
「そう言う問題かよ」
「(身寄りのない子供に少年兵、か)」
改めてフィリアの方を向いたアーシャは、彼女の経歴のような物を思い出す。
彼女の場合両方を併せ持ち、更には友好関係まで思い出せていない。
「(この子はまだ子供だ、私がサポートしてやらないとな)」
自然とフィリアの頭に手を置いたアーシャは、フィリアが子供達と触れ合う姿を思い浮かべた。
「ん?」
そんなアーシャを見上げるフィリアは、彼女のほほ笑んだ顔を見つめる。
「(……マスター、以前より柔らかくなった?でも、なんだろう、ちょっと、嫌だ)」
どことなく感じる保護者のような目に、フィリアは目を曇らせた。
「(私だって、マスターを守れるのに)」
胸から湧き出るモヤモヤを飲み込むように、フィリアは紅茶を飲み込んだ。




