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転生勇者が世界を救った300年後、荒廃した世界で傭兵少女は強化人間少女と出会う  作者: B・T
第一章 子供嫌いの巨人

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初恋の思い出

 コマンダー達が交渉へ行っている頃。

 部屋着のアーシャは、自室のベッドに頭を埋めていた。


「つ、疲れた」


 魔力の枯渇から回復してすぐに、コマンダー達から報告書を催促された。

 理由も聞かされた事で断れず、結局疲れた体に鞭を入れながら作り終えた。

 更にケフュレスや他の面々からもたらされた情報のせいで、シャワー程度で癒える訳も無かった。


「(しかも、関与してんのがアイツ等、か)」


 アーシャは右腕の火傷痕をさすりながら、時計へと目を向ける。

 もうすぐ就寝時間だというのに、寝たいと思えない。


「はぁ、わざわざ二時間以上かけて、悪夢見る為に寝ろってか?」


 右腕のうずく日は、決まって悪夢を見る。

 フェルメーラを頼ろうにも、見た後でないと彼女の能力は役に立たない。

 頭を抱えていると、化粧室の扉が開く。


「あ、マスター、まだお疲れですか?」

「……フィリア」


 歯を磨き終えたフィリアは、長く青い髪をかき分けながら横に立つ。

 先日買ったチェック柄のパジャマに袖を通す彼女は、普段より子供らしい可愛さが際だっている。


「とても、拷問してた子供には思えないな」

「う、あまり掘り返さないでください、感情をマスキングしていたから、できたような物ですから」

「マスキングねー」


 レプティルから無理だと言われたが、強化人間になる事への願望は諦めきれていない。

 実際に戦い、そして話している事で、その夢にまた手を伸ばしたくなる。


「私も強化人間になりたいよ、こんな気持ちとも、オサラバできるんなら」

「……マスター」


 声色を低くしたフィリアは、急に距離を詰めて来た。

 すると、また彼女に頭を抱きしめられる。


「ッ!」

「それで貴女の悩みが解決するのであれば、最初に提案しています、私の世代でも、人格が安定する個体は四割程度しか居ませんでした」

「……安定しないと、どうなるんだ?」

「人によります、ですが、以前遭遇した世代の方は、例外なく人格を潰されます、自立行動を行えるようになったのは、第五世代型からです、成功率は一割でしたが」

「……」


 胸に痛みを覚えたアーシャは、右腕の火傷痕をさする。

 可能性を示唆されただけだが、探し人のマックスもそうなっているかもしれないのだ。


「フィリア」

「は、はい、すみません、出過ぎた事を」

「い、いや、そうじゃない、前にも言ってたように、また、一緒に寝てくれるか?」

「……はい」


 小難しい顔から明るい笑みになりながら、フィリアは承認してくれた。

 悪夢を見る位ならば、恥を飲みこんで彼女に添い寝された方がマシだ。

 顔に軽い火照りを感じながら、アーシャは自分のベッドにフィリアを迎える。


「今日は壁側に行ってくれ」

「え?何故です?」

「サーバルは寝てるが、ケフュレスは報告書の制作から帰ってないんだ、いざって時に隠せる」

「は、はい」


 だが見られたくは無いので、アーシャはフィリアを隠せる場所に寝かせた。


「……」

「……あの、やはりマックスさんの事が、気になりますか?」

「ああ、よく解ったな」

「最近のマスターが考える事は、その人の事ばかりですから」


 件の強化人間を前にしてから、マックスも同じ目に遭っていると考えてしまう。

 おかげで、身体が勝手に震えだしてしまう。

 抑え込もうとしていると、フィリアに抱きしめられる。


「ごめんなさい、私があんな事を言ったばかりに」

「いや、どちらにせよアイツを前にしたら考えていたかもしれないんだ、気にするな」


 彼女の温もりを顔に受けながら、アーシャは軽く目を閉じる。

 このまま眠りに入れば、良い夢が見られそうだ。


「……一つ聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「なぜ、マックスさんにそんなにこだわるのですか?」

「……」


 考えてもみれば、誰にも話した事無かった。

 他の同郷の人達は半ば諦めてはいるが、マックスだけは諦めきれていない。


「あの、は、話したくない事でしたら、別に」

「いや、その、なんだ……マックスは、わ、私の、初恋、なんだ」


 顔を赤くしたアーシャは、初めてカミングアウトした。

 そのせいなのか、フィリアは目を丸くしながら硬直してしまう。


「……え!」

「し、静かに!そんな驚くな!」


 小声で注意したアーシャは、すぐにベッドの外に顔を出す。

 まだケフュレスの姿は無く、サーバルのベッドからも寝息が聞こえる。

 胸をなで下ろすと、すぐに戻ってカーテンをピッシリとしめる。


「よかった」

「す、すみません」

「気をつけろ、全く」


 おもわず息を荒くするアーシャは、フィリアの頭を無意識に撫でた。


「それにしても、ちょっと、意外です」

「……悪かったな、昔はもうちょっと、大人しめだったんだよ」

「……それで、その、恋って、どういう感情なんでしょうか?」

「こ、口頭で説明するのは、難しいな」


 アゴに手を置いたアーシャは、フィリアの質問に答えようと頭を巡らせた。

 すると、次第に胸の方へ手を移動させる。

 そして幼少期に感じていた感情を思い出し、頬を緩ませる。


「なんか、こう、胸が、ドキドキして、心が温かくなって、それで……」

「それで?」

「ずっと、一緒に居たくなるんだ」

「……なぜそんな風になってしまうのでしょう」

「さぁな、そうなった、位しか言えないな……けど」


 ここしばらく過去は嫌な物と言う認識だったが、久しぶりに良い思い出として蘇る。

 一緒に野山を駆け巡り、川へ釣りに行き、近くの山に虫取りに行った。

 そんな青春の日々が思い浮かぶ。


「あー、そうだ、昔は、本当に良かった、マックスは狼人ってだけあって、本当にアクティブでな、私が川に入れなくてビクビクしてても、いつもこの手を引っ張ってくれた」

「び、ビクビク」

「それで、虫取りにも行ったな、木登りする姿が、本当に危なっかしくて、私が手当とか、よくやったな」

「は、はぁ」


 見た事無い位明るい笑みで話していたアーシャに、フィリアは息を飲んだ。

 普段の暗い彼女でさえ、思い出しただけで別人のように変えてしまう。


「……そうか、強化されると、そんなアイツとの思い出も、全部消えるのか」

「……はい、兵器には必要無い物だと」

「だから、戦いだけを刷り込まれたのか」

「……そんな所です(だからこそ、概要以外私には解らない、恋というのは)」


 物心ついた時から戦いを刷り込まれたフィリアの記憶にあるのは、各種接触や関係性などのデータ程度。

 そう言う物がある、と言う程度の認識。

 そのほとんどの条件に当てはまるアーシャを見ていると、羨望の目を向けてしまう。


「(だけど、知ってどうなる?私なんかが抱いて良い感情じゃない)」


 良く解らない胸の痛みを感じながら、フィリアは胸に手を当てる。

 長い間感じたくない感覚に、フィリアは寝返りをうつ。


「……ど、どうした?」

「いえ、何でも、ありません(もし、マックスさんを無事にこちらに引きこめたら、私を見てくれなくなるのか?)」


 今はアーシャの顔を見たくない無いと、フィリアは少し距離を取る。


「じゃぁ何でそんな距離とろうとしてんだよ」

「べ、別に、そんな事有りません(私だけを見て欲しいなんて、思うなんて)」


 壁に顔を当てるような姿勢となると、背中に柔らかな感触を受ける。


「ッ!」

「なぁ、そこまで露骨にしなくても」

「す、すみま、せん(せ、背中が)」


 半分眠っているのか、アーシャはより密着してくる。

 悪夢を予防する為に寝かしつけるつもりが、どんどん眠気が晴れていく。


「(何なんだ?この変な感じ、私の知らないマスターを、マックスさんが知っている、なんか……嫌、だ?)」


 更に頭も混乱を始めた事で、フィリアは熟睡できなかった。

 そんなフィリアを後ろから抱くアーシャも、徐々に睡魔に襲われていた。


「(……もうちょっと、話したかったけど)」


 その時、脳に槍でも刺されたような衝撃が走る。

 プレッシャーを感じるという事は、強化人間ではない。

 それでも、今までに感じた事の無い何かに背筋が凍る。


「ッ!!?」


 息を飲み、目も限界まで見開く。

 そして、何か強大な影をアーシャの目は捉える。


「(なんだ、このプレッシャーは)」


 感じた事の無い気配は次第に消えていき、アーシャはフィリアをより強く抱きしめた。


 ――――――


 同時刻。

 艦の外に出ていたケフュレスは、普段閉じている目を開いていた。

 その目は魔法的な落雷を捉え、確かな敵意がこちらへ向けられている。


「今の感じは……まさかアイツ等がお出ましなんてね、懐かしい」


 目を閉じたケフュレスは、ウキウキとした足取りで艦内へと帰っていく。



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