気配の正体
日の出と共に、ヴェルガスシティから出航した艦内。
アーシャ達スコールチームは、哨戒任務を行う準備をしていた。
「なぁ、昨日、変な気配感じなかったか?」
「……」
着替えている中で、アーシャは昨夜の事を思い出して体を震わせた。
隣に居るサーバルに話しかけるも、彼女の表情はどこか曇っている。
「サーバル?」
「昨日、フィリアと随分仲が良かったようだな」
「ッ!!」
突然の発言に、アーシャは顔を真っ赤に染めた。
「お、おま、ね、寝てたんじゃ」
「あんなヤバい気配感じたら誰でも起きるっつの」
「……感じてんじゃねぇか」
「それより、子供嫌いのお前が、随分気を許したな」
「どっちの話がしたいんだよ!?」
細めた目で睨んで来るサーバルに、真っ赤な顔で詰め寄った。
その瞬間、艦は激しく揺れ出す。
「ドワッ!な、なんだ!?」
「この音、ナイフ野郎の主砲だ!」
サーバルの発言と共に、艦中の警報が鳴り響き、続いてアナウンスが響き渡す。
『各員に通達、敵性勢力からの攻撃を確認、ナイフヘッド級三隻、リバティフリューゲルの保有戦力と推定!』
「……以前の仕返しか?」
「にしては早くないか?」
「マスター!敵襲です!」
「二人共!イチャイチャはそこまで!出撃だよ!」
「イチャついてねぇよ!」
他の二人に急かされたアーシャ達は、駆け足で格納庫へ移動する。
慌ただしく戦闘配置につくスタッフ達をかいくぐり、彼女達も武装するべくラックへ駆けつける。
「装着急げ!」
『緊急通達、スコールチームは待機!繰り返す!スコールチームは待機されたし!』
「何!?」
自分達のメイジギアに手をかけた瞬間に響いたアナウンスに、アーシャ達は動きを止めた。
そして、アーシャは装着しようとしていたメイジギアの無線機をとる。
「コマンダー!どういう事だ!?」
『……相手はリバティフリューゲルだ、貴様らを狙っているのは間違いない』
「け、けど」
『……命令だ、護衛には他の連中にやらせる、お前達は待機していろ』
「……押忍」
苦い表情を浮かべたアーシャは無線をきり、メイジギアを軽く殴った。
そして、装備の準備を進めていたサーバル達を視界に収める。
「待機だとよ」
「の、ようですね」
「まぁ当然だろうな、火種になったのは俺達だ」
「あはは、でもこんなに早く来るなんてねー」
相変わらずのほほんとするケフュレスに、三人は細めた目を向けた。
一応、全員ケフュエスが何をしたのか報告を受けている。
「ちょっとー、そんな目する事無いんじゃない?」
「誰のせいだと思ってんだ」
「脳ミソ入ってんのか?クソエルフが」
小声で愚痴をこぼすと、近くのコンベアが動く。
オセロットの白い機体が横切り、彼女達の目が向けられる。
『サーバル!留守番もしっかりやれよ!』
「お、兄貴!頑張れよ!」
アーマードナイトの親指が立てられると、オセロットの機体は上昇していく。
彼らを見送ると、アーシャ達はメイジギアを装着する。
「ま、今日はのんびりしようぜ、どうせ、兄貴たちが全部やっちまう」
「……だと良いんだが」
余裕の笑みを浮かべるサーバルを横目に、アーシャは表情を曇らせる。
昨日感じた気配は、未だに出てきていない。
「……昨日のあれか?」
「……ああ」
「え?」
「大丈夫だ、兄貴とレッドが出たんだ、何とかなるだろ」
「ああ、取り越し苦労だと良いんだが、あの気配、異質過ぎたぞ」
「そうだけどよ、まぁ、俺らが気付いてんなら、アイツ等も気付いてる、ちゃんと警戒しているだろうぜ」
アーシャ達はオセロット達の気配を探り、戦況の把握を行う。
相変わらず連携しているのか、していないのか、よく解らない戦いを繰り広げている。
次々敵を撃破していると言うのに、昨日の気配は姿を現そうとしない。
意識を集中させていると、フィリアが手を上げる。
「……あ、あの、さ、昨日、何か有りましたか?」
「ああ、そうか、フィリアは気配が感じられないんだったな」
「は、はい」
「ちょっとヤバい気配を感じたのさ、けど、あれだけ攻められておいて、全く出て来ないってのは」
「で、では、敵ではなかったのではないのでしょうか?近くで戦闘があったというだけで」
「いや、ソイツ以外に感じられなかった、殺気も、確かに向けられた」
体を震わせてしまう気配を思い出していると、彼女達の頭に電流が走る。
「グ!?」
「な!?」
ずっと怯えていた気配が襲い掛かり、艦全体が震える程の衝撃に襲われる。
甲板に取りつかれた事を悟ったアーシャ達は、息を詰まらせながら天井を見上げる。
「い、一体何が、ッ!?」
「フィリア!?」
遅れて上を見上げたフィリアは、突如頭を抑えながら屈み込んだ。
その顔は苦痛に染まり、両眼を力強く閉じている。
「アアアア!!」
「どうした!?おい!」
「ノイズ、が、ガアアア!」
開かれたフィリアの瞳と、発せられた声にはノイズが走っていた。
小刻みに震えるフィリアに、ケフュレスは駆け寄る。
「……電撃魔法だね、EMP効果も有るから、フィリアちゃんには毒だよ」
「そんな」
ケフュレスの発言に、アーシャはフィリアに寄り添った。
「どうすればいい?」
「……ヘルメットを被せてあげて、多少は抑制できる」
「わかった」
アーシャは、外部操作でフィリアのヘルメットを展開させた。
おかげで、フィリアは苦痛から解放されるように肩で息をする。
「はぁ、はぁ、ありがとう、ご、ざいます」
ノイズがかかった声で、フィリアは何とか正気を取り戻した。
「……クソ、思ったよりとんでもないのが来やがった」
「らしいな」
「うん……下手したら、死ぬよ、これ」
解り切った事ではあったが、再認識されたアーシャは無理矢理笑みを浮かべる。
「……上等だ」
押しつぶされそうなプレッシャーに気圧されながら、アーシャ達は非常用の梯子へと移動する。
――――――
同時刻。
ソウリュウの甲板に一筋の光が落ち、砲弾のような轟音を響き渡らせた。
その中央にできたクレーターの上に、一人の兵士が立っていた。
「な、何だ、コイツは」
「ど、どこから来やがった」
全身からスパークを上げる兵士に銃を向けるヴェイザー兵たちは、その手を震わせる。
小汚いローブを身にまとい、顔や装備すら見えない敵兵士。
彼は腰に差している刀を手にし、ヴェイザー兵を睨む眼光がローブより漏れる。
「く、来るな!!」
殺気に反応するなり、ヴェイザー兵達は発砲。
敵兵は弾幕を斬り裂きながら掻い潜り、一人の兵士へ接近する。
「う、ウワアア!!」
断末魔を上げた兵士は、真っ二つに斬り裂かれた。
その隣に居たもう一人の兵士は、すぐさまマチェットを引き抜く。
「よ、よくも!!」
しかし、敵兵の方が一手早かった。
まばたきする間に振り上げた右腕は切断され、続いて胴体をバッサリと斬られる。
二人の味方が倒れたところへ、防衛任務に就いていたアーマードナイトが駆けつける。
『貴様ぁぁ!!』
大型のメイスを振りかぶるも、敵兵の左腕に紫電が走った。
魔力も込められ、雷の球体が形成される。
『そ、それは!!』
驚きの声を上げるアーマードナイトへ、敵兵は球体を撃ち出す。
コックピットブロックを瞬時に融解させた球体は機体を貫通し、その後ろの船体に一撃が入り爆散する。
その姿に、他のヴェイザー兵たちは武器を構えながら数歩下がる。
「し、司令部!ヤバい奴が来やがった!……クソ、今ので通信が」
「へ、ヘイル3が、一瞬で」
そんな彼らに囲まれる敵兵は、着ているローブを脱ぎ捨てる。
スマートなメイジギアを纏う敵兵は、短い金色の髪をかき分けながら辺りを見渡す。
「……さて、俺の狙いはどこだ?」
見るだけで体が氷る笑みを浮かべ、辺りに殺気をまき散らした。
能力ではなく、本能が危険人物と告げた。
そんな恐怖の渦の中へ、アーシャ達が到着する。
「あれか!」
「みたいだね……あららー、やっぱり」
「アイツの事知ってんのか?」
滅多に緊張しないケフュレスは、ライフルを握る力を強める
「……種族だけね」
後ろに立つケフュレスは、ライフルを構えながら息を飲む。
爬虫類のような瞳に、頭に生えた青い角に、独特な気配。
この特徴を持つのは、ケフュレスの記憶に一つしかない。
「……ドラゴノイド、かつてタイタンと並んで、人類に恐れられた種族だよ」
「あれがか」
「お、居たな、そちらさんの強化人間は、さっきのでダウンしたと思ったんだが……って、おいおい、聞いて無いぞ」
アーシャ達の姿を視認した敵兵は、全身に稲妻を走らせる。
間近で感じる気配は、今まで認識したどの敵を上回っていた。
紫電の走る刀を向けられ、アーシャ達は即座に構える。
「かつての同盟族、タイタンがここに居るなんてよ、時代のせいで我々が共食い……先祖も、亡き魔王様も、さぞ悔やまれている事だろう」
「……」
片手で頭を抑える敵兵の言葉に、アーシャは言葉を詰まらせた。
そんな彼女を前にしても、敵兵は戦闘体勢に戻る。
「だが、こんな時代だからこそ、俺は、俺の財宝を……血を守らなければならない、例え、かつての同士の子孫を仕事で殺そうとも、相手が……子供でも」




