旧型
「ごめんねアーシャちゃん、デリカシー無かった」
「最初から無いだろ」
失言で涙を流すケフュレスを引きはがしながら、アーシャはため息を零す。
「……悪い、先帰らせてもらう、今日は色々有り過ぎた」
「お、おう、じゃぁ、俺が送ろう」
「あ、いえ、私が護衛につきます」
「……そうか」
テーブルの上に代金を置いたアーシャは、フィリアと共に立ち上がった。
その時、ガヤガヤうるさい声が耳に入り、店の扉が乱雑に開けられる。
「おいオヤジ!ビール十人分だ!」
ゾロゾロと入って来たのは、インナースーツ姿のガラの悪い男たちだった。
武装や立ち居振る舞い、そして魔力の保有量を観察したアーシャはため息をつく。
「……最悪だ」
「めんどくさいの来ちまったな」
「この辺りじゃ見ないね」
新しい客として入って来た男達は、店の出入り口を塞ぐように屯した。
しかも今は満席で、彼らの座れる席は無い。
運の悪さに頭を抱えていると、店主が説得に赴く。
「す、すみませんお客さん、今日は満席でして」
「だったら開ければいいだろうが、俺達は客だぞ!?」
「ああいうの、やっぱ、どこにでもいるんだな」
「もう見飽きた」
サーバルの言葉に頷くアーシャは、うっかりガラの悪い客たちと目を合わせてしまう。
おかげで、団体の内一人がニヤニヤとしながら近づいて来る。
「ほー、場末の酒場にしちゃいい女がいるな、コイツに酌してもらうとするか」
「あ!お客さん!その方は!」
「ジジイは黙ってろ!ヒヒ」
止めに入った店主を振り払った男に、アーシャは腕を掴まれる。
「よう、寂しいんなら、俺らが慰めてやるぜ?」
「いらん」
「おっと……へへ」
腕を振り払ったものの、男は余計に笑顔を浮かべてしまう。
舌打ちをしたアーシャはフィリアを後ろへ下がらせ、男とその仲間達からの視線に鳥肌を立てる。
「その目も体も気に入った、硬い事言わずに遊ぼうぜ」
アーシャの細めた目は、男に鷲掴みにされる自分の胸を捉える。
そして、タイミングよく後ろから携帯のカメラ音が響く。
「アーシャちゃん」
「あ?」
「証拠、撮っといた」
後ろを向けば、携帯で一部始終を撮っていたケフュレスとサーバルが居た。
やる事は一つとなり、アーシャは笑みを浮かべながら拳を握り締めた。
「ゴハアアア!!」
拳が振り抜かれた事で、男は店の外へと吹き飛んでいった。
仲間がやられた事で、残りの連中はアーシャへ敵意を向けて来る。
武器を取りだされる前に、アーシャは瞬時に制圧を終えた。
「たく、こういうのばっかだな」
早く帰る事だけを考えるアーシャの脳に、電流のような物が走る。
「……ッ、フィリア!ケフュレスの後ろに隠れてろ!」
「は、はい!」
妙なプレッシャーを感じ取ったアーシャは、フィリアをケフュレスへ任せた。
同時に、壊れた扉から一人の男が入って来る。
「女ぁ、さっきはよくもやってくれたな!」
出て来たのは、アーシャが最初に殴った男。
頬を腫らす彼は拳銃を片手に、外の何かへ雑に手招きする。
「早くしやがれ!ノロマ!」
怒鳴り散らす男の指示で出て来たのは、ゾンビのように歩く小柄な兵士。
スラリとした金属の四肢を見せつけるその兵士は、ハーフマスクで隠れた目をアーシャへ向ける。
トランス状態かのようにボーっと立つ兵士は、首を傾げる。
「(なんだ、アイツは……気配が感じ辛い)」
「……あの人、まさか」
「……」
目を細めるフィリアを横目に、アーシャは咄嗟に手斧を装備。
「標的はあの黒髪だ!やれ!!」
男の指示に従った兵士は、膝を曲げて座るような姿勢を取る。
次の瞬間、兵士の立っていた位置は爆散。
気付いた時には、アーシャの眼前に居た。
その手にはナイフが握られ、剣先はアーシャの首筋に迫る。
「ッ!?」
アーシャは寸前で腕を掴むと、一拍遅れて床が陥没し、辺りに衝撃波が走る。
体に血管が浮かび上がる程の力を出すアーシャは、必死に兵士を抑え込む。
「な、何だ、コイツ!?」
空いている手で手斧を握り締めたアーシャは、兵士へと一撃を叩きつけようとする。
「この野郎!」
その一撃は途中で阻まれ、アーシャの手首は兵士の手に握られる。
魔力による身体強化を行っているというのに、全く押し切る事ができない。
「チ、鬱陶しい!!」
あえて兵士を引き寄せたアーシャは頭突きを入れ、怯んだ兵士の頭部へと蹴りを入れた。
首の骨をへし折る確かな手応えが足に伝わって来る。
その一撃で兵士は壁を破りながら店外へと吹き飛ばされ、猫のような動きで着地。
再び動かれる前に、アーシャは拳銃の照準を向ける。
「やるぞ!」
「ああ!」
両隣に立ったケフュレスとサーバルも、アーシャと共に銃撃を開始。
多種類の銃弾による同時攻撃は、兵士の体に次々風穴を開ける。
ダメージでバランスを崩した兵士は、片膝をつく。
「……テメェら、ナイス」
しかし、椅子の陰に隠れていたフィリアは表情を強張らせている。
椅子の足を握る力を強めると、身を乗り出す。
「まだです!マスター!!」
「何!?」
すぐにアーシャは斧を構え、兵士をその目に捉える。
目に飛び込んで来たのは、糸に引っ張られるように立ち上がる兵士の姿。
先ほどの蹴りで折れた首は、骨を露出させたままぶら下がっている。
「……なんだ、コイツ、傷が」
受けた銃弾は流血と共に排出され、傷口も徐々に塞がった。
折れている首は、両手で頭ごと曲げて強引に戻し始める。
ぎこちない動きで向きを戻し、位置の微調整を行う。
兵士は痛がる素振りすら見せず、首を数回曲げると何事もなかったように落としたナイフを拾おうとする。
「何だコイツ、気持ち悪い」
落ちているナイフを取るのに苦戦する兵士を前に、アーシャは思考を巡らせた。
あれだけ動き、撃たれても、感じ取れる魔力は上下していない。
その特徴に気付き、アーシャは身体を震わせる。
「……はい、旧タイプですが、私と、同じです」
いつの間にか隣に来ていたフィリアは、兵士と目を合わせないように話した。
「自意識すらなく戦う、汚れたマリオネット」
「……」
フィリアの返答に息を飲んでいると、兵士は足のホルスターから拳銃を取りだす。
腕をフラフラと上げながら、アーシャへ照準を着ける。
赤い光が銃口内で収束する光景に、アーシャは背筋を凍らせる。
「あ、クッソ!」
アーシャだけでは無く、サーバル達まで即座に回避運動をとった。
その嫌な予感は現実となり、兵士の取りだした銃から赤い粒子ビームが放出。
壁や店の備品を焼きながら穿ち、射線上の物を貫く。
「チィ、何て物を」
改めて着弾地点を見ると、逃げ遅れた客の一人が下半身を無くしながら倒れ込んでいる。
射線上にある壁は洩れなく融解し、向こうの建物まで見える。
「(当たったら即死だな)」
嫌な想像に体を震わせたアーシャは、斧を再度握り締める。




